見出し画像

Doors 第13章 〜 難病

 バンド活動はそれなりに順調だった.そんな僕に下された次なる試練は難病だった.音楽をやる上で致命的とも言える耳の病気,メニエール病だった.
 初めはめまい発作も薬でほとんど抑えられていたので気楽に考えていた.けれど1年もすると頻繁に起こる数時間にも及ぶめまい発作に,日常生活すら厳しくなっていった.リハーサルには参加せずに,病院で点滴をしてから直接ライブハウスに向かうことも多かった.そして限界を感じて遂にその道を去った.病気は僕が大切にしているものを次々と奪っていった.

 それから2年近くベッドの上で生活をした.ベッド横に簡易トイレを置く生活.僕はもう二度と歩くことはできないと覚悟もしていた.毎日死ぬことだけを考えた.本当に自殺を考えると悪いことをしようなんて思わない.どうすれば最低限の迷惑で済むだろうか,そのことだけを繰り返し考える.自殺の方法とその時期とを考えていた.けれど死ぬにもろくに動けないし,というか純粋に勇気がなかっただけなんだろう.

 そんな状態で1年ほど経った頃,徐々に発作の頻度が減っていった.ただ,それは回復したという訳ではなかった.寧ろ病気が進行し不可逆な状態になってしまい,病気が"完成"してしまった状態と言える.発作の頻度と引き換えに,僕は左耳の聴力を差し出した.今もほとんど聞こえないし,きっと二度と良くなることはないと思う.
 10年経った今でも発作は年に2回ほど起こる.その度に肉体的にも精神的にもかなりなダメージを受ける.個人的にはコントロールが全く効かない分,パニック発作よりも辛い.この病気がなかったならば…ナンセンスなifばかり考えてしまうことも.

 でも,それ以上にやはり歩けるようになったことが嬉しい.日常がありがたい.些細なことが全て幸せに変わった.病気は僕に本当の幸せを教えたかったのかもしれない.やり方は手荒過ぎると思うがな.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?