#21 春を迎えられなかった恋
タッチパネルの周りに強いライトがいくつもある
後ろには黄緑色の明るい紙のような背景
女の子特有の香水の匂いがする、多分僕らの前に入った人達だろう
とにかく、明るい部屋だった
(もっと薄暗いのかと思ってた)
彼女は手慣れた手つきでどれにする?と言って画面を見ている
僕はよく分からず彼女に任せた
「やったことないから、任せるよ」
「そーなの?じゃあ簡単なのにしよっか」
ポーズを機械から指示されるコースを選び
機械が説明を始める
僕はさっきの事が気になっていた、ただ彼女は見たところ、すっかり忘れてるみたいだった
撮影が始まるとそんなこと考えてる余裕は自分にも無くなり、色んなポーズを要求されるがままになる
(恥ずかしいけど、楽しいな)
最後の方になるとハグしましょうと指示され
僕はちょっと止まってしまう。
しかし、彼女は手を広げて待っててくれたから行かないわけには行かない。
誰も見てないんだし、彼女も待ってる
遠慮なく、ハグする
(と、こんな感じでいいのか?)
ハグする直前多分体中強張っていたんじゃないか、と思うくらい一瞬力が入ってしまっていた。
(一体どれくらいの力で抱きしめていいのだろう)
そう思うと、力は抜けた
彼女は見るからに細くて、男の自分があんまり強くすると、折れてしまうんじゃないかなんて、大袈裟に考える
僕は彼女の服越しの肌に触れるか、触れないかくらいにしかハグできなかった。2人とも冬服だし、ちょっと生地も分厚い
自分の胸のところに彼女の顔がある…
色んな香りがした。
石鹸と
お化粧か香水?
あとは誰のものか分からない、タバコの煙の匂いが少し
多分、近くで吸っていた人の煙が服についてしまったのかな…
離れた後は自分でも驚くくらい、冷静だった
これでやっとお終いかと思うと、機械から驚きの発言が
最後に、カップルの2人はキスしましょう
(えー…!!)
こ、これは…いいのか、嫌、でもなぁ…
さすがに彼女も
「どーするー?笑 こんなのあったのー?」
僕は固まってしまっていた
「あ、じゃあこれならいいじゃん」と、彼女が手をキツネの形にして出してきた
「シュンも、真似して」
こうしてなんとか難を逃れた。
恐るべし、プリクラ機…
*
プリクラ機の外で他のカップルと同じ様にハサミで半分ずつに分ける
彼女は自分のプリクラ帳を持っていて、中は中々の量で埋まっていた
少し中身が気になったが、今回は辞めておいた
「そろそろ、部長もいなくなったかな?」
「そーだねー、もお大丈夫じゃない?多分…」
僕らはキョロキョロしながら、プリクラ機を出て下の階へ降りる
もお、外に出ようかと2人で決めて
PARCOを後にし、少し離れたファミレスへ歩く。
空はあいにくの曇り空で、雪が降らなくもなさそう
道端でストリートミュージシャンがギターの弾き語り(この頃、ゆずや19が流行っていたから)サンタの格好したパチンコ屋の定員やデパートの定員さんが色んなところに立っている
外はクリスマスの昼間でなかなか賑わっていた
(さすがにこの辺りにはいないだろう)
彼女とはぐれないようにしっかり手を握って、どんどん進んだ
10分くらい人混みのなかを歩いて到着したファミレスはビルの地下に入っている所で目立ちにくい
僕はそこでやっと一息つけた。
帰る時間も段々と近づいてきていたから、そんなにゆっくりはできないけど、また部長に会うかもしれないと考えると、駅の近くは落ち着かない
「結構人多いから、時間かかったね。疲れてない?大丈夫?」
…彼女は少し元気がなさそうだった。
「飲み物とってくるよ、何がいい?」
「じゃあ、コーラがいいなー」
ドリンクバーの前で
(あーさっき…キスしとけばよかったかなぁ)
なんて、ことを考えてしまっていた
チャンスを逃してしまったなー、いやまだ帰るまで少し時間がある。よしっ
思い直して席へ戻る
*
彼女が窓の方見て座っている
机の上に白い箱があるのが目に入る
ん?彼女が何かくわえてる…
「ごめんね、我慢できなくて。吸ってもいいかな?」
ライター片手に僕に聞いてきた
僕は驚きのあまり、多分…この時無表情になっていた。我に返った僕は
「あ…うん。いいよー。タバコ吸うんだね。もしかして、ずっと我慢してた?」
「そーなの。ごめんね、ビックリしたでしょ?受験勉強してて、イライラしてたら友達に勧められて、なんか一回吸ったらなかなか辞められなくてー」
「へー…どれくらい吸うの?」
「でも、1日5、6本だよ。親にも見つからないようにしないといけないからー」
「友達は結構吸ってたから、へー、マルメンなんだ」
僕はとりあえず知っている知識を総動員して、話しようとしたが、いかんせん僕は吸わないから、すぐに沈黙した。
「…やっぱり、彼女が吸ってるの嫌?」
僕は正直に答えた
「…うん、嫌だ。でも、すぐ辞められないんでしょ?その…ストレス発散になるみたいだし。でも…少しずつ辞めてった方がいいと思うよ、体のためにも。女の子なんだし」
学校の授業で習ったことあるから、最低限のことは知ってる。百害あって一利なし。それは皆分かってるけど、カッコいいとか大人っぽく見られたい、ストレスや反抗期からタバコに手を出す。
「やっぱりそうだよね。うん、すぐには辞められそうにないの、だけど…シュンの為に少しずつ辞める。約束する」
灰皿に、つけたばかりのタバコを押し付ける
さっきのタバコの匂いは彼女のそれと同じだった
この記事が参加している募集
読んでくれてありがとうございます。特別な事はできませんが、少しずつ誰かの役に立てたらと思っています。あなたのnote読みます。ただ、スキするかどうかはわかりません。 いただいたサポートはnote内でサポートしたい方へ使わせて頂きます