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#8 春を迎えられなかった恋

夏休みが終わる1週間前に髪の色は戻した。黒染めの黒はとても艶が出る。個人的な感想だとなんだか、青っぽい。とても違和感があった。

(これ、バレないか?)しかし、ほかに方法がないから、仕方ない。

二学期が始まった。

夏休み羽目を外したのは自分だけじゃなかったようだ。何人かは髪の色が元に戻りかけていたり、耳にトーピ(透明ピアス)をしているやつが何人か男も女も生徒指導室へ呼ばれていったようだ。僕も呼ばれないか、ドキドキしていた。

「加藤くんはさ、休みの日は何してるの?」

ある日のお昼休み、たまたま食堂で一緒になった部長に聞かれた

バイトです。とは言えなかったので、とりあえず友達んちでゲームしたりして過ごしてますと適当に答えていた。

しかし、部長はなぜか嬉しそうで、なんだか噛み合っていないような、そんな感じが不思議に思えた。

学校の廊下で会っても、部室にいっても何かと理由をつけて話しかけられた。なんか変だな

当時の学校では二学期になると、バンドを組み始めていた。文化祭でもやるのだが、そのあとライブハウスでも、別の日にやるのが恒例になっていたらしい。3年生の思い出作りでもあるが、2年生はここで次の年の人気度が決まる。

二学期が始まると、すぐに楽器ができるやつを何人かがを探し始める。

「ドラムできるやつ探してるんだけど、知らない?」放課後ホームルームが終わったあと、同じクラスのやつから声かけられた。他の学校のやつでもいいらしい。僕の友達に同じ中学の奴が隣の市で華々しくバンド活動しているやつがいた。自分も実はそいつと中学2年の時MステでL'Arc-en-Cielの演奏を見てカッコいいなドラムと意気投合し、一緒に練習していた。

だけど、腕の差は圧倒的で、そいつは家にドラムセットまで買う本気具合。メキメキ上達したいったが、僕はというとかなり不器用だった。

「一応聞いてみるよ」自分がやるとは言えなかった。自信がなかったのだ。

中学時代の友達に声をかけると、そいつは自分の学校だけで3つのバンドと他校から既に1つサポートを頼まれていたらしい。ごめんけど、難しいわと言われ加藤がやればいいじゃん、できるんだしって不思議そうに言われた。ま、そうなんだけど

散々悩んで、クラスの友達には他校のやつは他のサポートで手一杯なこと、自分も少しならできると言う説明をしたら2つ返事でお願いされた。僕は覚悟を決めるしかなかった。

すでにギターと、ベースは決まっていたらしい。3ピースだった。ギターのやつが歌いながら弾くスタイル。コピーするのはモンゴル800だった。あーなーたーに♪、である。

(また、バイトに行くのが減るな)

部活も冬の大会があったし、バンドの練習も入ってしまった。当時はあまり断れないタイプだったから。でも、やっぱりどこかワクワクしていていて、この頃はだんだんと中条さんの事も気にならなくなり始めていた。別の目標ができたからだと思う。

毎日演奏するモンパチ(モンゴル800)の曲をウォークマンで聴いた。授業中も小さなボリュームにして手に隠し、耳コピでひたすら耳と頭に叩き込む。それからスティックを持って、家練(イメトレ)、ドラムは友達の家と、近くの市が管理する施設で無料で練習できた。

部活は週に一度か二度しか行けなかった。「また、サボってるー」たまに行くと部長につっこまれた。でも、部長に会うのもなんだか気まずかった。最近メールで好きな子いる?とか、付き合ってる人いるの?と言う内容のやりとりをして、これはもしやと勘付いてしまったのだ。

部活からの帰り際に副部長の長谷川さんにそれとなく相談してみた。あんまり人がいない時を見計らって。もしかしてなんだけど…その、部長って…

…やっぱりそうらしい。

やたらと長谷川さんも僕と部長が2人になる様にとか、話題に気を使ってる気がしていた。

僕は正直に告白した。僕は部長とは付き合えないし、最近まで好きな人がいた事。長谷川さんに悪いけど部長と2人きりになる様にしないで欲しいこととか、気を使って話題を振らなくていい、と。できれば以前みたいに、ただたまに冗談いい合える友達みたい状態になれないか。

長谷川さんは「わかった、部長にはそれとなく伝えてみる」と言ってくれた。いつものおっとりした感じだったけど、なんだか…ちょっとだけ明るい?もしかしたら、かなり気を使ってくれてたのかな。申し訳ない気になったが、胸のつかえが多少減って、だいぶスッキリしていた。








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