![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/68905982/rectangle_large_type_2_b2d6bf96dadd123741a6f6f5177d5107.png?width=1200)
サくら&りんゴ #90 にしんとわたし
リンドグレーンのやかまし村のこどもたちシリーズが大好きである。
わたしの名は、リーサ。名まえをみればわかるでしょうが、女の子です。いま七つですが、もうじき八つになります
大塚勇三氏の翻訳でそう始められている、スウェーデンの田舎町に住む女の子の話。
わたしとおないどし!
当時夢中で読んだ。あまりに好きすぎて何回も何回も読み返して、今でもこの出だしを覚えているほどである。
さてその物語の中に出て来る食べ物で7歳のわたしを捉えたのが
上等のあぶりソーセージ、ショウガ入りクッキー、そしてニシンのサラダ。
これらがいったいどんなものか当時の私には想像できなかったのである。
まだお話を読めるようになったばかりの年齢で、あぶりソーセージは”あぶら”ソーセージと読んで、ショウガ入りクッキ―はママのお手伝いでする擦りおろしたショウガとクッキーが結びつかないし、ニシンは真っ黒に煮詰められたものしか私の頭の中になかったのである。
ニシンの酢漬けが美味しいと知ったのは、吉祥寺にあったスウェーデン料理のお店で(残念ながらなくなってしまった)。すっかり大人になってからのことである。自分でも作りたいと、私の中のイメージとしては柵になったお刺身のニシン、を探すもそんなものはスーパーで売っていない。それどころか東京ではほとんどニシンを見かけない。たまに丸ごとがあっても他の魚と比べて格別に多い骨を考えると、自分で酢漬けを作るまでには至らなかった。
そのままニシンは忘却の彼方へ。
そして次に出会ったのはカナダで。
夫が買ったMarinade Herring
![](https://assets.st-note.com/img/1640944549063-0SmDTXoV4t.jpg?width=1200)
冷蔵庫の隅にそう書かれたガラスジャーが入っていた。いったい何?と思っていたらこれこそがニシンの酢漬け。
夫はマヨネーズを付けたパンに玉ねぎやレタスと一緒にはさんだニシンサンドイッチを作っていた。そのサンドイッチも気に入ったが私はさらにアボカドを添えたニシンの酢漬け丼も考案した。日本米よりむしろ粒が長いサラリとしたライスで食べるとおいしい。オリーブオイルをトロリと落としたり。
![](https://assets.st-note.com/img/1640954330187-u0hTdhLc5Y.jpg?width=1200)
ニシンの酢漬けとアボカドで、英語で言うところのマキ(maki)あるいはカリフォルニアロールも作った。
![](https://assets.st-note.com/img/1640954496802-wOQ7atG41j.jpg?width=1200)
さて一方、京都から奈良に引っ越した後も京都まで通勤していた父は、京都で昼ににしんそばを食べたとわざわざ母に話していたことがあった。その後私は東京に引っ越し、京都の新幹線乗り場まで見送りに来た父と京都駅でこれまたにしんそばを食べたことがあった。そんなことが重なって、いつの頃からか東京に居て私が作る年越しそばの定番がにしんそばとなった。このにしんは小さいころから頭にある煮つけられた黒いにしんである。
そうだ、年越しににしんそばを作ろう
今朝思いついてスーパーマーケットに行くも、にしんの煮つけを置いていないというではないか。しかしみがきにしんならあるというので、こうなったら自分でにしんの甘露煮を作るしかなくなった。
![](https://assets.st-note.com/img/1640956667832-hr0iK3gwKX.jpg?width=1200)
何が何でもにしんそばを食べたい。
そんなわけで人生初、土鍋でコトコトにしんの甘露煮を作った。味が濃すぎるのが苦手なので甘さも辛さもかなり控えめに。時間はかかったが自分で甘さ辛さを調節できてこれはこれでよかった。そう思いながら最後にみりんをまわして照りをだす。
![](https://assets.st-note.com/img/1640954993170-VD9VW2BQ3j.jpg?width=1200)
おそばは懐かしの調布深大寺そばをなま麺で。
![](https://assets.st-note.com/img/1640955423588-vmvHnkIk8a.jpg?width=1200)
日本の塩分にも慣れてきて、あ~やっぱりこのおだしの味がいいかも~と体が確実に日本に戻った感じがする。
人間は泣くのとたべるのとをいっぺんにはできないようになっているらしいですよ
帰国して隔離があけてすぐ、大好きな江国香織さんの本を買った。帯にこう書かれていて思わず手に取ったのである。
ああ、そういうことだったんだ。
今でも悲しくなると食べることを忘れている。食べられないわけではない。泣くことに力を取られすぎて食べることに興味を失くしてしまうのである。
でも東京に戻って、人々がレストランの前に列を作っているのを見たり、どこどこの何々が美味しいなど、食べ物の話題をたくさん聞いたりすると、私はもう遠くを見なくなって、ああ、なんて平和で穏やかなんだろうと、なんて幸せなんだろうと、すると私のおなかが空いてくるのである。そして食べたい物をまた取り戻すことができるのである。
ひと時悲しみや寂しさを忘れて。
これが私とにしんの物語(笑)。
にしんが食べたい気持ちを引き出す役目をはたしてくれるとは、ニシンのサラダが想像できなかった7歳の私はもちろん考え付きもしなかったけれど。
実際のところは、にしんの甘露煮よりニシンの酢漬けの方が好き。
いいなと思ったら応援しよう!
![ながつきかず](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/29218130/profile_15b8241aee3fc19954e35e89fe88337e.jpg?width=600&crop=1:1,smart)