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#19 春を迎えられなかった恋

彼女は笑っていたけど、内心どんな気持ちだったんだろ…

僕はそれからよく喋ったと思う

さっきの事が無かったかのように

なんだか気まずい…この雰囲気を消し去りたかった

バイト先の友達のことや、部長のこと、ライブの時のことなんかを手当たり次第話して

20分くらいで駅に着いた

少しずつ、いつもの2人に戻っていっていたがまた少し黙ってしまっていた

電車を降りて、駅のホームへ向かう

改札を出た時

僕の手は暖かい何かに包まれた

彼女の手だった

僕は驚いて、彼女の方を見る

「この方があったかいじゃん 笑」

彼女が笑顔で言う

先を越されてしまった、と考えたけど

嬉しくて、でも途端に恥ずかしくなって、顔が暑くなった

僕はなんて言っていいか分からず、そのまま行き先だけを見つめるしかできなかった




映画館は駅からすぐの所にある

やっぱり今日は人が多い。自分達のようにカップルや、若い子から年寄りの人、小学生くらいの集団もいた

「土曜日だし、冬休み入ったから、人多いね」

「ねー、カップルも多いね」

順番待ちの列に僕らも並ぶ

「何か飲み物いる?食べ物は?」

「私買ってこようか?」

「いいよ、おれ買ってくるから、アカネちゃん待ってて」

僕は売店で飲みものを買いに一旦彼女と別れた

女の子と手を繋ぐのが初めてで、どのタイミングで離していいものか、分からなかった。本当は離したく無かったけど。お互いずっと離さないわけにはいかないから、なにか理由が必要だった。


なんとか無事チケットも買えて、席も確保できた。知り合いがもしかしたらどこかに座ってるかもと思いながら少しキョロキョロしてみたが人が多すぎてよくわからない

辺りは暗くなり、スクリーンには予告映画が始まる。

僕は時折、うっすらと見える彼女の顔を意識してしまい、あんまり顔を向けることなく


ただ、寂しくなった手をもう一度繋いでみた

彼女も優しく、握り返してくれる


暗くなる度、次はさっきのも見てみたいね、なんてことばかり話して

もうすぐ本編が始まる



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さとう じゅんいち
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