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かつて松屋だったマンションへ

よく行ってた松屋の前を久しぶりに通ったら、
いつの間にか新築のマンションになっていた。

松屋がマンションになることってあるんだ。

少し前から、工事してるなとは思ってたけど。
てっきり改装か居抜きだと思っていた。

完全に取り壊して、単身向けらしい
新築マンションに建て替えられていた。

松屋の面影は、もうどこにもなかった。

牛肉を煮込む、あの独特の匂いも。
虚な目で、注文を繰り返す店員も。
閉店後、店前に積まれるゴミ袋も。

しないし、いないし、何もない。

ぴかぴかのマンションがあるだけだった。

行ってたときは、何の思い入れもなかったし。
閉まったときも、特に何とも思わなかったのに。

思い出は、思い出になった途端に、恋しくなる。

なんでなんだろう。

この街の住人で、ここがかつて
松屋だったことを知ってるのは、
もしかしたら僕だけかもしれない。

そう考えたら、急に寂しい気持ちになった。

きっと松屋が閉まるのは
閉店するときじゃなくて。

跡地にマンションが
建ったときでもなくて。

客に忘れられたときなんだと思う。

マンションの前を通るまで、
すっかり忘れていた。

この街に、開いてる松屋はもうないんだ。

そして何も知らないどこかの誰かが、
この新築マンションに住むんだろう。

かつて松屋だったことなど、つゆ知らずに。

「つゆ知らず」と「牛丼のつゆ」が、
かかっていることも知らずに。

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