未来を蝕む ”もぐら叩き”の組織マネジメント
前置き
圧倒的熱量で立ち上がった企業が拡大とともに文化や強度が薄まり”大企業”になっていく
誰もがうまくいってると思っていた組織が実は広報力とそれにつられた人の集合体だった…などなど
偉大な組織に至る道はまさに死屍累々
偉大な組織、まして偉大であり続ける組織なんて世の中に存在しないのではないかとも思います
それでも世界でわずかな企業だけがそこに到達する狭き門があるとしたら、それは誰からも共感を得る綺麗な物語によって開かれるものではなく、多くからは共感されない誰かの狂気や偏執がこじ開けるものなのではないか
このnoteは過去たくさんの挑戦と失敗を繰り返しそれでもまだ門の入口さえ視界に入らない中でなお門の向こうを見るための試行錯誤、その一部を切り取ったものです
万人に向けるものではありません
綺麗な物語が好きな方は不快に感じればページを閉じていただきたいです
あるべきを実現する上での狂気とHardthingsに自ら苛まれようとする方に少しでも何かが届けば良いと思いnoteにします
組織についての問い
組織のマネージャーにあなたの組織について質問します
・全員が各々の立場で組織の文化醸成や問題解決に責任を持ってますか?
・あなたのワンレイヤー下のマネージャー(候補)は会社とメンバーの双方に対し誠実で高潔であり、組織の次を担える人材ですか?
・あなたはメンバーに伝えるべきことを率直に伝えてますか?配慮という名で、迎合・妥協しメッセージを歪めたり希釈することはないですか?
・今の組織は最高で仮に0から再組成する時は今のメンバーでやるべきですか?
多くの場合に組織は自分で0から作ったわけでもなく、全部にYESと断言することは難しいですよね
では最後に簡単な問いを
・時間軸の中でこれらの問いにYESと答えるための道筋を描き実現に近づけていますか?
マネージャーが本質的に強い組織を作ることを目指さず、表面的に顕在する問題や不満に対処し続けるマネジメントを”もぐら叩き”と呼びます
もぐら叩きとは何か
上述の通り組織に表出する問題や不満をもぐらと呼び、その対処をもぐら叩きと呼びます。
組織運営は次々と様々と問題が起こりますね。メンバーの不満はその代表的なもの。やりがいがない、異動や業務変更したい、忙しい、ルールが曖昧、給与が低い、上司が同僚が他部署が〇〇、etc…。日々起こるこれらの声に対処しつづけるマネージャーは多いのではないでしょうか。
もぐら叩きの代表例はメンバーにケーキを配ることです。
それはそのままの意味でもあり、メンバーの不満を聞きそれを取り除くように努力することでもあります。
ケーキを配ることは時に重要です。配るべきケーキもあるでしょう。しかし短期的にケーキを配りもぐらを叩くことが必要でも、長期的にはもぐらの出ない状態を目指し作り出していくことが重要です。
組織サーベイのスコアが低い時、マネージャーは経営陣や人事からスコアを上げるように言われることがあります。簡単なのはメンバーの話に耳を傾け要望を叶えることです。しかし、0から理想の組織を作る時に叶えるべき要望はどれだけあるでしょうか?この時にケーキ配りを武器にもぐらを叩けば、もぐらは出ていくとケーキをもらえることを学習してしまう。悪循環です。
我々は表出しているもぐらを反射的に叩くのではなく、本当に解決すべきことなのか?本当に目指したい状態とはなんなのか?を自らに問わなければなりません。
もぐら叩きの罪
ゲームのもぐら叩きは後半になるにつれ難易度があがります。成長企業の組織マネジメントも同様。事業や組織が拡大すれば穴の数やもぐらの種類が増え、加速すれば一度に出るもぐらの数や上下スピードが速くなるといった具合です。もぐらを叩く必要のない組織を作れない場合、成長過程において日に日に高難易度になっていくゲームを行うことになります。
成長する程にゲームの難易度が上る。そのうちマネージャーはもぐらを叩くことで精一杯になり、組織は筋肉質さを失い、いつかそれが事業成長のボトルネックや組織崩壊の導火線となる。カウントダウンは静かにしかし既にはじまっているのです。
もぐら叩きをしている組織は10倍成長に耐えられません。なんとか凌いでも次の10倍成長を考える時には立派な足枷に育っています。もぐら叩きという妥協あり強度のない組織マネジメントは、現状維持の組織ではもしかしたら許されるかもしれない。
しかし、成長を志向する企業においては未来を蝕む「敵」なのです。
もぐら叩きはなぜ起こる?我々の敵の正体
未来を蝕む敵を生み出しているのは誰か?
その組織の責任者たるマネージャーであり、我々HRであり、経営者です
下記1~5のような齟齬がもぐら叩きの原因と思います
1.マネージャーの役割や組織に求める水準
原因を一言で言うと、組織に対するマネージャーの責任や期待の齟齬です。
組織マネージャーの仕事は今マネージャーがいる状態でなんとか仕事や組織を回すことでも、今の組織レベルを維持することでもありません。
組織レベルを期毎に上げ、同じ人員でより本質的で大きな課題解決をできるようにすることが求められます。また、そのマネージャーがいなくても自律的にそれができ、フリーアップしたマネージャーは新たなミッションや組織を持つ。この連続が組織マネージャーへの要求だと思います
この共通認識が持てないと、組織の水準はいとも簡単に下がり、また改善のアクションが取られることがありません
下記に続くそれぞれのHOWはあれど、まずはこの点が共有できることが重要です
2.採用水準
あるべき人材の志向・能力・人格の方向性や水準はマネージャーの過去の経験や個人志向によって作られ、異なるバックグラウンドを持つ人達で構成される会社組織においては当然この水準にズレが生じます
採用は常に組織開発の最大の武器であり、諸刃の剣です
組織を望ましい方向に進ませることも、逆により悪い状況にすることも簡単です
採用へのリードタイムを中心として、採用水準を下げる力学は非常に強く働きます。逆の力学が自然に発生することはないと言ってもいいでしょう。ただ経営やHRからの要求と、マネージャーのコミットメントのみがそれをなし得ます
3.コミュニケーションの強度
メンバーがあるべき組織文化にそぐわない言動をした時、それは違うと強度あるフィードバックをしているでしょうか。
往々にして、文化や自己認知にズレのあるメンバーへのFBは大変な労力を伴い得るものは少ないものです。しかし、誰の意見もその人にとっては正しいため、FBしなければ溝は一生埋まりません。あなたは相手を諦め迎合し、間違っていることをFBしない選択をしていないでしょうか。
最近だと組織サーベイの点数UPを会社や人事から指示されることも多いでしょう。その時に目標となる組織水準や文化を抜きに考えては、強度あるコミュニケーションは発生せず、マネージャーはケーキを配り迎合するオプションをとってしまいます
マネージャーは役割であり偉いわけではありません。メンバーの声に耳を傾け向き合う姿勢は重要です。その上で、目指すべき姿と異なることに対しては企業文化の担い手として、また相手のキャリアへの責任を持つ者として「これが理解できないならバスから降りたほうが良い」というメッセージも出せなければなりません
4.時間軸の差
事業部門は月、半期、年など短い時間軸での数値目標を追うことが多いです。例えば短期的な売上等の目標を追う組織において、文化が合わないが業務的には一定ワークしているメンバーに厳しく言ってモチベーションを下げることやそれが退職につながること、採用水準にこだわって採用工数が増大し活動期間が長期化することは組織目標達成にマイナスに働きます。
組織マネージャーには基本的には短期視点の力学がかかります。多くの人には長期の組織強度にコミットするインセンティブはないのです。単年の事業時間軸と5年10年の組織時間軸を両立できるスペシャルなマネージャーがそこら中にいる環境はなかなかないでしょう。だからこそHRがその要求を出し、またそのフォローをしなければなりません。
5.成功体験が生むもぐら養殖業者
1.のマネージャーへの要求の派生として起こるのが、もぐら叩きマネージャーが悪意なくもぐらを増殖する行為です
採用やコミュニケーションで社内にもぐらを増やします
そのマネージャーはもぐらは当たり前に存在するものと考え、
そのマネージャーはもぐら叩きにより過去組織改善した成功体験を持ち、
そのマネージャーは自分の能力を使って組織に価値提供しようと更なるもぐらを採用しケーキを配り悪循環を助長します
1~5をまとめると、組織や採用の水準には下降する力学が働き、組織マネージャーには短期で組織を考える力学が働きます
だからこそ、HRは各マネージャーと自然の力学に逆らい組織を強化する共通の危機感や認識を作ることが必要です
もぐら叩きの予兆
問題はどう見つければ良いでしょうか?
マネージャーが毎期組織レベルを向上し、自分がいなくなっても自立的に成長するより強い組織を目指していないとしたら要注意です。
組織構築への期待やコミットが低かったり、自立組織を目指してない危険な兆候はこんなセリフに表れます
・〇〇(年次、役職、職種)としては十分なクオリティ
・自分がマネジメントしてれば大丈夫
・適度にガス抜きしてれば大丈夫
・足元の仕事はちゃんとしてくれている
一見すると優しいですが、その実メンバーのキャリアにも会社の成長にも本質的には向き合っていなく、放置した結果はいつか強烈な揺り戻しとなります。
もう一つ、組織サーベイのスコアが高くても注意したい時の一つがEmployee Value Proposition(従業員価値提案)のGAPです。メンバーの満足度が高くても、そこに満足を感じて欲しくないポイントでの満足である場合には注意が必要です
もぐら叩きからの脱却
組織の問題を感じた時、すぐに改善施策を取りたくなりますがその前に向き合うべきものがあると思います。それが冒頭の問いです。
カルチャーフィットする採用
インテグリティを重視した登用
メンバー全員が持つ、主体的に組織を良くするマインド
それを求める強度あり妥協なきコミュニケーション
手元の細かい施策で表層の数値や問題に対処するのではなく、
組織を骨太なものにすることに向き合ってみるべきではないでしょうか
悪意をもってもぐらを叩くマネージャーはいません。
マネージャーには様々なバックグラウンドがあり、どこまでいっても未来の理想の姿から見れば現在の我々は寄せ集めです。放っておけば認識は合わなくて当然で、これから目指すべき共通認識を高め続けることが重要だと思います。
そして、日々拡大する組織でそれらを希釈させず、むしろより強度ある組織作りを目指す。終わらない戦いの火蓋を切りましょう。
最後に
昨年、社内で人事のやりがいと辛さを見事に表現した言葉がありました
”誰も理解できない早さでの課題設定はその時は評価されない
事前対応済で問題が起こらなければ評価できない
それでも意志を持ち未来の構造的強みを実現するのが経営者”
時に内部での軋轢があっても、未来の組織や文化という曖昧なものに誰よりも長い時間軸コミットし推進していく。それが経営者であるのなら我々の扱うHRはまさしく経営者の仕事であり、そこに一歩でも近づくために日々努力したいと思います
ありがとうございました!
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