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「犬かき力」を鍛える

スタートアップスタジオquantumのクリエイティブ担当役員、川下です。
新規事業開発を成功へと導くために「未来の物語」を書く事業作家として働く中で考えていることを、このnoteに書き留めています。

前回は、「マネー回路」の重要性について書きました。

事業開発において「PoC(Proof of Concept:概念検証)」は大切ですが、仮説検証段階で満点が取れないからと言って、いい評価が得られるまでPoCを繰り返して机上の空論をきれいに磨き上げても、いっこうに実際のビジネスはスタートしません。それなら、どれだけ規模が小さくても収益が生まれる基盤、通称「マネー回路」をつくって、そこに電気が通るかどうか実験してみることが重要ではないか、というわたしの考えを書きました。

今回は、このような回路をつくって通電させるときにどんな能力が必要か、その必要な能力について紹介したいと思います。

近頃は、様々な専門領域を横断することができる人材を育てる学校も増えてきました。しかし、日本では長らく、大学をはじめとする教育機関で、専門の学部を設け、いわゆるスペシャリストを育てるための教育が施されてきたように思います。

それもそのはず。モノやサービスがなかった時代は、生産・販売の効率化が求められてきましたから、それぞれの持ち場でクオリティと再現性の高い仕事ができる専門家が求められてきたわけです。これを水泳に喩えるならば、バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、自由形のように、メドレーリレーでそれぞれの泳ぎを最も得意とするメンバーが、それぞれの持ち場で泳ぐことと似ていると思います。

つまり、かつては、この泳ぎ方を覚えてください。と言われたことに従ってある1つの泳ぎ方を磨いていれば、一生困らないくらい潤沢に仕事があったということです。しかし、モノやサービスが飽和し、よほど高い専門性を持った一部のスペシャリストをのぞいては待っていても仕事が降ってこない今の時代、わたしたちは自ら課題を設定し、それを解決するためにはなりふり構わず、1つだけではなく複数の泳ぎ方を覚えていかなければなりません。

とは言え、すべての泳ぎ方を完璧にマスターするというのは、スーパーマンでもない限り、非常に難しいことです。これと同じで、新規事業プロジェクトのオーナーも、短期間で複数の専門性を完璧に身につけることはできません。事業を生み出し、スピーディに成長させていくためには、やはりある領域に特化した専門家の力が必要になるタイミングもあります。

しかし、力を借りるべき専門家がいたとして、そのメンバーがいるところまで何がなんでも泳いでいく力はが必要です。

その力こそ、事業のプロジェクトマネージャーが鍛えるべきが「犬かき力」です。

自分ではやったことがない領域の力を持った専門家を口説き、事業を共に進める仲間になってもらう。そのためには、その専門家から学び、判断することができるくらいには、その領域について一定程度でも理解しておく必要があります。
つまり、専門家に頼める場所までたどり着くためのけるまで泳ぐげる「犬かき力」が必要なのです。上手なバタフライや、クロールができる必要はありません。それぞれの専門家がいる領域まで、水を飲みながらでも犬かきで何とかたどり着き、彼らの力を借りることで、マネー回路の通電に足りない回路を埋めていくことができるようになるのです。

バタフライ、背泳ぎ、平泳ぎ、自由形。これまでと同じように、泳ぎの専門を持った人は重要な存在です。しかし、領域を横断して課題解決に導くことが求められるこの時代、我々が鍛えるべきは、まさに、未体験だからと言って学ぶことを放棄せずに前に進む「犬かき」の力なのではないでしょうか。

イラスト:小関友未 編集:木村俊介

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