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Google News Labを卒業して独立しました
Google News LabのTeaching Fellowとして働いていましたが、契約が終了したので独立しました。この記事は直近の振り返りと近況報告です。
まず自己紹介です。データ可視化やデータ報道の分野で仕事をしている荻原和樹と申します。筑波大学を卒業後、東洋経済新報社でデータ可視化を活用した報道コンテンツを制作していました。途中エディンバラ大学で修士号を取得しつつ、3D地図・インフォグラフィック・新型コロナのダッシュボードなど様々なデータ報道コンテンツの開発から記事執筆まで行っていました。その後スマートニュース メディア研究所を経て、2022年10月からGoogle News Labで仕事をしていました。
東洋経済とスマートニュース退職時の退職エントリはこちら。
Google News Labでの仕事
Google News LabのTeaching Fellowは、Googleの実施する様々なニュース業界支援の一環として、主に記者・編集者や学生を対象に、データの可視化・分析や情報収集に役立つデジタルツールの使い方など、デジタル面でのレクチャーを行う役職です。
私はAPACチームの日本担当だったので国内の新聞社やテレビ局が中心でしたが、ロンドンで世界各地のTeaching Fellowと一緒に研修を受けたり、オーストラリアやベトナムのジャーナリスト向けにワークショップをしたりと、色々な経験をさせてもらいました。ちなみにトップの写真もロンドンのGoogleオフィス(Pancras Square)で撮影したものです。
この仕事をするにあたって自分自身に課していた目標が、日本のメディア業界にデータ報道やデジタル報道を普及させることでした。日本におけるデータ報道は諸外国に比べると遅れているのが現状ですが、それでも朝日新聞「みえない交差点」が大きな反響を集めたり、日経新聞がOSINTや3D表現技術などのデジタル報道で新聞協会賞を受賞したりと、少しずつ状況も変わってきています。
私自身も、Googleで実施していたレクチャーに加えて、制作したインフォグラフィックが全国紙や地方紙で再現されたり、ワークショップで紹介したGoogle Pinpointを活用して選挙運動費用データベースが制作されたりと、少しは日本の報道のデジタル化に貢献できたのではないかと思っています。
近年のデータ報道に関する私の所感は、秋田魁新報のこちらの記事にもよくまとまっています。
ここからは個人の仕事を振り返ります。
講談社現代新書『データ思考入門』
2023年に著書『データ思考入門』を講談社現代新書より出版しました。データを可視化する上での注意点や考え方について、様々な事例を踏まえて解説した本です。スマートニュース在籍時にウェブ連載していた内容を再構成したもので、Googleに移ってから形になりました。
初めての単著だったので、そのときの知識を総動員しつつ、構成にもかなり長い時間をかけました。
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心残りがあるとすれば、新書なので具体的な技術までは踏み込まなかったことと、白黒なので色の話を大幅にカットしたこと。機会があれば、フルカラーでもっと実践的な内容を網羅するような書籍も書きたいと考えています。
デジタル報道カタログ
2024年7月にはデジタル報道の事例集「デジタル報道カタログ」を公開しました。
近年は日本国内でもデジタル報道の事例が増えてきましたが、デジタル報道はその特性上、言語で検索することが困難です。そこで国内の主なデジタル報道事例を一覧できるようにしつつ、使われている手法や技術にタグをつけて、制作時の参考や類似の事例を探すこともできるようにしました。
Chart Bloom - 誰でも簡単にビジュアルを作成できるツール
最近ではグラフや地図などのビジュアルを簡単に作れるツールもリリースしています。
データ可視化ツールの多くは拡張性や柔軟性を売りとしていますが、多くの記者や編集者が求めるのは「データやタイトルなど内容さえ入力すれば、細かな設定は自動で行なってくれるツール」でした。Googleのレクチャーでもそのような質問を受けることが多かったのですが、条件に当てはまる&日本語にきちんと対応しているツールが見当たらなかったので、自分で作ってみた次第です。
このツールでは詳細なビジュアル設定はあえて割愛し、単位や注記など最低限の項目さえ入力すれば誰でも簡単にグラフや地図を作成できるようにしました。出力される画像は、どのようなデータの内容・分布であっても見やすい&不自然でないように長い時間をかけて設計しています。デザインに時間をかけられない人でも、記事やプレゼン資料として適切なレベルのグラフや地図を手軽に制作するのが目標です。
もうひとつのメリットは「不適切なグラフが作れない」点です。誤解を招かないグラフを作るには軸を無用に省略しない、3Dを使わない、といった様々な注意点があります。それらを人間が注意するだけではなく、そもそも技術的に作ることを不可能にしようと考えました。たとえばこのツールでは棒グラフで原点を省略することができない仕様になっています。
最初はグラフ、次は色分け地図のツールをリリースしました。今後もビジュアルや機能は順次追加していく予定です。
ほか、自分の会社を立ち上げて他社とデータ可視化関連の共同開発を行ったり、日本公衆衛生学会・静岡県庁・共同通信など色々な場所で講演の機会をいただきました。また途中には専修大学ジャーナリズム学科の兼任講師も務めました。
改めて振り返るとけっこう色々やったな、自分。
ポジションクローズと独立
今回、日本におけるTeaching Fellowの役職はクローズされるとのことで、Google News Labでの契約も終了になりました。私が働き始めた当初は6人いたAPACのTeaching Fellowも今は2人まで減っており、時の流れを感じます。
転職も考えましたが、個人で引き受けている仕事もあったので、当面は独立して仕事をすることにしました。せっかくの機会なので、上記のビジュアル作成ツールをさらに拡充させたり、2冊目の単著を書いたり、以前からチャレンジしたいと思っていた仕事に挑戦するつもりです。
仕事のご依頼も引き続き歓迎です。今までは立場&スケジュール上お受けできなかった仕事も今後は対応できるかもしれません。このあたりの経験があります:
データ可視化のコンテンツ企画、制作、開発
アクセス解析などデータダッシュボードの設計、開発
高校生向けデジタル教材の開発
メディア向けデータ分析・データ可視化講座
雑誌・新聞への寄稿、大学の講義(ゲスト講師、非常勤)
もちろん新しい仕事も、X(Twitter)やFacebook、LinkedInなどから気軽にご依頼ください(フルタイムのお誘いも歓迎ですが、時期が少し先になるかもしれません)。せっかくフリーになったので、まったく知らない業種の方とも話が出来ると嬉しいです。
東洋経済オンラインで新型コロナ感染状況のダッシュボードを開発してから、もうすぐ5年が経ちます。そのときには今のような仕事をしているとは想像もしていませんでした。データ可視化もデータ報道も新しい分野であるため、ロールモデルの不在に戸惑うこともありましたが、せめて自分と同じような悩みを持つ人のために、ささやかながら情報発信は続けていきたいと思っています。