私は狼じゃないけれど
読書、ではない。
私がここで紹介したいのは映画だ。
しかもお洒落な洋画ではない。
「おおかみこどもの雨と雪」
子供向けのアニメーション映画だ。
私がこの映画に惹かれたのは、主人公達が男女の年子姉弟であること。ただそれだけだった。
私にも、一つ下に弟がいる。
映画の中で仲睦まじく成長する姉弟が、思春期を迎えそれぞれの道を模索し、進んでいく。その途中で衝突することも何度かあり、特に弟が姉をボコボコにするシーンでは胸が傷んだ。
自分と全く同じだったから。
まあ私がこの映画を気に留めたきっかけは、このくらいにして。
私がこの映画で特に好きなシーンがある。
映画のクライマックス、弟であるおおかみこどもの雨が、人ではなく狼として生きることを決意するシーンだ。
晴れ渡る早朝の空をバックに、山頂に佇む雨に
母である花は一言叫ぶ。
「しっかり生きて」
涙が出た。
このしっかりは、きっと
学力で、社会的に、一人前として、恥ずかしくない。
そんな人生を歩みなさい。
そんなことでは無い。
自分の信じた道を、しっかり進みなさい。
の、しっかりだ。
私が、一番欲しかった言葉だった。
母は、私に人と同じ様に、足並みを揃えて、
普通に進むことを徹底させた。
人並みの高校に進み、人並みの大学に進み、そこで恥ずかしくない様な企業に就職する。
別に嫌ではなかった。母の事も大好きだ。
しかしそんな母は、
人並みではない弟が大好きなのだ。
高校では下から一番目の成績でグレてヤンキーと化し、しかしめちゃくちゃに努力して高校を出て直ぐに消防士になった。
小さな頃から私より手のかかった弟が、母は大好きなのだ。
私が静かに座って絵を描いている時よりも、弟が新品のラルフローレンのシャツを泥でめちゃくちゃにした時の方が、嬉しそうだった。困った顔をしていたけれど、たしかに嬉しそうだった。
だから私は今になって思う。
母が喜ぶ様に、期待に応えられるように、褒めてもらえるように。
進んできた私には、自分らしさがあるのだろうか。
「どんな貴方でも、それが貴方よ。自分の思ったように進みなさい。」
私が、一番欲しい言葉。
狼の子にむけられた言葉。
私にも、いつかそんな言葉をかけてくれたらいいな。
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