#11 春を迎えられなかった恋
バス停はすぐ近くだった。ライブハウスからは100mも離れていない。
バス停に早く着いた僕は待合用のベンチに座って長谷川さん達が来るのを待っていた。
(あー…部長もくるのか、なに話しよう)
今更ながら、直接断らなかったことを後悔していた。まあ、告白されたわけではないから。それも微妙だしなぁ…
とか、考えてるうちにバスが来た。土曜日の夕方だから、結構人が乗っていた。最後の方に長谷川さんと部長が降りてきた。2人は制服だった。
「あれ?制服じゃん。どうしたの?」
「学校に午前中いたから、そのままで来ちゃった」長谷川さんと喋ってると斜め後ろから部長がきまづそうに見ている。長谷川さん…あんま大丈夫じゃないじゃん!
「部長…お疲れ様です!来てくれたんすねー」とりあえず、明るく振る舞う事しか出来なかった。
「うん…バンドやってるなんて、加藤くん、すごいじゃん!アカネちゃんから聞いてビックリして、見に行こーってゆったらチケット加藤くんから買ってくれるって」
「アカネ?誰?あ、長谷川さん?アカネって言うんだ、初めて知った」
「そうだっけ?言ってなかった?」
「そうっすねー、知らなかったです。じゃ、今度からアカネちゃんって呼びますね」
「何それ、なんかワザとらしい 笑」
3人で、なんてことない話をした。おかげで、だいぶ緊張がほぐれてきた。長谷川さんの癒し効果抜群だ。部長も最初よりだいぶ表情も柔らかくなってきたから、良かった。と、胸を撫で下ろした。バス停を後にして、ライブハウスへ向かう。
だいぶ本番が近づいてきた。あと30分くらい。長谷川さん達に別れを告げ、控え室へ向かう。他のバンドメンバーはもう裏でスタンバイしていた。僕らはトップバッターだから。
「はぁー…」ベースのやつがため息をついていた「そんな暗い顔すんなよ!シャキッとしようぜ」ギターのやつが言うがタバコを持ったその手はちょっとだけ震えてる。無理もない。ステージに上がるとは、無条件に注目を浴びる事だ。全て見られてしまうような感覚になるし、ステージの上では自分達から発信しないと、何も始まらない。たかだか16、7の高校生に堂々とステージの上で物言い出来るような度胸のあるやつは少ない。
あっという間に本番になった。3年生の主催者がマイクを使って挨拶をし始めた。
「えー、そろそろ始めちゃいたいと思います!いやー、3年生は今年で最後!だから皆盛り上がって、今日は楽しんで帰ってねー!!」
「さぁ、最初は2年生の登場だー!頼むぞ、トップバッター!」
ついに呼ばれてしまった。ステージの上は薄暗くなり、僕達はステージへ上がる。出てくると同級生達の煽り声や拍手で迎えられる。
準備を終え、ギターのやつが手を挙げる。
合図だ。周りの音が小さくなっていき。一瞬無音になる。すると急に当たりが明るくなる、スポットライトが自分達に当てられた。
漏れた明かりで、ステージの少し下から後ろの入り口までうっすら見えた。
…お客さんでいっぱいだ。
驚きだった。こんな狭い部屋にギュウギュウに人が入っている。少し動けば隣の人と肩がぶつかりそうなくらいに
手に持ったスティックを落とさないよう、指先の汗を膝で拭う。何度も。長谷川さんや部長の顔も見てしまったから、今度は緊張してきた。
「えー…どうも!…今日は楽しんで帰って下さい!」完全に事前に打ち合わせていたMCの内容は飛んでいた
振り向いたギターの顔は引きつった顔で笑っていた。(これはもう…始めるしかない)
練習通り、ドラムのカウントから演奏が始まった。
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![さとう じゅんいち](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/80167906/profile_3465d915683d4e05bcdb6ed7171bd8d9.png?width=600&crop=1:1,smart)