#18 春を迎えられなかった恋
駅に着くまでに雪はやんでしまった
あんなに勢いよく降っていたのに
地面に落ちるたびにすぐに消えてなくなっていく
それは小さな、かろうじて形を保ったものだった
*
バス停で彼女の到着を待つ
(せっかく一緒に雪が見れると思ったのに)
バスがきて、彼女が降りてきた
「お待たせ、外寒かったでしょ?雪降ってたもんね。ごめんね、待たせちゃって」
「んーん、大丈夫だったよー。アカネちゃんの方も雪降ってた?今日積もるかと思った」
「ねー、積もればよかったのに。また、降らないかなー?」
そんな会話をしながら、改札へ向かう
2人分の切符を買ってアカネちゃんへ渡す
彼女は自分で出すと言ってくれたが、前ライブのチケット買ってくれたから、いいよと言うと
「あれは、私がシュンを見たくて行ったんだから、それこそ気にしなくていいのに」
(めちゃくちゃ嬉しいじゃないか)
駅のホームで2人で電車を待つ
この時、やっと彼女のことをまともに見れた
お団子頭に薄い色のベージュのニット、黒のスカート姿で耳にはイヤリングをしている。白いマフラーに白いリュックのカバン。足元はアディダスの白スニーカーだった。
普段の学校の時と全然違う
ベンチに座った彼女を黙って見てたら
「なにー?ジロジロ見て、恥ずかしいんだけど 笑」
「いやー、なんかいつもと違うから…可愛いなーと思った」
「素直に言わないでもいいのに…嬉しいけど笑」
電車が来た
朝早かったので、まだ人はそんなに多くない。ポツリポツリと人がいたけど、僕らは空いている4人がけの席に2人で座る
こうして、誰の目も気にせずにいられるのは初めてだったかもしれない。
*
映画は当時CMでよくやっていた、ロードオブザリングを見ようと言う話になっていた
「映画楽しみだね、友達から聞いたけど面白いらしいよー」
彼女はいつも通りだ
僕は緊張して、なんだか口数が少なかった
「どうしたの?、体調でも悪い?」
「いや、違うよー…おれさ、こーゆうの初めてだから」
「あ、緊張してるの?珍しーい 笑」
「そーだよ、悪かったね 笑」
そこでふと疑問に思ったことが口を出た
「アカネちゃんは、今まで付き合ったことあるの?」
…
やばい、これは今聞くことじゃないなと
思ったが遅かった
2、3秒かもしれないし、1分くらいだったかもしれないが
少しの間、電車の走る音だけが響いた
「前ね、先輩と付き合ってたことあるよ、でもね、少しの間ですぐ別れたの」
僕は自分が初めての相手ではないことに少し残念な気持ちと、どんな相手だったのか気になったが、やっぱり今聞くことじゃないなと
「さっすが、アカネちゃん。人生の先輩だねー笑」
とチャカしてなんとかこの場をやり過ごした
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