見出し画像

(77) クズ

「このクズ野郎!」
その「クズ」の話ではない。
「葛(くず)」のことである。

秋の七草として有名な赤紫色の花を咲かせる、つる性の植物のことである。
葉の裏は白っぽく、風に吹かれると葉裏が見えることから、”裏見草(うらみぐさ)”と呼ばれ、「恨み」にかけて枕詞に使用されたりする。また、この「葛」の根は漢方薬として風邪の初期症状に効き、重宝されている「葛根湯」だ。「葛」の根の澱粉は、和菓子になくてはならないものだ。「葛切り」や「葛饅頭」がそれである。若い人たちは聞いたこともないだろうし、食べたことはないと思う。また、近頃は老舗和菓子屋さんでもあまり作られなくなってしまった。残念で仕方ない。タピオカに負けたのだ。

私はその「葛切り」が大好物なのだ。半透明の葛切りに黒蜜を掛け、きな粉を振ったものはとても美味しい。一方、「葛饅頭」はダメだ。「葛」が主役なのだ。その主役よりも量多くあんこをいれるのは反則だ。主役である「葛」を美味しく食べる最低限の甘さを提供したらいいのだ。聞いてるか?あんこよ。

だからと言って、こんな話を書きたかった訳ではない。「葛」という植物の、クズな点と美点を述べたいのだ。前述したのは「葛」の美点である。秋の七草に始まり、薬になり、和菓子になり、「藤」に似た美しい花を私たちに提供してくれている。一方、私達や自然を散々な目に遭わせる「このクズ野郎!」と怒鳴りたくなる一面も持っている。近頃、街の中では見かけない。大きな公園・郊外の茂み・林・森・山などで、花が咲く夏の終わりに発見することが出来る。繁殖力が強く、駆除が困難な雑草として厄介者扱いされている。とにかくつる性だから、何にでも巻き付くのだ。電信柱・電線・家の壁・隣の木々・ガードレール・・・ありとあらゆる所に巻き付き、どんどん繁殖するのだ。切っても切っても、根がある限り再生する。多年草の強みなのだ。林・森・山では隣の木に巻き付き、自ら成長する。その茎はどんどん太くなり、巻き付かれたきよりも太くなることさえある。そして、その木を弱らせ、あげくは枯らしてしまう。「葛」が繁殖すると、林や森を壊してしまう恐れがあるのだ。私は山で、「藤」と「葛」を見かけると、必ず斧で根に近いところを切ることにしている。森を守るためだ。ちょっと涙が出てせつないのだが・・・。

これが「葛」のクズなる点だ。美点を持ち、クズな点を持ち合わせる。これは、「葛」だけの問題ではない。私たち人間の誰しも同じなのだ。「弱点」と「長所」を持ち合わせている。「弱点」だけの人はいないし、「長所」だけの人もいないのだ。だから、自身の「弱点」を嘆く必要など全くないのだ。自分の「長所」があることを確認し、それを育てながら、「弱点」をいかにしたら出さないで済むのか、ほんの少し考えるぐらいで十分なのだ。世に存在するもの全て、同じように「弱点」と「長所」を持ち合わせている。それが普通のことだ。

薬を処方されたとしよう。症状を緩和するために飲んだら良い。見事に症状が緩和する。薬の持つ「長所」を活かしたことになる。しかし、その薬がなかなか効かなかったとする。一錠が定量であるのを、効かないからと三錠飲む。これは危険なのだ。薬が「毒」と化す。薬の持つ副作用が出る。「弱点」を引き出してしまうことになる。

ここに私たちの求める”解”がある。

今説明したように、「弱点」を引き出さない薬の飲み方があるように、私たちの「弱点」が出ないようにするコツがあるのだ。そう出来たら「長所」が前面に出て、時々「弱点」が顔を出す程度でいられるのだ。

コツとは?

(1) : 自分の「弱点」を隠さず、まるごと認められるように向き合うこと。

(2): 私の「弱点」が出てしまう時、その刺激・きっかけになるものを見つける。引き出さないためにである。

(3):「弱点」が出そうで出さなかったことを”評価”する。

(4):「長所」は黙っていても出て来るからノーマークで良い。

「このクズ野郎!」なんて、誰に向けても言うべきではない。今、その人の持つ「クズ」なる点が出ているに過ぎないだけだからである。だから、決して自分のことも「クズ」呼ばわりすべきではないのだ。


いいなと思ったら応援しよう!