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【エッセイ】雨の日の歌 〜 「氷雨」の頃に

先斗町のむかし

♪ 飲ませてくだい、もう少し〜、、
こんな歌い出しの氷雨という曲を初めて聴いたのは、40年以上も前、シンガポールのカウンターバーだった。

 一年中真夏の国シンガポールでは、当時はまだカラオケバーは禁止されていた。それでもこっそりと、8トラとか、カセットテープで流れてきたこの曲に合わせて、日本からやってきた駐在員のおじさんが、つぶやくように、涙声?で、唄っていた。

 そのかがんだ後ろ姿の背中には、まるで遠い日本を思い出して、涙しているかのような、哀愁がコッテリと浮かんでいた。
 水割りのグラスを握りしめている遠いまなざしが、東の海の向こうを見つめているかのようで、ああにはなりたくないものと、その時は、密かに思ったものだった。

シンガポールの東の海は南シナ海、スコールが            毎日やってくる

   当時の自分は、まだ24歳くらい、海外での暮らしが楽しくてしようがなかった頃、ホームシックになるヒマもなかった。

鴨川にそそぐ京都の雨

  あれから40年が経って、アタクシもカウンター席にひとり座って、お酒を飲む機会も、年々歳々増えてはきたけれど、隣りの席に座った見知らぬおじさん(元青年)は、今夜もCCRの "雨をみたかい" (Have you ever seen rain) を、ずっと口ずさんでいる。

♪飲ませてください、もうすこし、
   今夜は帰らない、帰りたくない、
 一度でいいから、こんな一言を聞いてみたかった、言われてみたかった、
と思いながらも、ただただ時は流れて、気がつけば、”帰りたくない” の部分を、”帰したくない”、と覚えてしまっている。

バーはやっぱり、カウンター、偶然のとなりあわせ、

   今の年齢になって氷雨を歌えば、あの時のシンガポールの、まだきっと若かったであろう”おじさん”のように、涙いっぱいの哀愁を背中にしょって、歌えるのかしらん、、、、、などと、
ふと、思う、

とりあえず、はいつもの黒ビール、パイントで、、


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