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読書感想文「厳寒の町」アーナルデュル・インドリダソン (著), 柳沢 由実子 (翻訳)

 現代の先進国の風景である。
 暗い。そりゃそうなのだ。北緯63度から66度に位置してる。そもそも陽の光が弱い。だが、彼らの世の中の暗さとは、先進国に共通する暗部であり、読者を滅入らせるのに十分なダメージを与える。移民とドラッグ、そればかりではない。孤独と孤立、家庭を育む言葉や行動の欠如だ。
 世の中の面倒や差異を見ようとせず、見えないように覆ってしまうことで、あたかも均質で「クリーン」な、そして「スムーズ」で効率的で便利な社会が現出することが望ましいのか、という現代人に共通の大問題が浮かび上がる。やれやれ。我々は「他」人と関わり合うことを拒絶してしまった結果、身近に大問題が降りかかってくることを招いてしまったことにならないか。「ダメよ、見ちゃ」と閉ざした目線がやがて自分たちの背中に突き刺さることになりかねない。
 カネと情報だけでなく、ヒトもモノも高速移動してしまう時代から後戻りはできない。ならば、オープンでフラットな社会の有り様を日々、築いていくことを是としないといけない。「厳寒の町」の悲劇は明日も繰り返してしまうことになる。


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