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個展レポート(みぞえ画廊 福岡店, 2023)
みぞえ画廊 福岡店での個展が終了しました。アーティストとして独立して3年目。地元・福岡を代表する大手コマーシャルギャラリーでの檜舞台。その成果を作品解説を中心にレポートします。
個展の概要
概要
塩井一孝 展「光の呼吸」
会期 2023年8月19日(土)- 9月3日(日)
場所 みぞえ画廊 福岡店(福岡市中央区地行浜1-2-5)
営業時間 10:00 − 18:00(会期中無休)
「記憶の光を手にする」それが塩井一孝の創る《写光石》だ。柔らかな色彩をまとった大小様々な石を指差して「実はこれ、写真なんです。」と話す塩井さん。聴くと、自然の美しい光を求めて山や海、寺社などを訪ね歩き、撮影した木漏れ日や水面の写真を和紙にプリントし、石に貼り付けて制作していると言う。その場の体験や感動を永遠のアート作品にしているのだ。そして今は、他者が撮影した写真をも作品の素材とし、写光石で世界を繋ぐプロジェクトを実践している。本展では、過去にない大型作品や新作を発表します。進化を続ける塩井一孝の世界を、是非ご観覧ください。
みぞえ画廊 阿部和宣
塩井一孝|Kazutaka Shioi
1987年宮崎県生まれ、福岡県宗像市在住。福岡教育大学大学院修了(教育学修士)。場の特性を具現化することをテーマに作品を展開している。2022年に作品《写光石》が世界遺産・宗像大社に奉納された。
助成:宇久美術基金
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個展会場について
みぞえ画廊|Mizoe Art Gallery
2008年に福岡で誕生し、2012年に田園調布にて東京店を開設。以来九州と東京のアートシーンを結ぶ存在として、そこから世界へ日本の優れたアートを発信するギャラリーとして活動の場を広げてきました。コンセプトは「流行や時代に左右されない、上質な作品、作家を提供する」こと。時代が変わっても人に感動を与え続ける事ができる、普遍的な価値を持ったアートを求め続けます。アートを鑑賞する環境にもこだわりを持った店づくりを展開。福岡店、東京店ともに郊外の閑静な住宅街に位置し、広い敷地と緑あふれる庭園に囲まれた一軒家を利用したギャラリースペースが特徴。東京店においては本格的な和風建築の邸宅の中で各部屋に合わせた作品展示が愉しめます。都心の喧騒の中では得難い、豊かで静かに流れる時間の中で作品と向き合う事ができる環境を実現しています。
また、福岡店では2020年既存のギャラリースペースの隣に新館をオープン、2つの趣の違ったスペースで特色ある企画展、常設展でのコレクション展示を開催しています。
〒145-0071東京都大田区田園調布3丁目19-16
〒810-0065福岡県福岡市中央区地行浜1丁目2-9
Tel 092-738-5655
Email info@mizoe-gallery.com
https://artfair.asia/exhibitors/mizoe-art-gallery/
作品解説
1. 写光石
本展のメインである《写光石》シリーズ。作品名は光を写した石という意味の造語。実はこれ写真作品なんです。「えっ?!これが写真??」というリアクションが必ず返ってくるこの石たち。いろんな大きさや形、色の石がありますが、これは僕が絵の具で色を付けたわけではなく、「写真」を石に貼り込んで一つ一つ作っています。石の表情をよく見ると、水面の紋様や木漏れ日の光の玉、山の稜線がぼんやり写っているのがお分かりいただけると思います。
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忘れたくない記憶の光を
握りしめていられるように。
心をしめつけた、あの感動を胸に刻みたくて撮った写真、のはずなのに。気忙しい日々に上書きされ、ただの一度も見返さないまま、カメラロールの中で眠りこけてしまう、その前に。
「写光石」とは、人が撮影した風景写真、その“記憶の光” を、アーティストの塩井一孝が石に定着させる、オーダーメイドのオブジェです。また作品は、写真・エピソードとともにウェブ上にアーカイブされ、誰もが自由に購入可能。つまり作品をオーダーした人にとっては、作家とのコラボアートが世の中にシェアされる参加型のプロジェクトでもあるのです。
これによって、自分自身の“記憶の光” を握りしめられる、お守りになるだけでなく。世界中の人と繋がる可能性も秘めている。写光石を通じ、時空を超えた、明るくやさしいコミュニティがつくられていく、そんな未来を夢見ています。
https://www.kazutaka-shioi.com/sha-ko-seki
当初は僕一人で日本各地の光の写真を撮って周っていたのですが、2年前から「他の人が撮った写真」も写光石にするプロジェクトをスタートしました。皆んなで「写光石の世界地図」を作る参加型のアートプロジェクトです。
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ガンジス川や富士山、スコットランドの湖やNYなど、世界各地の光が集まっている。
随時オンラインショップでオーダーを受け付けている。
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Googleマップで作成。ピンをクリックすると写光石、風景写真、エピソードが展開される。
今回の個展では僕が撮った写真で作った写光石と、他者が撮った写真で作ったものとを混在させた展示をしました。白いテーブルの上に写光石の世界地図を作り出したのです。作家由来と他者由来の作品を同じまな板の上に乗せることで、両者の垣根をなくしたのです。ヒエラルキーのないフッラトな世界。私もあなたも同じ、「この世の全ては一つである」というワンネスの概念を可視化しているとも言えます。
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(左:著者/中央:写光石の購入者/右:写光石の元になった風景写真の提供者)
2. 写光石の標本
小さな写光石を木製のパネルにグリッド状に並べた作品。その様子が標本のように見えることから《写光石の標本》と名付けています。2021年に世界遺産・宗像大社に奉納した作品と同じ大きさのものを再制作して展示しました。奉納式を執り行った日の宗像大社の境内の木漏れ日の光を使用しています。
ぜひ奉納式の様子を下の動画でご覧ください。
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部屋に飾りやすいサイズとしてF10号サイズの作品も制作しました。
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3. 大型写光石
本展の目玉、大型写光石。重さ2トン(!)、宗像大社の木漏れ日の光をまとっています。準備期間1年。ギャラリーから制作費を捻出していただいたことで、こうしてお披露目することができました。「個展で過去最大級の写光石を作りたいんです!(お金はないんですけど…)」というアンリーズナブルな要望を快諾していただいたみぞえ画廊の阿部さん、本当にありがとうございました!
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これまで手のひらサイズが多かった写光石。こうして人力を超えたサイズになると神々しさを感じずにはいられません。石はその大きさによって人に与える印象が違ってくることを実感しました。これ、写真も同じことが言えますよね。写真がプリントするサイズによって印象が違ってくるあの現象です。同じポートレートでもL判と八つ切りでは迫力が違います。これと同じ現象がこの写光石でも起こっていることに気づきました。
ちょっとここで厄介な問題が。実はこの写光石、屋外の太陽光に当たり続けると見るみるうちに表面が褪色(たいしょく)してしまうんです。屋内で保管・鑑賞する分には5年経っても明から様な褪色は見受けられませんが、外となると話は別もの。表面のカラーはインクジェットプリントのインクなので、直射日光にさらされ続けるとあっという間に色が変わってしまうのです。
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しかし、この褪色の過程を作品のコンセプトとしてしまおうというのが本作の裏テーマ。時間が経つと見た目が徐々に白っぽく変化していくこの作品。それはまるで色味を帯びた固有の光が、世界のオリジンである太陽の白い光に戻っていくかのよう。そのように見立て、考えることはできないでしょうか?
そう、これは写真の物理的特性の一つである褪色現象をネガティブに捉えるのではく、作品生成のストーリーの一部にしてしまうことでネガをポジへ価値観の変革をしてしまおうという作戦なんです(!)。
すると、この作品なんとなく東洋哲学や仏教の死生観とリンクするような気がしてきました。そう輪廻転生です。今、僕らは別々の魂に肉体が接続されているけれど、死ぬと個々の魂は元の大きな一つの生命体に戻るというような、いわゆるワンネスの概念です。つまり、写光石も最初はそれぞれ固有の光をまとっているけれど、10年、50年、100年と時間が経つにつれ徐々に白く変色し、元の太陽の白い光に戻っていく。そのような世界観をこの作品は体現しているのではないか。この辺りを深掘っていくことで、物理的な褪色現象と思想的な解釈が上手く繋がるのではないかと考えています。神道や仏教、東洋哲学を学び直し、どのようにして作品のコンセプトへ接続するかが今後の課題です。
そして、そのような思想まで理解してくれる人に、この大型写光石を所有していただけたら最高だと思っています。海外のアートラバーなセレブなら10個セットでお庭に置くこともいとわないはず。国内外の美術館やラグジュアリーホテルの屋外空間に常設されることを夢見ています。
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4. Lightscape(木)
写光石の技術、これって色んな素材に応用できるんです。ガラスや陶器、金属、木材、なんならプラスチックにも。だけどそれをやる必然性がなかなかが見つからない。そこでもう一度、なぜ石に光(写真)を定着させようと思ったのかを考えてみることにしました。その結果一つの仮説が浮かびました。それは「僕は写真を光のメタファーであると定義したと同時に、頭の中で(写真=光=神)と結びつけ、直感的にそれを宿すべきマテリアルとして石を選んだのではないか」というものです。光という概念的なものを実体化させるためににふさわしい抽象的なフォルムを石が持っていたという造形的なロジックがあったことも事実。しかし、そのもう一つ上の概念的なところで、僕は石にアニミズム的な素材の宿命を感じたのかもしれない。そう考えると、光を宿すべき素材の取捨選択の見通しが一気に開けてきたのです。
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では、石の次に光という神を宿すに相応しい素材は何か。直ぐ思い付いたのが「木」でした。神社では大きな杉の木や楠木は神様が降りてくる依代(よりしろ)として大切に扱われています。それと同じロジックで木を使用してみることにしました。
選んだのは18mm角の木材。日本の木造建築に使用される基本的なモジュールの一つです。その一本一本に写真を貼り込み、新たな光の風景のカタチを作り出そうとしました。選んだ写真は、これまで旅先で採取してきた様々な場所の光。それらをギュッと敷き並べると、まるで光のカーテンのような、これまでの旅路をレコーディングしたかのような、美しい光のオブジェクトが出現したのです。この新しい光の風景を《Lightscape》(Light:光 + landscape:風景, の造語。ライトスケープ)と名付けました。
そして意外にもこの新作が本展で一番人気に。3点、大中小と制作した全てが完売。新作なのでどう評価されるかドキドキでしたが、このような評判をいただけてとても嬉しくなりました。東京から駆け付けてくださった星読みのyujiさんにも作品を購入していただき感無量(!)。大きな励みとなりました。引き続きこのシリーズはアップデートしていきたいと思います。
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(左:yuji氏/右:筆者)
5. Lightscape(鉄)
続いて鉄で制作した《Lightscape》。実はこれ、前職時代(鉄工所の職人)に制作していたものなんです。6mmの丸鋼を溶接して制作したフレームに宗像大社の光を張り込みました。しかし、作ってみたのはいいものの何とタイトルを付けたらいいのか、はたまた写光石と並んだときにどのような意味付けになるのか整理できないまま自宅で保管していたのです。このタイミングで発表できたのは、「鉄は根源的な物質で、神が宿る素材である」という考えに至ったためです。鉄は地球の重量3割を占め、生物の生い立ちとも密接に関係しています。結果的に前職で培ったスキルと写光石の技術が融合した個人史的な作品になりました。軽やかで構造的なフォルム。スポットライトを当てた時の影の造形も本体と連続性があります。いつかラグジュアリーホテルのエントランスなど大きな仕事に展開してみたいです。求む、建築家コラボ!
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(ご購入希望の方はお問い合わせください!)
6. Lightscape(コラージュ)
絵画用の木製パネルに写真をコラージュしたものです。僕はどちらかというと具象よりも抽象画を好み。マークロスコやエミリーウングワレー(アボリジニー)の絵が大好きなんです。ということもあり、写光石の技術を応用して平面作品を作ることにしました。森の光と海の光。水彩画のような淡い色調の平面作品が出来上がりました。
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7. Light Cells
光の写真をグリッド状にカットして式並べた作品です。デジタル写真をPCのモニターで拡大していくと最終的にこのような格子状の模様にたどり着きます。そのイメージを目指して制作しました。
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8. Dialogue
これまで発表したことがない、いわゆるザ・絵画です。コットン(綿)にアクリル絵の具を水で薄く溶いたもので描きました。「描いた」というより「作った」感覚に近いのは立体出身だからかも。光や水との対話を画面に定着させたようなニュアンスです。写光石シリーズとは違い、自分の体の動きが絵の具や水という物質的な素材とダイレクトに結びつき、不可逆な痕跡として色や形が目の前の画布に記される瞬間は実にエキサイティング。久々の感覚にドキドキしました。
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まとめ
独立して3年目、ここ一番の檜舞台。「これでコケたらどうしよう、実は作家に向いてなかったらどうしよう、ちゃんと働いた方がいいのかな…」会期が近づくにつれ、そんなプレッシャーで頭がいっぱいになりながら、とりあえず手を動かして作品を作っていました。そんな不安もいざ個展が始まるとどこへやら。画廊スタッフの皆さんをはじめ、個展に遊びにきてくれたお客さんと話しているうちに「やっぱりやってよかった。この道で頑張ろう!」という気持ちが沸々と湧いてきたのです。
今となっては人生のステージが一つ上がった感覚。兎にも角にもこうして作家活動に邁進できているのは両親や家族のお陰様さまです。特に妻さま。そして子供たち。いつもありがとうございます(ぱんぱん)!そしてご先祖様にも感謝。どうせやるからには世界中から個展のオファーが来るような一流の作家になりたい。その辺は山羊座らしく真面目に断崖絶壁を登る所存であります。皆々さま、今後とも応援いただけますと幸いです!
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