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読書感想文「謎の平安前期―桓武天皇から『源氏物語』誕生までの200年」榎村 寛之 (著)

 平安前期の社会とは何か。創業者一族が社内の意思決定に歴然と影響力を及すぼすJTC(Japanese Traditional Company・伝統的な日本企業)である。 社内のパワーバランス、社内政治が重要視され、時にはトップの意向が絶対的だったり、集団指導体制だったりしながら、メンバーシップ制のもとインナーによって進められる「政治」である。
 自由市場下のベンチャー企業が頭角を表す英雄譚ような奈良時代や時代を下っての平安末期以降のそれではなく、上意下達の企業文化や硬直的な組織運営といった、まるで「昭和」体質の企業文化が平安前期なのだ。
 あまりにも、いまの自分たちに似すぎているため、昭和の時代には平安前期が垣間見られなかったということなのだろう。無いものねだりだ。2020年代も半分が近づいている。JTC以外のプレイヤーや従業者が増えたため、平安前期を相対化してとらえることができるようになったということなのだろう。多様性が問われる今である。疑問を向けられる硬直した一つの典型が平安前期である。


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