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微笑みを紡ぐ


 「 わしは もう死にたいんだ。
              放っておいてくれ。好きなようにさせてくれ。」

語気荒く 高々と叫ぶ声

それは 劇場には足を運んでいただくことの難しい 
ご長寿のみなさま方がいらっしゃる施設へ 

優しくてあたたかい 
春のような空間をみんなでお届けしたい と
 
お稽古を日々 たいせつに重ねてくれている天使たちと 
はじめてまもない
ボランティアの訪問バレエ公演
〈 風の花にのせて 〉の開演まえだった


「 さぁ もう お席に着きましょうね。
   はじまりますょ。」と

職員のお方が にっこりと
その手をひかれようとした そのときに 
フロアー中に響き渡るほどの大きな声をあげ 
おひとりの男性が着席するのを 
断固として拒否されていた

哀しみだろうか 
苦しみだろうか

それとも 怒りなのだろうか ?

その表情は険しかったが

「 すみません。
   お時間なので 
    はじめていただいて だいじょうぶです。」

職員のお方のお言葉に 
プロローグの音楽が流れ 
コンサートの幕は開いた

「 はじめまして。
   ラ・プリマヴェーラ ちいさな春の野原から 
    みなさまにお逢いするためにまいりました。 」

幾多のかなしみも困難も乗り越えられて
目のまえに座っていらっしゃる
横たわっていらっしゃる
人生の大先輩のみなさま方のまえに立たせていただき 
わたしたち ひよっこ に
できることなど なにもないにちがいない

それでも

みなさまのことを忘れていません 
 たいせつに想っています
  いつも ありがとうございます

そんな想いをお伝えできたなら と
勇氣を胸にとびこんだ 
創作バレエの訪問公演
まだまだ たどたどしいおどりに 精一杯の笑顔

その日も ちいさな天使たちは 
しあわせなことに
大先輩であるみなさま方に
はじめから 最後まで あたたかく優しくお見守りいただき 
たくさんの涙と笑顔 拍手に包まれ 幕は閉じた


最後までご鑑賞いただけたかしら?

一時間まえには
席に着くことさえ拒まれていらしたそのお方は 
なにごともなかったかのように 晴れやかに 
満面の笑顔とあたたかなまなざしで 
こどもたちをみつめてくださっていた

あまりにうれしくて 
終演後
感謝の想いをお届けに お近くまで伺うと
優しくわたしの手を握りかえしてくださり

「 最高の笑顔をありがとう !
   来年も また 来てくれるのかい?

        わしも もう一年 
         長生きしたくなったょ。」と 

すてきに微笑んでくださった

施設の外で 職員の方々と
お姿がみえなくなるまで 
いつまでも いつまでも
手を振り 見送ってくださったその笑顔は 
わたしたちの忘れられないたからものとなった

いまも これからも 
ずっとずっと お元氣で
微笑んでいらしていただけますように



哀しみも 
苦しみも 
消すことはできなくても 

あたらしいよろこびを 
いま ここに 
創ることはできる

こころの野原にうまれた
消しても 消しても 消えることのない想いは

この星のうえに

わたしから あなたへ 
あなたから わたしへと

ぬくもりを
ゆめを

希望を
よろこびを

愛を
しあわせを

つないでくれることを
つよく 信じ続けている

あなたと出逢えた

この紛れもない真実が

微笑みというひかりを

みえずとも 紡ぎながら


あなたも わたしも

世界中の平和へと

わたしたちは生かされている


ラ・プリマヴェーラより
 たいせつなあなたに

   ありがとう を微笑みにして

             宮下 和江


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