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『サザンクロス ラプソディー』vol.36
レスター・スクウェアの地下鉄駅を出て映画館のほうへ進むと、ロープを張られた道の両側に人だかりができていた。
近くにいた人に「いったいなにが始まるんですか?」と訊いてみると、「いまから英国の皇太子と皇太子妃がやってくるんだ」という。
だったら、俺も一度くらいはおふたりのお顔を拝見してみたい。
俺のまえでは父親に連れられた八歳くらいの可愛らしい女の子が、おふたりがやってこられるのを今か今かと待ち構え
『サザンクロス ラプソディー』vol.34
とりあえず一日のスケジュールを立てることにした。
朝は八時に起床する。それから朝食を食べて、そのあと風呂に入る。
午前十時くらいに市内観光へ出かけ、昼食と夕食は外ですませて、家に帰るのは早くてもだいたい八時すぎとした。
寝起きに煙草を一本燻らせながら昨日の記憶をたどる。べつになにも特別なことを思い出すわけではない。なにを食べたとか、なにをしたとか、どこへ行ったとか、誰と話したとか、そんな取り立て
『サザンクロス ラプソディー』vol.29
「この家の煙突を使えるようにしないと、そのうち煙草の煙でスモークされた人間が出来上がるかも」
ポールは茶目っ気たっぷりにそういって鼻をピクピク動かした。
ポールのこの仕草は、いいにくいことをあえて伝えるときに無意識に出る癖だ。
築百年近いこの家には、いまは塞がれて、使われていない暖炉があった。
俺もユウカも煙草を吸う。
もちろん、二階にある俺の部屋で吸う分については、「好きにしていい」とポ
『サザンクロス ラプソディー』vol.28
「えっ! ユウカ?......」
仕事を終え、帰宅したら、そこにはユウカがいた。ポールとふたり、リビングの長テーブルで、向かい合ってコーヒーを飲んでいる。
「ヤマ、お帰り。彼女、今日からここに住むことになったから」
「えっ! 今日からユウカがここに住むの?」
「ヤマさん、久しぶり。元気にしてた?」
ユウカは立ち上がって、柔らかい微笑みを浮かべている。
久しぶりに見るユウカは、以前にも増