#22 春を迎えられなかった恋
押し当てたタバコと灰皿の間から少し煙が多く上がると、一瞬先端が赤くなり、火は消えていた。僕はその動きを見つめていたけど。どうしたらいいかわからず、トイレに立つ。
…ショックだった。
彼女のことわかってるようで何も分かっていなかった自分。どうやって辞めさせたらいいのか、すぐに答えが出ないことにも落胆していた。僕はいつも明るい彼女のことばかり見ていて、辛かったこととか、しんどいことを何も分かってなかった。知ろうとしていなかった。
戻ってくると
机の上に置かれた箱は無くなっていた
「出ようか…そろそろ帰らなきゃ」
「うん…」
駅までまた手を繋いで人混みをかき分けながら進む。
今は喋らなくていいことが少し有り難い
駅に着くと、切符売り場は空いていた。まだ夕方より少し早い。皆はこれからまだまだ好きな人と一緒にいれるのだ。
改札を通ると、すぐに電車が来る
「ヤバ…電車来ちゃった」
「走ろう!」
僕らは階段を駆け足で登り、電車に飛び乗った
急いで乗ったから、2人とも息を切らしてた
席に着くと、可笑しくて2人共笑ってた
「間に合わないかと思ったー 笑 はぁ、間に合ったね」
彼女はいつもの笑顔だった。
僕も釣られて笑顔になる。
「ほんとあんまり急ぐから、階段でアカネちゃん転ぶかと思ったよー」
帰りの電車も空いていたけど、何となく2人がけの席に着いた。4人がけより距離も近い。
「ねぇ、シュン怒ってた?」
彼女が申し訳なさそうに聞いてきた
「んーん…違うよ。怒ってたんじゃないんだ。…なんてゆうか、アカネちゃんのこと何にも分かってなかったんだなぁって思ってさ、そしたらなんか…なんてゆうか悲しくなったんだ」
「そんな風に思ってたんだ…ごめんね。バカだよね。体に良くないのだって分かってるよ」
彼女は悲しそうな顔をしていた
「でも、やっぱり吸ってる時は少し気持ちも楽になるんでしょ?じゃあ無理に辞めなくていいよ。友達も吸ってるけどさ、やっぱりすぐには辞めれないって言ってたよ」
何度も話したくはないけど
「ツラい時とか、しんどい時は言って欲しいんだ。おれに。何もできないかもしれないけど」
「うん…」
「アカネちゃんはいつも明るいから、皆さ、安心しちゃうんだよ。話上手で、聞き上手だし。自分のことつい喋っちゃうんだ。アカネちゃんはさ、人に気が回るから…」
無理しないでいいって言いたいんだけど、うまく言えない。
「ありがと、シュン。そんな風に言ってもらったことないから、嬉しい」
「おれはさ、明るいアカネちゃんも好きだけど、そのままのアカネちゃんが好きだよ」
(…あ、つい好きとか言ってしまった)
2人共黙って、電車の走る音が小さく響く
「そーいえば、ちゃんと告白の返事してなかった。おれ…アカネちゃんのこと好きだわ」
「私も…やっぱりシュンのこと…好き。ちゃんと会って言ってなかったから、ごめんね、メールなんかで。よく考えたらどうかしてるよね。シュンといる時はね、楽なの。無理しなくていいの。何でかわかんないけど」
(なんだ、そうだったのか…)
「じゃあ、なんでも言ってよ。おれの前で無理しなくていいよ、彼氏なんだから」
「ありがと。うん、ちゃんと言うね。しんどい時とか。なんでも」
彼女は少しだけ、泣いていた。涙が溜まって今にも溢れ落ちそうだった。
僕も釣られて泣きそうになったから、咄嗟に窓の方を向いた
肩が少しだけ重くなる
彼女が寄りかかっていた
多分、ちょっと泣いてた。
「ちょっとこうしてて…いい?」
「うん…」
ほんとはギュって抱きしめたかったけど
僕は通りすぎる景色を見つめて、このままずっと駅に着かなきゃいいのにと、思った
*
次はー、○○前、○○前ー
アナウンスが響く
もおすぐ、着いてしまう
彼女は少し頭を起こして前の方を見ていた
「もおすぐ着いちゃうね」
「ほんとだ、あー早いなあ。嫌だなぁ」
「なんか、子供みたい 笑っ」
「だってさー、ほんとはなんか記念になるもの買いたかったんだよー。指輪とか」
「あ、欲しかったー!また戻る?笑」
「いや、無理無理アカネちゃん家帰れなくなるよー」
「そーだよね 笑 じゃ、今度買いに行こうね」
彼女は元気になっていた。それだけで良かったんだけど、それを見てちょっと調子に乗ってしまう。僕は周りに誰もいないのを少しだけ確認する
「はぁー…他にもしたいことあったんだけどなぁ」
「えー何なにー?」
恥ずかしくて、窓の方を向きながら
「キスとかできるかなー…なんて 笑っ」
(いや、やっぱりこれは言うべきじゃなかった!調子乗った)
一瞬沈黙があった
僕はすぐに、誤魔化そうと彼女の方を向いた
「じょーだ…ん
喋りかけた口が何かで塞がれ、突然彼女がいなくなる
唇にマシュマロみたいな、柔らかくて暖かい感触と、少し、タバコの匂いがした
いなくなったんじゃなくて、すぐ目の前にいる
彼女が元いた位置に戻る。僕の瞳は止まったままだ。視界の中に現れた彼女のほっぺは赤く、見たことない表情だった
僕はなにが起きたのか、よく分かっていなかった。今思い返すと
彼女はキスする時、照れ笑いしながら
「しょーがないなぁ…」
と小声で言っていた
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