鯱寿典

初めましての方、こんにちは。 よろしくお願いいたします。常連の方、いつもありがとうございます。短編小説、詩などを書いています。 人生って面白い。上がったり、下がったり、行ったり、来たり。飽きることがありません。明日は明日の風が吹く。

鯱寿典

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マガジン

  • 少し不思議な短編小説集

    『風花(かざはな)の恋』、『今日という日にありがとう』他

  • サザンクロス ラプソディー

    1986年から1993年までの、オーストラリアのシドニーを舞台にした一人の日本人の物語

  • 動物が主人公の短編小説集

    『まさみとぼく』、『おれ、カラス』他。

  • 短編小説集

    生まれ故郷にひとり置き去りにした息子に十年ぶりに再会した母は…『waving』。他。

  • 恋愛小説集

    青春。甘くほろ苦い季節。

最近の記事

短編小説『花魁、令和の時代を満喫す』前編

「藤次、なつめはどこでありんす?」 「逃げ遅れて、まだ部屋のなかにいるみたいですぜ、花魁。外には出てねえ」 「なつめ! なつめーっ!」 「夏夢花魁、いけねえ。さあ、あっしと一緒にきてくんな」 迫りくる炎のなか、なつめを探して、二階へ続く階段を上がろうとする夏夢花魁の腕を、若い衆頭の藤次はしっかり掴んで離しません。 「誰かーっ!……」 そのとき、二階から助けを呼ぶなつめの声が聞こえました。 「藤次、その手を離しておくんなんし。後生でありんすから」 夏夢は、なつめ

    • 短編小説『死出の旅は猫と道連れ』

      「あたしよ、あたし! 覚えてる? トシ……」 その声で目が覚めた。一匹の猫が俺の顔を覗きこみながら、ひとの言葉で話しかけている。 「……」 持病が悪化して、入院してから一週間も経たないある夜、意識が朦朧としてきたと思ったら、看護師や医者たちがあわてて駆けつけてきた。 そのうち、ピーッという平たい機械音が鳴り響き、辺りは静かになった。 そして、いま俺はここにいる。 「ダメよ、トシ。立ち上がったら、川に落ちちゃう」 その声にいったん立ち上がろうとした腰を下ろし、その場

      • 『サザンクロス ラプソディー』vol.37

        「あれっ? ツグミ、何やってんのこんなところで!」 ロンドンから戻ってきた俺は、シドニー空港の到着ゲートを出てすぐのところにツグミがいるのを見つけて、思わず声を上げた。 到着の時間を教えていたわけでもないのに、ツグミが出迎えにきてくれたもんだとばかり勘違いして、恥ずかしながら素っ頓狂な声を上げてしまった。 「お帰り、ヤマさん。いまバイト中なのよ」 「なんのバイトなの?」 「へへへっ、内緒」 「そうなんだ」 「久しぶりだね。ヤマさん」 ロンドンで二か月過ごした後、フランス

        • 皆さま、お久しぶりです。 いかがお過ごしでしょうか? 本日より記事の投稿を再開します。 週に1記事のペースで投稿する予定です。 今後ともよろしくお願いいたします。             鯱寿典

        • 短編小説『花魁、令和の時代を満喫す』前編

        • 短編小説『死出の旅は猫と道連れ』

        • 『サザンクロス ラプソディー』vol.37

        • 皆さま、お久しぶりです。 いかがお過ごしでしょうか? 本日より記事の投稿を再開します。 週に1記事のペースで投稿する予定です。 今後ともよろしくお願いいたします。             鯱寿典

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        • 少し不思議な短編小説集
          23本
        • サザンクロス ラプソディー
          37本
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          21本
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        記事

          『サザンクロス ラプソディー』vol.36

          レスター・スクウェアの地下鉄駅を出て映画館のほうへ進むと、ロープを張られた道の両側に人だかりができていた。 近くにいた人に「いったいなにが始まるんですか?」と訊いてみると、「いまから英国の皇太子と皇太子妃がやってくるんだ」という。 だったら、俺も一度くらいはおふたりのお顔を拝見してみたい。 俺のまえでは父親に連れられた八歳くらいの可愛らしい女の子が、おふたりがやってこられるのを今か今かと待ち構えていた。 そして、英国のスパイ映画シリーズの初代俳優として有名な男優が、皇太子ご

          『サザンクロス ラプソディー』vol.36

          『サザンクロス ラプソディー』vol.35

          「日本人はここをイングランドと呼ぶみたいだけど、それは間違ってるから。わたしたちは普通ブリテンと呼ぶの。この国の正式な名称は長すぎるから、『the United Kingdom』もしくは、『the UK』といういい方や表記が一般的なのよ」 キャロルはあきれたようにそういった。 俺たち日本人はこの国をイギリスまたは英国という名で認識している。それで、過去にキャロルの家に住んだ日本人たちは皆一様に、この国をイングランドと呼んだそうだ。キャロルはその度に「それは違うから」と教え

          『サザンクロス ラプソディー』vol.35

          『サザンクロス ラプソディー』vol.34

          とりあえず一日のスケジュールを立てることにした。 朝は八時に起床する。それから朝食を食べて、そのあと風呂に入る。 午前十時くらいに市内観光へ出かけ、昼食と夕食は外ですませて、家に帰るのは早くてもだいたい八時すぎとした。 寝起きに煙草を一本燻らせながら昨日の記憶をたどる。べつになにも特別なことを思い出すわけではない。なにを食べたとか、なにをしたとか、どこへ行ったとか、誰と話したとか、そんな取り立てていうほどのことでもないものばかりだ。 これはいつの頃からか俺の習慣になっていた

          『サザンクロス ラプソディー』vol.34

          『サザンクロス ラプソディー』vol.33

          マユの事務所からいったん家に帰った俺は、とりあえずここでの生活に最低限必要なものを買いそろえるために、最寄りのスーパーマーケットに来ていた。 毎日の朝食は家ですませることにした。 経済的な理由もあったが、外食するにしても、イングリッシュ・ブレックファスト以外で、朝からイギリスでしか食べられない珍しいものがそんなにあるとは思えなかったからだ。 端の棚から順番にどんなものがあるのかを確認しながら、必要なものを次々と買い物カゴのなかに入れていく。 ふと見覚えのある色と形の小瓶

          『サザンクロス ラプソディー』vol.33

          『サザンクロス ラプソディー』vol.32

          「ヤマ、わたしの夫のジェムよ」 「こんにちは。初めまして、ジェムさん。僕はコウヘイ・ヤマガミです。ヤマと呼んでください」 「初めまして、ヤマ。私たちの家へようこそ。私はジェム・バヤル。ジェムと呼んでもらえるかな」 「部屋を見もしないで住むことを決めたのはあなたが初めてよ」 キャロルはそういってすこし驚いていたが、俺としては、まえに日本人が何人も住んでいたところなら、ぜんぜん問題ないだろうと考えてのことだった。 この家のオーナー夫妻は、俺が見上げないといけないくらいど

          『サザンクロス ラプソディー』vol.32

          短編小説 『まさみとぼく ピーチ、猫の国へ再び』

          織田信長が戦国の覇者となりつつある頃、忍者の里、伊賀の国に、最強と噂される、くノ一のまさみと忍猫の桃太の番いがいた。 実は忍猫の桃太は、もとは名うての忍者で、まさみの上忍だった。しかし、南蛮人の魔法使いと戦い、敗れ、そして、いまの猫の姿に変えられてしまったのだった。 織田信長軍の伊賀への猛攻撃のあと、国を抜けたふたりは、宣教師の姿をした、その魔法使いを探し続けていた。 ほどなくして、ふたりは、その相手が織田信長に取り入り、この国に自国の宗教を宣教するということを口実に、

          短編小説 『まさみとぼく ピーチ、猫の国へ再び』

          短編小説 『まさみとぼく 年の初めに』

          いつも仕事が休みの日は、ピーチよりお寝坊さんのまさみが、どうしたことか、元日の朝八時に、キッチンで朝食の支度をしています。 鼻歌交じりで、すっかりご機嫌な様子です。 まさみは、年を越しながらそのままこたつで寝落ち、というのが毎年恒例なのです。 しかし昨夜は、新年を迎えるまえに、「良いお年を!」とピーチにいうと、「まだ年を越してないよ」と引き留める、カウントダウンの歌番組を観ていたピーチを尻目に、歯を磨くと、すぐに床に就きました。 かなり早く目を覚ましたまさみは、うっすらと

          短編小説 『まさみとぼく 年の初めに』

          短編小説『遼之介は..。 年の瀬に』

          「父さん、本当にありがとう。父さんのおかげで、理沙、なんとかノルマを達成できたよ」 「いや、いいって。こちらこそ、ありがとう。おせちもなにもない、寂しいお正月を迎えるところだったよ。これがあるだけで、すこしは気持ちが華やぐってもんだ」 「遼ちゃんのお父さん、本当にありがとうございました」 「いいえ、理沙さんも大変ですね。お役に立ててよかったです。じゃあな、遼之介。 理沙さんと仲良くな。また、いつでもふたりで遊びに来てくれ」 「ああ、父さん。機会があったら、そちらにも寄

          短編小説『遼之介は..。 年の瀬に』

          『おれ、カラス クリスマスの奇跡』最終話(全三話)

          「すごーい。パパ、すごいねーっ! はやーい。見て、パパっ! あれ、チョーきれい」 ふしぎちゃんは、サンタクロースの家に着くまで、トナカイに引かれたソリのなかではしゃぎっぱなしでした。 「チョーきれい」なんてことばを、もし、すずが耳にしたら、ふしぎちゃんは怒られること間違いなしです。 それくらいふしぎちゃんは、初めて目にする光景、そして、ソリに乗って空を飛んでいることに、我を忘れるほど興奮していたのです。 やまちゃん、プチさん、サンタクロース、ふしぎちゃん、そして、はし

          『おれ、カラス クリスマスの奇跡』最終話(全三話)

          『おれ、カラス クリスマスの奇跡』第二話(全三話)

          クリスマスの翌日に、やまちゃんがすずと再会を果たしてから、ちょうど一年が経っていました。 はしちゃんは、ベビーベッドのなかで、「キャッキャッ」と声をあげて笑う、やまちゃんの娘、ふしぎちゃんを、愛おしそうに目を細めて見つめています。 森雪ふしぎ、これがこの娘の名前です。 「ふしぎ......かわいいな、やまちゃん」 「そうだろ、そうだろ。ふしぎは世界一かわいいんだ」 やまちゃんは目尻を下げて、親バカっぷり全開です。 「はしたん......」 「えっ! やまちゃん、

          『おれ、カラス クリスマスの奇跡』第二話(全三話)

          『おれ、カラス クリスマスの奇跡』第一話(全三話)

          やまちゃんはいつものお気に入りの場所、信号機の上から、下を通りすぎる車や、歩道を行き交う人々をぼーっと虚ろな目で眺めています。 「やまちゃん、元気かな?」 その声とともに、やまちゃんの目のまえにサンタクロースが現れました。 その巨体は空中にふわふわと浮かんでいます。 「ああ、サンタのじいさん。久しぶり」 サンタクロースの姿は、やまちゃん以外、誰にも見えていません。サンタクロースが見えないように魔法の力を使っているからです。 「このまえはすまんかったのう。あんなことに

          『おれ、カラス クリスマスの奇跡』第一話(全三話)

          『サザンクロス ラプソディー』vol.31

          「あぁ、お腹いっぱいだ。幸せすぎる」 朝食を堪能した俺は、思わずこんなことばを口にしていた。 バターとジャムを塗ったカリカリの薄めのトーストはパンプレートに、ベーコン、ソーセージ、選べる卵料理、それと豆好きの俺にはたまらないベイクドビーンズなどがラウンドプレートに見た目よく盛り付けられていた。 全体の量はかなり多い。 ミルクティーの温かさが、からだと心に染み渡る。 二日前、暴動が治ったばかりの、粉雪の舞い散る夜のロンドンに、ひとり降り立ったときの、あの心細さが嘘のよう

          『サザンクロス ラプソディー』vol.31