見出し画像

影山知明『大きなシステムと小さなファンタジー』(クルミド出版、2024年)は、「楽しい日本」の実践の話!?

1.石破総理「加えて」⁉

昨年末、noteに「少数与党内閣の反転。「楽しい日本」。」を書かせてもらいましたが、石破総理の第217回国会(常会)施政方針演説(令和7年1月24日)で、「楽しい日本」のことが取り上げられました。ただ、そこでは、次のように述べていました。

故・堺屋太一先生の著書によれば、我が国は、明治維新の中央集権国家体制において「強い日本」を目指し、戦後の復興や高度経済成長の下で「豊かな日本」を目指しました。そして、これからは「楽しい日本」を目指すべきだと述べられております。
 私はこの考え方に共感するところであり、かつて国家が主導した「強い日本」、企業が主導した「豊かな日本」、加えてこれからは一人一人が主導する「楽しい日本」を目指していきたいと考えております。
 「楽しい日本」とは、すべての人が安心と安全を感じ、自分の夢に挑戦し、「今日より明日はよくなる」と実感できる。多様な価値観を持つ一人一人が、互いに尊重し合い、自己実現を図っていける。そうした活力ある国家です。
 外交・安全保障体制、防災立国、感染症対策など危機管理を確立し、賃上げと投資が牽(けん)引する成長型経済を実現するとともに、人財尊重を基軸として、楽しさを実現できる、バランスの取れた国づくりを目指します。

令和7年1月24日 第217回国会における石破内閣総理大臣施政方針演説 | 総理の演説・記者会見など | 首相官邸ホームページ

「加えてこれからは」…。
堺屋氏は、「豊かな日本」ではなく、「楽しい日本」と言っていると思うのですが、石破総理は「加えて」と言っています。これは、石破総理が入れた言葉なのか、他の政治家の意向か、官僚の意向なのか。あるいは、それほど深く考えられていないのか。パラダイムチェンジにチャレンジするという意味での期待をしていただけに、ちょっとこの「加えて」という言葉に引っかかってしまいました。

昨年末のnoteの関連部分を抜粋して再掲します。堺屋氏の『三度目の日本』についてです。

「敗戦」とは、この価値観が変わることなのだ。「何が美しいか」「何が正しいか」という意識と考え方ががらりと変わることを、世の中の大転換、つまり「敗戦現象」と呼ぶのである。

2度目の日本で目指されたものは、第2次大戦での米国に対する敗戦の経験、日本は良いものは作れたが「規格大量生産に乗り遅れたから戦争に負けた」という考えから、官僚主導での「業界協調体制による規格大量生産の近代工業社会の形成」を経済官僚として推進したと堺屋氏はしています。そのある程度の成果の発表と今後の方向性の提示が1970年の大阪万博だったのです。

官僚は、次の5つの基本方針を持ってました。
①東京一極集中
②流通の無言化
③小住宅持ち家主義
④職場単属人間の徹底
⑤全日本人の人生の規格化

お店での会話、近所付き合いを否定。生まれたら託児所か幼稚園に入り、小中高大と切れ目なく進み、会社に就職し、蓄財し、結婚し、こどもを生み、共働きでこどもを育て、年金に入り、老後はこどもに頼らず年金で夫婦2人で過ごす。それが素晴らしい規格大量生産を実現する会社人間の「天国」の状況をもたらす。楽しくなくても安く手に入る「豊かな日本」が官僚によって描かれたとされます。

そうすると、どういうことが起きるか。官僚により描かれた「天国」への道からはみ出したくない。内向きで、繋がりを否定する。規格を外れることを望まない。「欲ない、夢ない、やる気ない」ということで、イノベーションも生まれにくく「ジャパン・アズ・NO1」から、「ジャパン・パッシング」、そして今日の大きく世界から取り残された経済成長状況、それが第3の敗戦なのであるとしています。

「幸せ」かもしれないが、「夢と楽しみ」がない官僚が作ったとされる「天国」は、本当に幸せか?「地獄の風」を送り込み、その「天国をやめよう」とした方が良いのではないか。そのためには、「楽しみを正義にする」ことが大切と堺屋氏は説いています。

「楽しみ」は何で生まれるか。今までの官僚主導を破壊し、自由化を進め、多様性、そして「上達する」ことを是とする。ロボットとドローン、自動運転そしてビックデータによる第4次産業革命が進む世の中で、「上達する楽しみ」を持たなければならないとしています。

①地方分権(「みんとしょ」は家賃の高い東京より、地方で発展。)
②流通の有言化
(おしゃべりの肯定。話せる図書館=「みんとしょ」。)
③借地借家推奨
(「現代総有」では、「所有権を眠らせ、みんなで利用する」ということで親和性がある。)
④勤務の多様性・副業等の肯定
(「みんとしょ」の棚主は終身雇用でない人も多い。地域の繋がりで「こども選挙」や地域公的活動の展開も。)
⑤人生の反規格化・多様な生き方の探求
(主権者教育、市民アドボカシー)

2番目の日本の官僚主導の5つの基本方針の逆を掲げてみると、私たちが在野でいろいろやって来たこととの親和性が非常に高いことも見えて来てしまいました。官僚は官僚で頑張ってもらいながら、上からの価値観の転換だけではなく、市民レベルで、様々な価値観と葛藤しながら、新しい「何が美しいか」「何が正しいか」を作り上げていくこともやっぱり大切なのだなと認識しました。

note「少数与党内閣の反転。「楽しい日本」。」より抜粋。

「加えて」ではなく、ひっくり返すという印象が強かっただけに、石破総理の「加えて」発言が気になりました。

2.『大きなシステムと小さなファンタジー』は、「ひっくり返す」⁉

「ひっくり返す」と言えば、影山知明氏の『大きなシステムと小さなファンタジー』の本ではないかと思うのです。もう一度、表紙を見ていただければと思います。

文字もひっくり返ってますし、真ん中の三角の絵、背表紙では逆さまですよね。表紙はビル群の上に空が広がる感じですが、背表紙の方ではどう見えるでしょうか。この本についている栞が、実は同じ図柄の三角でして、これで見てみましょう。

ビルの街に隣接しているようにも見えますが、しっかりと木が見えて来ますよね。

全体としての本と影山氏の紹介については、別の記事に譲ります。

私は、影山氏の前の著書『ゆっくり、いそげ』(大和書房、2015年)を読んで、講演会で話を聞き、氏が経営する西国分寺のクルミドコーヒーに行って珈琲をいただいたりしています。『大きなシステムと小さなファンタジー』出版時には、直接、氏からサイン入りの本を購入しました。ということで、語り出せばキリがないので、「ひっくり返す」部分についてだけ取り上げることとしたいと思います。

クルミドコーヒーについて宮﨑が描いた日本画

影山氏は、「まえがき」で次のように述べています。

▲リゾルトパラダイム(成果(リゾルト)を最初に定義して、そこに最短距離でたどり着こうとするもの。)
・・・会社などの組織、教育、福祉、スポーツ(ピラミッド)
▼プロセスパラダイム(成果を事前に定義せず、一人一人の存在、一つ一つの仕事、関係性、偶発性、縁といった過程を大事にし、その行き着く先はオープンに考えるというもの。)
・・・サードプレイス等(樹木)
◇目指すべき未来は、「植物が育つように、いのちの形をした」経済であり、社会ではないか。一人一人の創造的な想像力(ファンタジー)が花開く世界なのではないか。

影山氏が目指す「▼プロセスパラダイム」の説明のところは、石破総理の施政方針演説の「多様な価値観を持つ一人一人が、互いに尊重し合い、自己実現を図っていける。」という「楽しい日本」の説明と重なりますよね。

3.石破総理は、クルミドコーヒーで珈琲を飲みながら、影山氏の話を聞いて「楽しい日本」を探るべき⁉

『大きなシステムと小さなファンタジー』は、470頁ほどある分厚い本ですが、「▼プロセスパラダイム」を大切にした影山氏の国分寺での取組が具体的に書かれていて、かなりすらすら読めました。

そして、出版後のオンライン講演で、影山氏は次のように述べています。
「大きなシステムと小さなファンタジー」というタイトルだが、「「小さな」ままで終わらせるつもりはない。」(2025年1月13日胡桃堂の夕べ)

影山氏は、『三度目の日本』を意識しているかは分かりません。言動等からは意識していないのではないかと思います。でも、2つの本を読み、石破総理の施政方針演説を聞くと、影山氏は、図らずも、石破総理が目指すとする「楽しい日本」の実践を、国分寺の地で行っていて、その試行錯誤を含む取組を本にしたと思えてしまいます。

影山氏も認めているように、今は、「小さなファンタジー」です。これを大きくすると、「楽しい日本」になるのでしょうか。石破総理、国会が始まってなかなか時間がないでしょうが、本当に「楽しい日本」を実現したいのなら、クルミドコーヒーに行って、コーヒーを飲んで、影山氏と話をしたらどうでしょうか。「楽しみを正義とする」のが見えて来るかもしれません。





いいなと思ったら応援しよう!