チーム全員で辿り着いたシリーズB資金調達の軌跡
昨日、シリーズBで総額10.55億円の資金調達を完了したことを発表しました。
2016年10月に1人で創業し、3度のプロダクト売却を経て2018年にようやくQast(キャスト)という事業に辿り着いた当初は、エクイティファイナンスの「エ」の字も知らず、シリーズBや二桁億円での調達は遠い未来のことと思っていましたが、気がついたら今回が5回目の資金調達活動。大きなチャレンジを組織力で乗り越え、最終的に目標金額を調達することができました。
この度の資金調達活動を通じて多くの投資家さんにご検討の時間をいただき、本当にありがとうございました。
今回の資金調達活動は、過去5回のファイナンスの中でも最もチャレンジングなラウンドであり、想像を超える忍耐力が必要でした。
それでもやり抜いた先には、これまでとは全く違う景色が見えてきて、調達活動に本気で向き合ってよかったと心から思います。
今回の資金調達の成功の鍵はやはり、私たちanyのチーム力、組織カルチャー、そしてチームメンバー全員のこれまでの日々の積み重ねです。
今回の調達活動の軌跡をお伝えすることで、anyの魅力が伝わり、今後私たちと一緒に働くことに興味を持っていただけると嬉しいです。
ますます難易度が高まる昨今のシリーズB
スタートアップの一般的な生存確率は、アイデアを形にし、シードの資金調達ができる確率が10%、シードからシリーズAが20%、シリーズAからBまでの到達率は20%程度と言われています。つまり、プレシードからシリーズBの到達率はわずか0.4%、10,000社あるうちの40社のみがシリーズBに到達できるということになります。
そもそもこのような確率であることに加えて、外部環境として昨今のシリーズBの資金調達はますます難易度が高まっていると言えます。
メディアでは毎週のように華々しいプレスリリースがシェアされ、そこのみを切り取ってみると数億円以上の資金調達が当たり前に行われているように見えますが、一切そんなことはない状況で、私たちも今回のラウンドでそれを強く実感しました。
anyがシリーズAの調達活動を行っていたのは2022年前半ですが、当時と比べて市場環境が大きく変化しました。世の中が「ゼロ金利の世界」から「金利のある世界」へ移行し、上場株式市場における、特にグロース企業への評価が厳しくなりました。
このような市況変化の中で、上場時や上場後において事業成長は継続しているにもかかわらず株価が伸び悩むケースも多く発生しているため、「類似性のある事業の話は聞いたことがあるが、実際に想定するほど株価評価がされていない」「仮にIPOできても投資リターンの基準値を満たせない」というように、外部環境の影響で投資するご判断を行いづらい状況にあったと思います。
シリーズAではIPOができるかの基準で見られていましたが、市況が大きく変わったこのタイミング、そして本格的なグロースフェーズに入っていくシリーズBは「どのような規模感でIPOできるのか」「その蓋然性はどうか」という観点でよりシビアな判断があったと実感しています。
結果的に新規投資のご判断をいただく難易度は、前回ラウンドよりも格段に高まりました。
一方でマクロトレンドとしては、投資できる金額は世の中全体で増えているため、一部の高成長企業や、シリアルアントレプレナーで過去にExitに成功した実績のある起業家の会社に多額の資金が集まりやすい構図になっていると思います。
そのような状況の中、事業成長速度を更に加速するため「目標10億円」を掲げて、資金調達活動はスタートしました。
調達活動ハイライト
2024年の春からピッチデックや必要資料を準備し、投資家面談を始めていきました。最終的に面談させていただいた投資家さんは数十社となり、多くの方々にご興味を持っていただきました。
しかし、そこから半年以上に及ぶ調達活動は、決して一筋縄ではいきませんでした。
2024年4〜5月:「初回面談で確実に感じた手応え」
5回目の資金調達ということもあり、投資家さんの視点でQastの何を説明すれば初回面談で興味を持っていただけるか、具体的な検討に進めていただけるかの道筋がある程度描けていたこともあり、出だしは非常に好調でした。
特にピッチデックの準備は入念に行い、セクションごとに何をお伝えし、どのような印象を持っていただきたいのか、ストーリーの軸をどこに置くのかを熟考し、面談でのフィードバックや反応から少しずつ磨き込みをかけていきました。
結果的に、ファンド残高やステージ違いなど前提条件によるミスマッチを除き、約8割の投資家さんに初回面談後も前向きに進めていただくことができました。
2024年6〜7月:「シリーズB調達の難易度を実感」
その後、MTGを重ねる中で、やはり選別は進んでいきます。事業実績、プロダクトや市場の可能性、何よりもanyの組織力・実行力を高く評価いただき、本格的な検討を進めていただいた投資家さんも複数いましたが、議論が深まる過程で出てくる論点に対して、私たちとしてもその懸念を拭いきれなかったり、また前述のように市況影響も相俟ってお見送りになるケースもありました。このタイミングで、シリーズB調達はそんなに甘くないことを改めて実感します。
2024年8〜9月:「調達活動のみにリソースを使うことを決意」
プロセスが進む中で、候補投資家さんが減っていくのは当然のことと理解はしていましたが、実際にそのような局面になると日々窮地に追い込まれていくような感覚となり、夏頃は、これまでの起業家人生の中で最も精神的タフネスが必要な期間でした。
この資金調達をしっかり乗り越えなければ、これまで積み上げてきた8年間は全て水の泡になる。足元の事業は明確に伸びている、今アクセルを踏めればまだまだ伸ばせる、この最高のチームでまだ見たことのない景色を目指したい・・・。
この局面を乗り越えるしかない状況で、自分の時間の使い方を見直し、この頃から調達活動以外のMTGやタスクの多くをチームメンバーに託すことを決めました。
それまではプロダクトオーナーとして社内のプロダクト関連のMTGやお客さま商談、採用活動にも時間を割いていましたが、この状況で「調達活動に最大限の時間を使えなかったことが理由で調達できませんでした」は絶対に避けなければいけない。社内全体に「戦時であること」を認識していただき、私のリソースを100%調達活動に使い始めました。
そして作り出した時間の中で、改めて事業の本質的な強みは何か、お客さまへの提供価値、今後の計画達成に向けたプロダクトロードマップや営業戦略、エクイティストーリーの精査など、役員メンバーでの議論を重ねて資料にまとめていきました。
全てを掛けてやり遂げた資料準備、マネジメントインタビュー、担当者とのコミュニケーション。
そして迎えた投資委員会直後、担当者から投資決議の連絡をもらった時には、自然と大粒の涙が溢れていました。
日々のアップデートと立ち位置を越えた本質的な議論
今回の調達活動を振り返る中で、ターニングポイントとなったのが、ある投資家さんの存在です。
そのご担当者さんとは初回の面談以降も毎週のように対話を重ね、MTGの数を数えると合計20回以上。今後の事業ロードマップを達成するための戦略やその具体的な施策、それらを非常に細かい部分まで事業数値と重ね合わせながら議論をしてきました。かなり多様な視点と定量面での議論に最初は戸惑いもありましたが、このような形でanyという会社・事業を深く掘り下げ、力強く進めていただいた投資家さんはこれまでいませんでした。
MTGの数だけでなく、その前後でさまざまな事前準備や分析をされ、しっかりと準備を進めていただいていたのだなと感じています。
毎週1〜2時間のMTGをする中で、初期の頃は本当に次のステップに進んでいるのか、これだけ懸念が多ければ通らないのではないか、と不安と焦りを感じることが多かったのも事実です。
しかし、全てをやりきった今、それまでの過程を振り返ってみると、決して「懸念」が多かったわけではなく、anyの強みや可能性、今後の課題をしっかり見ていただき、一つずつ丁寧に精査していただいていたのだと思います。
このデューデリジェンスによって私たちも日々アップデートされ、そこで得たアウトプットは、私たちがグロースステージに進む中で新たな視点も多く、その後の追加調達で目標金額を集め切るためにも欠かせないものとなりました。
▼アウトプットと得た学び
・全ての数字を整理しそこに意味付けをする
・データを可視化することで新たに見えてくるものがある
・MRR全体がどのような内訳で構成されているのか(お客さまセグメント、新規と既存etc…)、その裏にある強みは何か読み取れるようにする
・今後どのように計画数字を達成していくか(事業マイルストーンとその施策の具体)
・ホリゾンタルSaaSをどのような切り口でセグメント分類すると投資家さんがパターン認知しやすいか
・これまでナレッジマネジメントの最適解がなかった中で、なぜanyが実現できるか
・そしてリニューアルした無敵のピッチデック
投資を受けるためのスタートアップサイド、投資を実行する投資家さんサイドという立ち位置を超えて、どのように事業を伸ばしていくか、anyの可能性をどのように引き出していけるかを本質的に議論できたことが、何よりもありがたいことでした。
anyへの変わらぬ期待と既存投資家との約束
精神的タフネスが求められた夏頃から、やるべきことに再度集中し、最終的に目標金額を集め切ることができた今回の調達活動。
なぜやりきれたのかと問われると、Qastというプロダクトでもっともっと世の中をより良くしていきたい、この最高のチームでそれを絶対に実現したいという想いはもちろんのこと、他にも2つあります。
1つ目は「既存投資家との約束」です。
既存投資家さんとは調達活動の状況を共有するMTGを行う中で、引き続き応援していただいたり、追加投資を意思決定してくださる投資家さんもいらっしゃいました。
その中で、ある既存投資家のご担当者から叱咤激励をいただきました。
なかなか思うように新規投資家さんのご検討が進まない中で、「僕は最初からこうなる(チャレンジングな局面が来る)と思っていました」。
その後も、シンプルでわかりやすくも深みのあるアドバイスをいただきました。
アドバイスの内容は、今やるべきことにフォーカスし、実行した先には必ず成果が見えてくる、というものでした。
そのご担当者は、投資家歴30年以上の大ベテラン。百戦錬磨でこれまでも数多くの起業家のご支援をされてきたのだと思います。
そのご担当者から受ける言葉の重みを噛み締めながら、この調達ラウンドをしっかりとやり遂げる約束を交わしました。
このご担当者のファンドだけではなく、複数の既存投資家さんからも力強いサポートをいただき、今回ラウンドで追加投資を行なっていただくことが決まりました。
古くから応援していただいている既存投資家さんの更なるコミットメントを受けて、「絶対にこの方たちの期待に応えたい」と心に誓いました。
メンバーの日々の積み重ねからしかトラクションは生まれない
2つ目は、「anyメンバー全員の事業貢献」です。
調達活動へのリソース配分に重きを置くことを決めた夏以降、プロダクト開発が順調に進んでいく様子や、大手企業さまからの受注報告を受けて、成長したメンバーを頼もしく見ていました。チームの全員が、しっかりと日々の業務、お客さまに向き合い、成果を出し続けてくれました。
「このチーム全員で、絶対にこの調達活動を成功させたい」。
心からそう思わせてくれました。
今回の資金調達は、活動を始めた春から、全社のマイルストーンとしてシリーズB調達を成功させることを掲げていました。
直接的に投資家さんとコミュニケーションを取り、デューデリジェンスを進めるのは私の役割ですが、シリーズBでの資金調達ともなると、その場のプレゼン能力や気迫だけでは話は前に進みません。
結果指標としてのトップラインはもちろん、それがなぜ伸びているのか、セグメントごとの受注率はどうか、新規受注に再現性はあるか、アップセルがなぜここまで生まれているのか、どのようにお客さまをオンボーディングさせているのか、開発はロードマップ通りに進んでいるのか、技術力はどうか、大企業のリクエストに対応できるのか、今後組織を拡大するための採用チームはどうか、何が組織の強みなのか・・・こういった現場でしか作られない成果や強みを説明する必要があります。
このチャレンジングな環境下でシリーズBを完了させるためには、私だけの力でなく、この時こそチームウィルが必要で、実際に投資決定に至った投資家さんはこの「組織としての実行力」や「企業文化」も含めて高く評価していただきました。
先述のある投資家さんとの議論を通じ、私たちanyとしても「この3つの数字を強調して伝えよう」と決めたものは、以下の3つです。
❶大企業受注実績によるお客さま単価の高さ
❷強力なアップセル力
❸ROIが高いチャネルが検証されており、再現性高く新規受注を積み上げられること
全て一朝一夕では作れない、これまでの6年でお客さまに向き合い続けたからこそ示せる事業としての強みとなりました。
資金調達の過程では、進捗状況やどのような投資家さんがいて、何を問われているのか等を、全社発表の場で都度共有していきました。
結果的にメンバーにとってもこの資金調達を自分ごと化できていたのではないかと思います。
投資家さん各社との面談前には、このように社内での議論や投資家さんとのディスカッションの中でブラッシュアップされた新たなピッチデックを見て、まさにanyのみんなでこれまで積み上げてきたものが明確に成果と強みになっていることを示す強力な武器になっていることを認識し、「何も難しいことはない。これまで皆で積み上げてきた成果をしっかり伝えるだけだ」と思うことができました。
今回の調達活動を通して未上場のスタートアップにお伝えできることが一つあるとすれば、「資金調達に本気で向き合うことは、組織全体を猛烈に成長させてくれる」ということです。
「最後に成功すれば、挫折は過程に変わる」という名言
改めて振り返ってみても、今回の調達活動からは学びしかありません。
新規、既存合わせて数多くの面談の機会をいただき、全力で挑んだ結果、最終的に合計10社にご投資をいただきました。
結果的に投資判断をいただくことはかなわなかった投資家さんからのフィードバック、アドバイスや悔しい結果があったから、最後までやり遂げることができました。
お見送りになった際、気持ちとして「切り替えて次!」の精神は大事ですが、結論とプロセスを振り返り、何が次に活かせるかを考え、モノにすることが重要です。
「最後に成功すれば、挫折は過程に変わる。だから成功するまで諦めないだけ」
サッカー元日本代表の本田圭佑氏の言葉です。
正直今までこの言葉の真意を深く実感することはありませんでしたが、今の自分にはわかります。
あの時に感じた失敗や挫折、でも最後に成功した瞬間に当時を振り返ると全て過程に変わる。
これからも様々な困難な局面が待っているとしても、この感覚を忘れずに1つ1つ乗り越えていこうと思います。
anyのこれから
最終的に今回の資金調達で10.55億円を調達することができ、会社としてはこれまでと全く違うフェーズに突入します。
足元の半年間は、資金調達という大きなコーポレートイベントに向き合いながら、コスト意識を高めつつ、トップラインを伸ばす戦いでした。結果的に従業員1人あたりの売上は、上場SaaS企業の水準からしても遜色ない数字まで高めることができました。
私たちは「チームウィルで、一歩先の世の中へ」をビジョンに掲げ、事業を通して世の中全体にインパクトをもたらす規模を目指しています。
具体的な数字で言うと、5年後の2029年にはARR100億を達成し、その先に国内でTOP10に入るような売上規模です。
シリーズBの資金調達を振り返るのはここまでとし、目線は既に次のステージであるシリーズCに向いています。
今回の調達資金を使って、anyは事業として以下のことを達成します。
・トップラインのYoY200%以上
・2ndプロダクトをリリースしてPMFさせ、Qastとのクロスセルによってお客さまへの提供価値が増幅している状態
・展示会に月2回以上出展し、これまでと同等以上の成果が出せている状態
・経営チーム含めた組織体制の拡充
これらのマイルストーン達成に向けて、共に事業を推進する仲間を猛烈に募集しています。
候補者の方々にとって、これからは個人としても組織としても新しいチャレンジをしながら事業フェーズをダイナミックに変えていけるステージに突入していきます。
最高のチームと、最高の仕事がしたい方のご応募お待ちしております。
現在募集中のポジションはこちらですが、それ以外のポジションも近い将来募集させていただく可能性は十分にあるので、ご興味を持っていただいた方はまずは一度お話しましょう!
最後にダーウィンの有名な言葉
「強いものが生き残るのではない。変化に対応できるものが生き残る」
を言い換えるとすれば、
「変化に対応するだけでなく、自ら変化を生み出すことができる」
環境をanyは提供して参ります。
ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。
もしよければ、最後に少しだけお知らせにお付き合いください。
❶【シリーズB調達記念 スペシャル対談】
日米のSaaSを知り尽くした投資家福井氏と語る、シリーズB資金調達までの道のりとanyの将来性
今回のシリーズBで追加投資をしてくださったArchetype Venturesの福井さんと私で、シリーズBへの道のりに隠されたドラマや、ここでしか聞けない秘話をたっぷりお届けします。
開催日: 2024年12月18日(水) 18:30-19:30 / 形式:オンライン配信
❷コーポレートサイトリニューアル
会社としてフェーズが変わるこのタイミングで、コーポレートサイトをリニューアルさせていただきました。研ぎ澄まされたメッセージとデザインをぜひご一読ください。
❸アドベントカレンダー
本記事を皮切りに、12月はanyメンバーによるnote執筆を毎日行います。
この企画では、今回の資金調達までの道のりだけでなく、
「これまで何を大切にanyは成長してきたのか」
「これからどのように組織と事業を拡大していきたいと考えているのか」
…など、社員それぞれの目線から幅広い内容をお届けいたします!
以上となります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。