初めてのプレゼン(小学生に向けて)
先日、大変光栄なことに、独立起業して初めてのプレゼンテーションの機会をいただきました。舞台は、私の地元の奈良で小中学生に向けた素敵な探究教室を運営されているナンデヤさんの定期発表会。入居しているBonchiさんのご縁でおつなぎいただきました。
ナンデヤの子たち(小学生から中学生くらい)は、自分のテーマを自分できめて、試行錯誤と軌道修正を繰り返しながら日々活動している。テーマは、動画制作、生き物の飼育と観察、カワイイの探究、石など、実に多彩でした。そして、この探究のプロセスと気づきや発見を披露する発表会イベントを、半年に一度、定期的にもよおされています。
この発表会には、保護者にくわえて、大人のゲスト審査員2名が、聴き手として参加します。私は、ゲスト審査員のひとりとして参加しました(もうひとりのゲストの人と音色さんの取組みも面白そうだった!)。大人たちは、彼らの発表を、主体性、論理性、アウトリーチという3項目で、真剣に評価します。
そして、ゲスト審査員のひとつの大事な役割は、ハーフタイムショーとして、自分の活動を、小中学生と保護者の皆さんに向けて紹介するというものでした。
大人から小学生までの幅広い対象が聴き手であるということで、どんなメッセージを、どういう言葉づかいで届けるか、ぎりぎりまで悩みました。できて数日、実績ゼロの会社なので、なんでもいえるけど、なんにもいえない。悩みに悩んだすえ、相手が誰であったとしても、「自分がいま大事に思っていることを真正面から素直にぶつけよう」、「それが真の真心なのだ」、「言葉ではなく態度で伝えよう」の境地に達し(要するに開き直りか・・・)、僕の悪癖である難しい言葉づかいも敢えてそのまま、体当たりのスピーチをしました。
ということで、エッセンスむき出しの、いま思っていることをそのまま吐き出したスピーチ、こんな内容でした。備忘として。
みなさん、こんにちは。飯田一弘と申します。ニックネームは「あいーだ」で、友達や仲間からそう呼ばれています。奈良から来ました。奈良市の西のほうに住んでいます。皆さんのお子さんと大体同じくらいの年齢の子のお父さんでもあります。
私の職業は、起業家です。Whoopsという会社を経営しています。ちょっと読みにくいですが、「ウープス」と読みます。これまでの経歴としては、金融、つまりお金を世の中に回す仕事を16年くらいやりました。その後、全然違うキャリアに変えて、教育の仕事や研修、つまり大人に教える、子供に教えるといったことを8年くらいやってきました。
その中で、大人に対して教えることもたくさんしていますが、自分の時間の一部をつかって、高校生や中学生を対象に、ビジネスをする体験、起業をする体験を提供して、高校生や中学生がそこから学びを得るというワークショップを足掛け10年くらい続けてきました。時にボランティアで、時に仕事としてやってきました。これは愛知県の名古屋市で高校生対象でやっていたときの写真です。
こういったことをやっていくなかで、これはすごく大事だな、これはめちゃくちゃ面白いな、これをもっと深掘りしたいなと思うようになり、その結果として、つい先日起業しました。ちなみに私、起業して今日で4日目です。小学生の何人かも今日が初めての発表だとききましたが、私もこの会社として初めてのプレゼンテーションをしているので、みなさんと一緒ですね。
さて、起業家って何でしょうか。会社を作る人、ビジネスをする人というのが一般的な意味ですが、私の考えでは、「穴を見つけて、穴を埋める人」です。”穴”というのは、世の中や社会で、こういう困りごとがあるんじゃない?困っている人がいるよね?とか、未来がこうなったらもっと素敵じゃない?といったことを、誰よりも早く見つけることが起業家の大事な仕事の一つです。みんながそんなに困っていないと思っているなかで、「いやいや、これは問題でしょう。これは何とかした方がいいよね?」ということをいち早く見つけるのがすごく大事な起業家の仕事です。
もう一つは、その見つけた穴を実際に何とかすることです。起業するというのはビジネスを起こす、お金儲けをすると言いますが、この穴を埋めることが実際に生活になってお金が儲かったら、たくさんの人がそれをやってくれて、ようやく穴が埋まります。そういう意味で、ちゃんとお金を稼げるビジネスにすることはとても大事ですよね。穴を見つけるだけではなく、穴を埋めるとこまでやりきれる人はおそらくかなり少ないんじゃないかと思っています。
ちなみに私は起業をして今日で4日目なので、そういう意味ではまだ起業家になりきれていない人、起業家になろうとしている人、とも言えるかもしれません。でも私は、すくなくとも、穴を見つけたとは思っていて、これから残りの時間で、私の考えている穴の話をしていきます。
ここでちょっと難しい言葉を使います。「環世界」というキーワードがあります。この言葉、聞いたことがある人はいますか?ありがとうございます。私のことは忘れてくれてもいいのですが、「環世界」だけは覚えてかえってほしいです。すごく大事なキーワードだと私は思っています。
例を挙げて説明します。皆さん、家で犬や猫と一緒に暮らしている人はいますか?私は実家で犬を飼っていました。家族同然に犬と一緒に暮らしていますが、犬の住んでいる世界と人間の住んでいる世界はちょっと違います。何が違うでしょうか?犬にしか知らない、人間が知りえない犬の世界があります。それは匂いですね。犬はめちゃくちゃ鼻がいいですよね。人間の何万倍か知りませんが、めちゃくちゃ鼻が良くて、一緒に生活している家族同然の犬であっても、人間とは全然違う世界を感じています。
これが犬の環世界です。つまり犬の世界は人間の世界と違います。ちなみに100年ちょっと前にこの環世界ということを言い出した人がいて、ドイツ人のユクスキュルさんという人です。岩波文庫でこの人の著作を今でも普通に本屋さんで手に入れることができます。
この本の中で、マダニの話が出てきます。マダニって知っていますか?動物の血を吸う、嫌な生き物ですが、マダニの世界の話が書いてあって、私がこれを読んだときに非常に感動しました。マダニは、匂いと温度と触覚しかありません。マダニの世界では、動物が出す酪酸という1つの化学物質の匂いしか嗅げないんです。いずれにせよ、すごくシンプルでしょう。だから、何も見えないんです、マダニは。何も見ていないし、音もありません。聞こえません。多分時間という感覚もありませんね、マダニの世界には。だけど、これがマダニの世界のすべてなんです。
マダニは極端な例ですが、人間も、同じ生き物ですので、実はあまり変わらないんだよという話をちょっとしておきたいと思います。
例えばここに「リンゴ」があるとします。人間の環世界では、感じたり受け取ったりするセンサーをつかって、そこで赤いなとか、みずみずしい匂いがするな、ということを感じとり、大脳がその情報を合わせてまとめて、「リンゴだ」とおもう。そして、手を伸ばしてかじりつくといった働きかけをおこなう。これが私たちの環世界です。僕らがつながっているのは、世界そのものじゃないんです。世界のなかでも、私たちが見えたり、働きかけられたりするのは、僕ら人間の環世界とつながっている一部だけなのですね。
ちなみに、目の見えない人の環世界や、認知症になっている人の環世界は、どうやらちょっと違う、独特だということを研究している人たちもいます。これらもめちゃめちゃ面白い研究です。
そんな人間にとって、大人になるってどういうことでしょうか。大人になるって、自分の居場所となる環世界を自分で見つけて、そこに定住することなのではないか。例えば畳職人になるのなら、畳職人の世界に入っていくわけです、修行などをしながら。そうやって、自分の環世界をみつけて自分のものにしていくのが、僕ら人間にとっての、大人になるということでした。
さて、ここからようやく私が埋めたい穴の話をします。私はここに穴があると思っていて、起業家として埋めたいものがあると思っています。
一つは、人生が長くなっていっているということです。私は今40代ですが、私のちょっと前の世代は平均的な人生の長さは50年くらいでした。だから、その時代だったら、私はもうとっくにおじいちゃんだったかもしれません。でも今は100年生きても不思議ではない時代です。小学生や中学生の皆さんの世代は多分、親の世代よりもっと長く生きる時代になるでしょう。
また、世の中の変化はどんどん急になって、どんどん早くなっていきます。私が子供の頃はパソコンもなかったし、インターネットもなかったし、スマートフォンもなかったし、アルゴリズムもありませんでした。今は例えばアルゴリズムのような技術が発展して、生成AIのように、パソコンやコンピューターの方が人間より頭が良くなっちゃっている。そういう変化が現に起きてしまっています。私が子供の頃、大人になる手前の頃に思っていたのと、全然違う世の中になっていて、私たち大人はみんなすごく混乱しているわけです。おそらく、小学生や中学生の皆さんは、これからこういう変化がさらに早く早く早くなっていく時代を生きることになると思います。
そして、フィルターバブルという言葉があります。これはどういうことかといえば、インターネットを中心に、私たちをどんどんアホにしようと働きかけられちゃう時代になっているということです。例えば、スマホで何か買い物をしたとします。そうすると買い物したあなたの情報、あなたはお菓子を買ったねというような情報をいち早く抜き取られて、じゃあこれはどうですかという広告が出てきます。その方が多分、物がいっぱい売れるんでしょうね。
このように、私たちが見る情報や触れる情報がどんどんどんどん狭くなっていく感じです。YouTubeなどをやっていたら、なんとなく分かる人が多いかもしれません。この動画を見ていると次これというレコメンドが来るでしょう。これを見なさい、あれを見なさいと。そうすると似たような情報ばかり目にするようになっちゃう。こういう変化が起こっています。
なので、これらの3つの掛け合わせは結構人間にとって、いや人類にとって、おおきな危機だなと思っています。私たちの人生は長くなっていて、その長い人生のあいだに、世の中の変化は、どんどんどんどん次々とやってくる。なおかつ、どんどんどんどん私たちをアホにするテクノロジーが発展していっている時代ですね。その中で、私たちは環世界のサバイバルをしなければいけない。
私が「環世界サバイバル」と勝手に呼んでいるこのコンセプトでは、私たちはどういう人になっていかなければいけないかというと、自分の環世界を自分で何度でも作り直していく、そしてひとつの環世界と別の環世界を行き来する。これまでだったら、自分の環世界をひとつ獲得できたら、それでOKでした。でもこれからは、次の世界に行って、また次の世界に行ってということを長い人生のあいだに、何回も何回もやっていくような、そんな時代に私たちはどうやら差し掛かったと思っています。
だけど、教育の仕組みなど、みんなが大人になることを手助けするためのいろんな社会の仕組みは、まだ全然そんな時代の変化にあった形にはなっていないんです。それを変えていくということを、私はチャレンジしていきたいと思っています。もともと高校生たちに起業をとおして学んでもらうプログラムをやってきているので、そこも発展させながら、どんどん広げていきたい。
そんなことを思いながら、起業して4日目を迎えております。
以上で私の話を終わります。ありがとうございました。
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