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基本情報
鳥飼茜さん執筆の、ヒューマンドラマ・推理サスペンスマンガ
小学館「週間ビッグコミックススピリッツ」にて、2019年1月から2022年10月まで連載
全10巻で完結済み
賞レース
2020年の第23回文化庁メディア芸術祭で審査委員会推薦作品の一つに選出
2024年の第28回手塚治虫文化賞にノミネート
大まかな紹介
書けない小説家・加治理津子(かじりつこ)。
ある日、かつて最も心を許した男友達・アオイが夢に現れ、
理津子に問いかけた。
「それ ほんとうに お前の人生?」
電話の着信で目が覚めた理津子は、
アオイが自殺したことを知らされる。
昔輝いていた夢、現在の夫婦生活、大切な人の死…
目を背けていた“喪失”の人生が
動き始めるーー
【サターンリターン/土星回帰】
意味…土星の公転周期が約30年であること。
そのことから占星術では、約30年に一度、人生の大きな転機が訪れると言われる。
土星は「凶」あるいは「試練」などの象徴とされ、
この時期に人は困難な局面に立たされやすいと言われる。
導入
過去回想、夜の高速を車で走ってる男女
運転席の男は運転しながら薄ぼんやりと話しかける
なあ、お前なんかキレイな物語書いてよ。書いて。俺が生きてた証拠みたいなやつ。
タバコをすいつつ女性が返す
はあ?なにそれ急に…びっくりするやん
男が返す
だって俺、何も残さないで死ぬから。30になる前に。
教習所で合格を待つ女性、それは前のシーンで車に乗っていた女性
「この人生は、私のものなのだろうか?本当にこれが人続きの『私の人生』なんだろうか?」
場面はかわり、彼女の自宅
「りっちゃん、教習所無事卒業おめでとー!」
同居人の旦那と思しき「史くん」こと野田一史が言う
「りっちゃんが免許取りたいなんて、何事かと思ったよ」
りっちゃんと呼ばれる彼女の名前は加治りつ子
「ちょっと人生を変えたかったんだよ。」
過去回想、屋上から飛び降りようとしているりつ子
手をつないで、必死に止めている史くん
「私は救われた」
夜、トイレットペーパーを買いに行くとコンビニに出かけたりつ子
編集者と思しき人から携帯に電話がかかる
「ご無沙汰してすみません、やっぱり今の所私全然…はぁ、気分転換。」
レストランで編集者と置落ち合う
榊と呼ばれる編集者は、若手を紹介する
「加治先生はじめまして、小出と申します」
榊いわく、異動になるので新担当に引き継ぎだそう
「先生の代表作「午睡(ひるね)の国」読みました。傑作ですが、次もっと凄いの書ける人だと確信しました。」
「例えばあの生っぽいキャラ、モデル居ます?先生に小説を書かせた男、アオイ!」
気だるそうにりつ子が返す
「アレは架空の人物です…完全に。」
「次回作は先生にああいう生々しい人物描写を…」
「先生は止めてください」
榊がとりなす
「小出は週刊誌から来たもんで、空気感が若干なじまないんですが…なかなかアレで気骨在る男なんですよ。加治さんの言葉に火をつけるんじゃないかと、期待しています」
「5年かかって証明出来たんです。タダの一発屋だって。今は平凡な主婦です」
史くんからスマホにメッセージが入る
「あれ?教習ってまだ在るんだっけ?」
「ううん、病院」
「産婦人科?どうだった?」
行ってないが嘘をついている
電車の赤ん坊に「っるさいなぁ」と悪態をつく
自宅、料理を作ったりつ子と史くんと、夕飯
「お医者さんはなんて?妊娠のこと。僕も治療に参加したほうが良いんじゃ…」
「ううん、生理不順直しましょうて漢方薬もらった」
料理の感想を言う
「トマト煮どうだった?ワインでも用意すればよかったね?」
「俺は麦茶でいいよ」
史くんが捨てに行ったゴミ袋をみるりつ子
「ロング缶が4本…麦茶で良いよは嘘じゃん」
嘘なんか別に大したことじゃない、幸せになるのに邪魔に成ったりもしない
と思いつつ、自身は低用量ピルをのんでいる
地下倉庫からワインを取り出しコップ一杯を一気飲みするりつ子
ソファーに転がり、いつしか眠りに落ちる
「広い4車線のどこまでも続く吊橋の上で、裸足で居る自分」という夢をみる
「なか…中島?」回想で車を運転していた男だ
「加治、それほんとにお前の人生?」
「わからへん」りつ子は号泣している
スマホの振動で目覚めるりつ子、目に大量の涙を貯めている
「安藤?久しぶり…てか、何こんな時間に…」
「あはははは!」徐々に大音量になる笑い声
史くんが起きてくる
「りっちゃん、どしたのこんな朝早く大きな声で」
「中島ホントに死んじゃった…あはははは」
笑いながら涙するりつ子
次から次へと、失い続ける。どこまで失っても、この人生は本当に。
感想
サスペンスや推理、ストーリーで魅せて行く「絵のある小説」みたいな作品
この手の作品は「どこをどう話してもネタバレ」なので、ストーリーに触れづらい…
触れなきゃ良さがまったく伝えられないので、ネタバレ上等でいきます
最初、難解ではあるものの、構成自体はシンプルな「推理物「サスペンスもの」だと認識して読んでた
それはそれで、推論や「どうたたむんやろ?」という興味でグイグイ読めた
「どんでん返し」という言葉が在ると思うけれど…
「どんでん返されすぎ」て、床が床かわからんようなるくらい、「最初、そう思わされてたこと」が全く信じられなくなる
終盤に謎解きの帰結点と「年貢の収め時」みたいな舞台があるのだけれど
これを「一話から逆算して書いてた」ならとてつもない構想だし
「アドリブで書いていた」なら、ひっくり返るくらい凄い
登場人物がどんどん増えていく
それも「登場人物の主役を中心に」とかではなく「主要キャラと少し」とかどっかのだれかとちょびっとつながってる感じで出てくる
折り紙の連鶴みたいな「ちょびっと触れてる」感じ
「群像劇」といれば群像劇なのだろうけれど
「青春群像劇」みたいなのとは違う
青春群像劇は「つながりはあるが、一人でもストーリーは進行するし、裏でも時間が流れてて、描写されてない別の話も独立で成り立つ」感じがする
でもこの作品の「群像劇」は、必ず関係者の誰かとつながってる「二人以上の物語」であり、時にもっと集合したり同時多発的に動いてる
基本、描写されてない時はない…と思うがもっかい見直すか
風呂敷を広げる広げる、際限なく広げていく
登場人物も際限なく増えていく
終盤を意識させるところまで増え続けてたと思う
終盤に一応「決着!」的な場面があるのだが
そっから、まだ広げる広げる
結局、最後まで拡張方向で全然たたまなかったんじゃないかな?
だから、最後終わっても「まだまだこの人たちの日常は波乱万丈に広がり続けるんだな」と終わる悲しさを感じさせない
主要な登場人物は、基本的には「何か、どこかが欠けている」
主人公とその旦那は「騙しあいの如く嘘つきあってる」し
脅して弱み握って、異性を食い物にして生きてるヤツもいるし
円満に見えてた夫婦は仮面だし
ある親は露骨にお子に差をつけて贔屓しているし
ある子は贔屓してくる親や、その不満をにじませてる姉に、うんざりしてるし
「欠けてる」「歪んでる」者たちが、その互いの「欠損・歪み点」を接点につながっていく
「弱点を補う」とかではなく「それ(弱点)を接点にして繋がりを構築していく」
この話、導入も謎といてる最中も最後も「自分が不幸だと思ってる人々」へのヒントやエールなんじゃないかな?と思い始めた
最後らへんまで読んでふと「あ、そうなんかも?」と思った
総評
「絵がついた推理・サスペンス小説」のような骨太なストーリーを読みたい人におすすめ
自身が「不幸だ」と思ってる人が「自分の立っている位置」を確認するにもおすすめ
最後までお読みくださり、ありがとうございます!
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