答えは書店にある。
スタートアップスタジオquantumのクリエイティブ担当役員、川下です。
「事業作家」として、未来の物語を書く中で得た気付きをnoteにまとめています。毎回、コンパクトな分量・内容を心掛けているので、ご興味ある方はさかのぼって読んでいただけると嬉しいです。
前回までは、新規事業のアイデアを生み出す3ステップ(「キロク→キオク→キカク」)について解説し、一見必要がないと思われる情報こそがブレイクスルーの鍵を握っていると書いてきました。
今回はさらに、新規事業のヒット率を上げるとっておきの方法を紹介したいと思います。
皆さんは、開発メンバーとうんうん唸ってやっとこさ捻り出したアイデアを需要性調査(需要があるかどうかを調べる調査)にかけた瞬間、木っ端微塵に打ち砕かれたという経験があるのではないでしょうか。わたしも幾度となくそういう経験をしてきました。
新規事業開発は「千三つ(せんみつ)」としばしば表現されるように、「千に3つしか成功しない」ぐらい難しいとされているので、むしろそういう経験をしている方が自然だと思います。
しかし、最近、現在進行中のプロジェクトでわたしはこれと全く逆の経験をしました。ある手法で事業アイデアを考え、そのコンセプト(事業の構想)や具体案を調査にかけたところ、想定するお客さま候補の方々から驚くほど食いつきのよい反応を得ることができたのです。
その事業アイデアにたどり着いた「ある手法」とは、名付けて「書店ブラブラ」です。
本屋さんで平積み(客の目につくように表紙を上向きにして雑誌や新刊書籍を積み並べる方法)になっている売れ筋書籍傾向から、想定顧客がいま何を求めているのかを読み取るのです。
調査の世界では、よく「顧客インサイト(顧客自身が無意識のうちに抱いている本音」の発見が重要だと言われ、リサーチのプロフェッショナルがあの手この手でそれを探り出そうとするのですが、とはいえ実際にはそう簡単に見つけられるものではありません。事業アイデアのコアになるような強力な顧客インサイトとなればなおのことです。
しかし、その強力なインサイトを目に見える形で並べてくれている場所があります。それが、本屋さんの平積み棚だというわけです。わたし自身、大の本好きだからよくわかりますが、読者は何がしか解決したい問題があるから、わざわざ自分のお金を出して(←ココ重要)本や雑誌を買うのではないでしょうか。
たとえば、
小説:泣いたり笑ったり、感情を揺さぶられたい。エンタメに触れてリフレッシュしたい。
自己啓発書:日頃の不安や悩みを解消したい。成長したい。
ビジネス書:ビジネスに役立つ考え方や実践的なスキルを身につけたい。
健康書:心や体をよりよい状態へと改善したい。または、よい状態を維持したい。
といったように。
実際に都内の書店に足を運んで平積み棚を眺めてみると、最近では「伝え方」や「話し方」などコミュニケーション本が一大カテゴリーを形成していることがわかります。その一方で、ある企業にはギクシャクしてしまっている組織を改善するためのコンサルティングの依頼が殺到していると聞きました。
このように、顧客の問題を解決することで事業が成立するとすれば、事業成功のヒントは、すでに顧客ニーズが顕在化している書店の平積みの中にあると考えることができるのです。
アイデアを生み出すには、1人で深く潜って考える沈潜が大切だと強調してきました。しかし、料理と同じで、良質なアイデアを生むためには、良質な素材を仕入れることが重要です。会社や家でじっとしているだけではなく、顧客インサイトがわかりやすく滲みでいている本屋さんに足繁く通い、やがて大波になりそうな小波(さざなみ)を見つけてみてはいかがでしょうか。
次回は、quantumから新たな新規事業開発手法の発表がありますので、その詳細内容、開発背景、組織体制などについて紹介したいと思います。
イラスト:小関友未 編集:木村俊介
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