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暗黒大陸編復習 全容を理解している地球人は存在するか?
最新巻(38巻)を読んでの復習・考察はこちら
ついに一話分のHUNTER×HUNTERのネームの完成をTwitter更新で成し遂げた冨樫先生。しかも休載なしで。快挙である。
そうなるとこちらも本腰を入れて休載前の展開を復習せねばなるまい。そう考えてコミックスを読み直して気付く。なんだこの難解な漫画は。
いや、難しいことは知っているのだ。難しすぎて一部のファンが離れたなどと世間で言われるほどなのだから(Twitter開始時の盛り上がりから見ても、離れたファンなどいるのか?という感じだが)。
しかし、難解さの桁が違った。「世間的には難しいかもしれないが、生粋のHUNTER×HUNTERオタクの俺には理解!」と思っている結構なオタクですら、理解を放棄して雰囲気で読み進めてしまいたくなるくらいには難解である。そういえば前回連載時、「話が大きく動かなかったから、次の再開時に読み込もう」と思って理解を諦めたことを思い出した。
「字が多いから」などという理由では説明がつかない圧倒的難解さ。なぜここまで難しいのか、3つの観点から考察することで、これまでの展開を復習したい。
①話の軸が無軌道【今は何編なの?】
ハンター試験編、GI編、蟻編など、これまでは、各パートのテーマは比較的わかりやすかった。
しかし、現在のパートはそうはいかない。軸となりうるテーマが複数あるため、分解してテーマを考える。
「暗黒大陸編」(BW号全体)
こう呼ばれることが多いが、そもそも今主要キャラクターが乗っているのは、暗黒大陸手前の仮想新大陸到着を目的としている船(BW号=ブラックホエール号)である。BW号内は5層に分かれており、様々な思惑が異なる層で絡み合い、取返しのつかない複雑さになっている。
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そして、本格的な暗黒大陸を目指した航海は、このBW号が、目的地である仮想新大陸に到着した後の話になると思われる。「暗黒大陸編」というには暗黒大陸は遠すぎるのだ。
後に述べる「王位継承戦編」とか「ヒソカvs旅団編」と表現するほうが、現在の実質に近い気がする。
ただし、「暗黒大陸編」での冒険を主目的とするジン、パリストン、ビヨンドという最強格メンバーも、顔見せというレベルではなく登場しており、パリストンとビヨンドの指示で、協専ハンター達は王位継承戦の護衛としてBW号に乗っている。更に、ビヨンドの監視と暗黒大陸での成果獲得を目指す十二支んは、BW号の治安維持という形で、後述の2編に絡んでいる。
「暗黒大陸編」という大きな枠の中で他のエピソードが絡みあっているというイメージだろうか。
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「王位継承戦編」(BW号第1層)
現在は、BW号の第1層でカキン国の14人の王子が繰り広げる王位継承戦の最中である。主役として動いているクラピカの目的は、末っ子王子のワプルの護衛(護衛に加え、王位継承戦から離脱できればベスト)であり、クラピカがそのために四苦八苦する様子がメインで描かれることが多い。
もちろんクラピカの本当の目的は、ツェリードニヒが所持する仲間の緋の目の奪還であるが、護衛で手一杯の今、緋の目のことを考える余裕はない。
この王位継承戦は、第1層で行われているものの、3~5層を取り仕切るマフィア3組【シュウ=ウ一家、エイ=イ一家、シャ=ア一家】の組長は、カキン王族と血縁関係にあり、継承戦に絡み始めている。
第3王子のチョウライがシュウ=ウ一家の組長に「頼んだぞ・・・父さん・・・!」などと言い始めたときには情報が処理しきれなくて頭がおかしくなりそうだった。チョウライは正当な王子だから継承戦に参加しているんでしょ?ナスビ=ホイコーロが父なのは前提じゃないの?
「旅団vsヒソカ編」(BW号第3層~5層)
並行して、3層~5層ではBW号のどこかに潜むヒソカを探す旅団vs手段を選ばず旅団を潰すことに決めたヒソカという大きな軸も動いている。
魅力的なキャラの多いHUNTER×HUNTERの中でもカリスマ的人気を誇る幻影旅団vsヒソカの全面抗争。ファン垂涎もののテーマ。旅団複数人対ヒソカのバトルなどが起ころうものなら涎が止まらない。
そんな中、旅団がヒソカの足取りを掴めずいたところ、マフィア3組のうち、超過激派のエイ=イ一家が3層以下で暴れていることから、
①旅団
BW号のどこかに潜んでいるヒソカを人手をかけて探したい
②シュウ=ウ一家とシャ=ア一家
ルール無用のエイ=イ一家を潰したい
この両者の利害が一致した。そのため、旅団がエイ=イ一家殲滅に動く代わりに、シャ=ア一家がヒソカの所在を探すという形で一応の協定が成立している。シュウ=ウ一家もエイ=イ一家を潰したい思惑は同じだが、旅団との接触はまだない。
一つの団体を潰すくらい何とも思っていない旅団と、そのようにルール無用で強大な力を振るう旅団に危機意識を持つマフィアの対立構造も面白い。
とにかくエイ=イ一家がヤバい奴らで、こいつらのせいで3層以下はめちゃくちゃ。旅団は情報収集のため、こいつらを潰そうとしている、くらいに理解しておけばとりあえずはOK。
ミザイストムが旅団の乗船に気付き、クラピカに伝えるか迷っている場面が既にあることから、十二支んと旅団も今後は無関係ではいられないだろう。
無軌道に絡み合う軸
以上のように、それぞれ1本の軸とするのに十分なストーリーが複雑に絡みあっているというのが、難解な理由の一つ目である。
この3つの話が別々に進むならまだしも、同じ船の中で、
①暗黒大陸編のキャラクターである十二支んを介して、「暗黒大陸編」と「王位継承編」と「ヒソカvs旅団編」がリンク
②マフィア3組を介して「王位継承編」と「ヒソカvs旅団編」がリンク
③パリストンとビヨンドを介して「暗黒大陸編」と「王位継承編」がリンク
という訳の分からないことになっている。
超簡易版として作成した画像が、超簡易とはいえないややこしさ。難解なのも当然である。
②キャラの多さ【キャプ翼はサッカー漫画です冨樫先生】
キャプテン翼の中でも、最も顔と名前ありキャラクターが多く現れたシリーズを、キャラ数で越えるのが裏目標と冨樫先生が話しているのは有名な話。
これを聞いたとき僕は目眩がした。キャプテン翼はサッカー漫画である。ベンチキャラがピッチの芝の状態を考察するのに何ページも使うような漫画ではないのだ。
1人1人の心情描写にしっかりコマを割くこの漫画でその人数が出たら、ネームの神といわれる冨樫先生とはいえ、キャラ紹介だけで数巻使うことは必至。数巻使うということは数年待つということだ。僕は現世での完結を諦めた。
実際に、目標に違わぬ人数が登場している。14人の王子、十二支ん、旅団が既に10人超えのグループ。更にマフィアが3組、王子には多数の護衛。
人数だけでも覚えきれないのに、その関係性も恐ろしく複雑である。
例えば、王子につく護衛には5種類の立場がある。「5人」ではなく「5種類」である。1種類につき1名割り当てるだけでも70人(往時によっては割り当てのない役割もあるのでそこまで単純ではないが)。
マフィア3組も後から出た割にはかなりの重要な立ち位置らしく前回の10週連載は彼らの掘り下げに使われた面が大きい。エイ=イ一家については「23人」と明言された上、全員の顔が既に明らかになっている。
職場の同僚の名前さえ、接点が少なければ忘れてしまうのだ。これだけのキャラがいて、しかも③で述べるようにほぼ全員賢いのだから難解に決まっている。
③賢すぎる【シマヌについていくのがやっと】
HUNTER×HUNTERのキャラは非常に賢い。
それぞれが、自分が持っている情報から論理的に思考した上で行動を選択する。俯瞰視点の読者と違い、一部の情報しか得られないキャラは、誤った推理をすることもある。
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誤った推理をさせるためには、作者は、各キャラクターの把握している情報と知的レベルを正確に理解していなければならない。全員が推理により正しい答えを出す様を描くだけでも十分大変なのに、時には誤ることも織り込んで、上述した超大人数のキャラを動かしているのだ。冨樫先生は化物以外の何者でもない。
時には1ページを文字で埋め尽くして丁寧に思考過程を描いてくれるため、そのキャラがどう考えたかは分かるのだが、念能力の設定や複雑な人間関係も含めた思考は、一読しただけでは理解しがたい。
作中最も高次元にいるジンやパリストンの思考など、読んでも煙に巻かれている気分である。それが「意味が分からない、つまらん」ではなく「やっぱりこいつらは格が違う。かっこいい」と思わせる絶妙な匙加減なのがまたすごい。
賢さの分析
賢さの程度を把握するために、知的レベルを五段階に分けてみる。
キメラアント編でいうと、ユピーが星1、ピトーが星2、プフが星4。ゴンは極限時のみ星5になることがある特殊型。
★☆☆☆☆
理屈より感情を優先し、行動が合理的ではない。
例)サレサレ、タイソン、フウゲツ、カンザイ、ウェルゲー(ビスケに惚れたやつ)、5層のチンピラ
★★☆☆☆
持っている情報から、論理的に考え、状況と能力に応じた適切な行動を選択できる。
※このレベルで既に十分に賢い
例)ルズールス、カチョウ、シマヌ、ビル、他に入らない十二支ん、シャ=ア一家の下っぱ
★★★☆☆
星2に加え、自分に不足する情報を理解し、それを補うために行動、推理できる。相手(単体)の行動に影響を与えることを踏まえた言動を行う。
例)ハルケンブルグ(星4かも)、ツベッパ、ベンジャミンの私設兵全般、ミザイストム、チードル、オウ=ケンイ
※チードルはいつも当て馬にされているが、相手が悪いだけで選択は賢い。
★★★★☆
自身の知力、協力者の能力を駆使して、不確定な情報も視野に入れて数手先を見据えた行動をするとともに、自らの言動により、相手(団体)の行動にも影響を与えることができる。
例)クラピカ、ツェリードニヒ、ベンジャミン(部下の知恵も含めて自分の知恵としている。)、クロロ(ヨークシン編を踏まえて。)
★★★★★
他の登場人物の思考を全て把握又は超越し、自分が望むままに場を動かすことができる。
例)ジン、パリストン
さて、問題は読者側の知力であるが、僕はせいぜいシマヌレベル(星2)である。星2のキャラのモノローグは一読しただけで理解できるが、星3になると、読み返さないと理解できない。星4になると考察は次回までの宿題になったりする。星5は、読者からも分からないように描写されている面もあるので仕方ない。
星2レベルのシマヌは、複数ある話の軸のうち、「王位継承戦編」の、第14王子につく従者の1人である。設定から見た目までどう見てもモブ。
それでは、このシマヌの発言を見てみよう。
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ここから3ページに渡りシマヌによる分析が続く。この分析は、クラピカに的確だと評価されるレベル。十分賢い。当時、感想サイト等で「シマヌできる」的なコメントが多かったことは記憶に新しい。いや、新しくはないか…
しかし、ここでシマヌが行っているのは、あくまで元から知っている情報から論理的に考えるというだけのことであり、ハンターキャラとして特別なことをしているわけではないのだ。
他作品では、星3で十分知将と呼ばれるレベルだと思う(賢ければ面白いというわけではないので、他作品を貶す意図はない)。「こいつの発言は慎重に読まないとな」というレベルの賢さのキャラが毎回長台詞で話しているというのが、難解な理由3つ目である。
まとめ
以上を踏まえると、難解なのも当然である。関係性が複雑で、人数も多い中、星3、星4のキャラが頻繁に駆け引きを行っているのだから、理解を一度放棄する程度のことは無理からぬことといえる。
そして、何より恐ろしいのが今回の記事程度の分量ではアウトラインしか説明できていないことだ。とりわけ「王位継承戦編」については、一切説明していないに等しい。
更に、こんな文章を書きながら、ジン達が今どこで何をしているか分からないし、ツェリードニヒの時間跳躍が念獣によるものなのか本人の能力なのかも分からない。マフィアが旅団をどう扱いたくてどう危険と思っているのかも、今回読み返してようやく分かった。パリストンの真意など想像すら及ばない。
なので本記事のタイトルに至ったのだ。全容を把握している地球人がいるとは思えない。だが、ヱヴァンゲリヲンしかり、浦沢直樹作品しかり、全容が分からないくらいのほうが面白いというのも確かである。
今後も、冨樫先生から与えられる考察パーツを元に、考察を楽しんでいきたいと思う。