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裏切りだらけで難解だが、真摯に「平和論」へ向き合ったガンダム【「新機動戦士ガンダムW」】

「新機動戦士ガンダムW」は、A.C.(アフターコロニー)195年を舞台に、宇宙世紀とは独立した地球と宇宙コロニー間の対立が激化した時代の物語です。

地球圏統一連合(United Earth Sphere Alliance)による軍事支配とその背後で暗躍する秘密結社「OZ(オペレーション・メテオ)」に対し、コロニー側の抵抗勢力は、5人の少年たちをパイロットとする5機のガンダムを地球に送り込みます。

あらすじ

物語は、主人公ヒイロ・ユイの地球降下から始まります。彼は自らの任務に忠実に行動する冷徹な少年であり、他のガンダムパイロットたち(デュオ・マックスウェル、トロワ・バートン、カトル・ラバーバ・ウィナー、張五飛)とともに、OZおよび地球圏統一連合に対して戦いを繰り広げます。


宇宙世紀シリーズとは異なる見どころ

ガンダムが5体登場するという斬新な設定

宇宙世紀シリーズでは主に1機のガンダムが主役として描かれましたが、本作では5人のパイロットがそれぞれ専用のガンダムを操ります。この設定は、キャラクターごとの個性や思想を反映させた戦いを描くための手法であり、各ガンダムには特徴的な武装や戦闘スタイルが与えられています。

ニュータイプ論が存在しない

宇宙世紀シリーズではニュータイプという、人類の進化を象徴する概念がストーリーの核でした。しかし、『ガンダムW』ではそのような超人的能力に頼らず、あくまで「人間同士の戦い」として描かれています。

ガンダムを英雄視しない冷静な視点

宇宙世紀シリーズでは、ガンダムは時に英雄的存在として描かれることがありました。しかし、『ガンダムW』では、ガンダムそのものが持つ象徴性や破壊力に対して、より批判的かつ現実的な視点が描かれています。

美しいビジュアルと音楽の融合

本作は、90年代のアニメらしい美麗なキャラクターデザインと流麗なメカアクションが特徴です。加えて、重厚なストーリーに合った音楽も魅力で、オープニングテーマ「JUST COMMUNICATION」やエンディングテーマ「RHYTHM EMOTION」は多くのファンに支持されています。

平和論に真摯に向き合う物語

  • ヒイロ・ユイ:任務の遂行に徹する中で、人間性と平和への責任を自覚していく。

  • リリーナ・ピースクラフト:非武装平和主義を掲げ、戦争のない世界を実現しようとする。

  • ゼクス・マーキス:武力による平和を追求するが、その限界を悟る。

  • トレーズ・クシュリナーダ:戦争の中に人間性を見出すという独特の哲学を展開。

感想

ガンダムシリーズも色々見てきたがOVAまで見ても一番難解なガンダムだった。ストーリー解説を探しても雑にまとめている人ぐらいしかいないのは異様である。全部見た人もよく分からないからだとか。確かに。

ほとんどの人はよく知られてるらしい例の一話から序盤数話以降で見続ける人も少ないと言われる。

作品全体としては序盤はまだ見やすい方なのだが主人公ヒイロが急に退場して別人になったヒイロが出てきたりもするので、一話のコメディでがっかりする人より、突飛もないややこしさにいつの間にかついていけない人が多いからというのも本音だろう。自分も中盤以降はしんどかった。

ただその裏には独自の世界観から宇宙世紀シリーズを否定して、ゼロから戦争と平和論の思想を議論していく真摯な話になっているからともいえる。

それまではガンダムと言えばNT(ニュータイプ)をリーダーに据えた統治を理想とするNT論が主軸に描かれていたが、今作は対立する強化人間などの概念すらもほぼ取っ払う。

後半から数多に乱立していく派閥にも老若男女が均等に入り組んでいき、「人間」として見た戦争の論理から、強者と弱者の平和論など多様に分かれていく。兵士としての平和論はもちろんであるが、今作はコロニーと地球の住人による「民主主義」が5機のガンダムの戦闘力と立場に大きく影響していくのも新しい。

そしてその民意がどのような扇動によって動かされるかも描かれている。

そうして話が進むにつれガンダムは英雄視されなくなるどころかストーリーとしても脇役になっていく。

これによって対立組織側のOZの内部分裂や地球側の財団が台頭して更に分裂するなど情勢状況としてはかなりややこしくなるが、話としてざっくり見るとガンダムとしては珍しく民意を主題に置いた話だったと思う。

多用な平和主義を軸にして、ないものにはできない民意をいかにして納得させ戦争の根絶を図るかを最後まで真摯に争っている。特にゼクスは非核武装を理想とした結果、地球に総攻撃まで目論んでいく「逆シャア現象」まで図ってしまう。

平和のための戦いが極端な思想までも引き起こす複雑さもリアル寄りだが、大きな平和論として、民間人にまで如何に自分事として戦争を考えさせるかという話に終始していたのは少し異質だった。

自分も全てを理解できたわけではないがいい部分を挙げるならそうした複雑かつ泥臭い過程を見せられるところかもしれない。

しかし各戦争の歴史から踏まえたのであろう多様な議論の過程を、それぞれのキャラクターに全て詰め込みすぎたのも最大の難点であった。多様な主張が返って物語の混沌だけを生み出してしまい、最後まで進展や変化がよく見えてこなかった。

OVAになると最終話から地続きになり、再びガンダムが主人公の立ち位置に戻って脅威を破壊し平和を取り戻す。何気にきれいな平和を宣言して終わるガンダムも記憶にないが、多彩なキャラクターら個々人が真摯に向き合っていた分説得力はある終わりであったのも良かった。

ストーリーもOVAから綺麗な対立軸で急に見やすくなるがそこも結局ガンダムの存在感が大きくなったからともいえるのも複雑に思わせる。

結論

難解だったストーリーのポイント

  1. OZの内部抗争
    トレーズ・クシュリナーダを中心とする旧来の戦士道精神派と、ロームフェラ財団の無人兵器推進派の対立。

  2. コロニー住民の葛藤
    コロニー全体が地球圏との戦争を望んでいるわけではなく、平和を求める一方で、自由を勝ち取るための武力行使が議論されます。

  3. 個人の信念と組織の命令の対立
    主人公たちやミリアルド・ピースクラフトの行動には、個人の信念が強く反映されており、それが組織的な戦争の進行としばしば矛盾します。


ややこしすぎた情勢ストーリーの流れまとめ

序盤:地球圏統一連合 vs コロニー独立勢力

・地球圏統一連合の支配
始まりは、地球圏統一連合が地球と宇宙コロニーを軍事力で支配。統一連合は「平和維持」を掲げていたが、実態はコロニーに対する抑圧的な政策を取っていた。

・コロニーの反抗:ガンダムパイロットの地球降下
統一連合の支配に対抗するため、秘密裏に「オペレーション・メテオ」を計画。これにより、ヒイロ・ユイをはじめとする5人の少年がそれぞれのガンダムで地球に降下し、連合の軍事施設を攻撃。

中盤:OZのクーデターと地球圏統一連合の崩壊

・OZの裏切り
地球圏統一連合の内部には、ロームフェラ財団の支配下にある秘密組織「OZ」が存在。OZの指導者トレーズ・クシュリナーダは、統一連合を掌握するふりをして、ガンダムの脅威を利用しつつ連合に対するクーデターを実行。

・地球圏統一連合の崩壊
クーデターにより、統一連合の主要な指導者たちが次々と排除され、地球の支配はOZに移行。ここで、OZとガンダムパイロットたちの戦いに焦点が移された。

中盤後半:OZ内部の分裂とコロニー側の動揺

ロームフェラ財団 vs トレーズ派
この対立がOZ内部の分裂を招いていく。
OZの主導権を握るロームフェラ財団は、戦争を効率化するために無人兵器「モビルドール」の大量生産を進める。しかしトレーズ・クシュリナーダは「戦士の誇り」を重んじる思想を持ち、モビルドールに反対。

コロニーの混乱とホワイトファングの台頭
地球側の内紛により、コロニー側も動揺。一部のコロニー住民は独立を求めて過激化し、新たな勢力「ホワイトファング」が誕生した。ホワイトファングは、宇宙独立を掲げてOZと地球に対抗する急進派で、ミリアルド・ピースクラフト(ゼクス・マーキス)が指導者に。

終盤:ホワイトファング vs OZ / 地球連合 / ガンダムパイロット

・ホワイトファングの反乱

・ガンダムパイロットの介入

終局:戦争の終結と平和への一歩

・リーブラの破壊
宇宙要塞「リーブラ」が地球への脅威となる中、ガンダムパイロットたちは協力してこれを阻止。

まとめ

『新機動戦士ガンダムW』は、宇宙世紀シリーズとは異なり、戦争と平和を人間ドラマとして描き出した作品。多様なガンダムやキャラクターたちの葛藤を通じて、「平和の実現には何が必要か」を問い続ける姿勢が、今なお色褪せない魅力を放っています。

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