祖国
日本の外に住んだことがなかったころ、考えつきもしなかったことが
祖国としての日本への想いである。
先日Uber のドライバーさんはアフガニスタンの出身だった。紛争中の祖国をいったんパキスタンに逃れ、そして最終目的地のカナダにやって来た。
私が日本出身だと知って
日本のような国だったら移住など考えないけれど
アフガニスタンに留まる選択肢は自分たちにはなかったと話してくれた。
国にまた戻りたい気持ちはある?
私のこの問いは多分、愚かなものだったろう。
全くない
彼は即答した。
以前
空港までの深夜ドライバーを頼んだのは湖畔の家のご近所さん、ケニア出身の女性である。
その時、クリスマス休みには子供たちを連れて自分の母国に行くのだと、待ちきれない様子だった。
褐色の肌に真っ赤なイヤリングとルージュがよく似合って
祖国へ思いを馳せる彼女に、私は自分の心を寄せた。
ライブラリーで知り合った戦争避難民ウクライナ出身の友人たちは祖国に戻る選択肢は残されているのだろうか。
戦争はいまだ終わる気配を見せない。
仕事が見つからなかったら彼女たちはどうなるかしら?
追い出されるだろ~ね
湖畔の家の間借り人、カナディアンの彼が言った。
移民に関していつも怒っている彼である。
実は今、長年東京で仕事を頼んできたアメリカ人友人の日本滞在のためのビザ更新がスムーズに進んでいないことがわかった。
3年おきのワーキングビザ更新だが、何年も渡って問題がなかったのにここに来て新しい書類提出を求められたという。うちではもうレギュラーの仕事を頼んでいないので私には何もできない。
日本でいうところの年金受給される年齢に達している彼は
年寄りを追い出そうとしているんだ、日本移民局は
そう言った。
真相を知らないが
もし書類提出に手間取っている間に彼のビザが切れようものなら、日本にある銀行口座も凍結されるという。
申請中は古いカードにその旨が明記され在留期間は延長されるが、なぜこのギリギリの時期になるまで申請手続きをしてこなかったのか。ビザ有効期限は4日後に迫っているというではないか。
私なんてカナダ永住権の更新の時は書類の不備がないよう何か月も前からナーバスになったものだ。
ちなみに、こういった書類の提出に、提示されたリストチェックの順番に書類を並べ不備がないのは決まって日本人らしい(笑)
しかしビザが更新できなかったとしても少なくとも彼の場合は祖国アメリカに戻るという選択肢があるわけで。
また、ドイツに14年住んだ大学時代の友人は今、日本帰国を考えているという。パートナーはデンマークとドイツのミックスでどうやらドイツよりも日本がお気に入りらしい。
でも
私の知るカナダと違って、
外国籍の人が日本で暮らす困難さを考えるのである。
そもそも国の成り立ちが違うのだから比べるものでもないけれど。
現時点で言う日本の移民受け入れとは
季節労働者や技能者の短期あるいは仮の滞在であって
国籍を取って社会を共に形作っていくという
移民ではないわけで。
たまたま
その年アメリカ合衆国の市民権を取った人々を招いてのセレモニーの動画を見たことがある。その証明書を頭上に掲げて示すニューアメリカンたちの喜びの顔が印象的だった。
しかし先進国の多くは移民対策に頭を悩ませている。
カナダでもしかり。
統計を見るとその増加が半端ない。
どおりで。
湖畔の田舎町にもその波は押し寄せ、医者の絶対数が足りない。医療システムは崩壊しかかっている。なんせ現時点で湖畔の町に医者がいないのだから!
そんな国々の移民問題を横目に
地球上まれにみる
ほぼ単一民族、単一言語、単一文化の日本。
せっかくだからずっとそれを守っていければいいのにと思う。
そもそも日本は移民を受け入れるシステムが構築されていないし
住む人々も生活の中において肌感覚的な実体験がない。
それは内だけを見て外を見ないということではなくて
外を見て
いかに日本の中では人々の価値観や考えが同様かということに気づいた方がいいとは思うけれど。
深い赤地に金字の
使い慣れたパスポート
故国日本に戻るという選択肢が私には残されている。
でもカナダ湖畔の家を永遠に離れるということになったとしたら
私の心が張り裂けそうに痛むことも
分かっている。
この記事が参加している募集
日本とカナダの子供たちのために使いたいと思います。