泣きたい時に読む小説「CALAMITY」vol.4
✨ 前回のお話 ↓ ✨
第3章 事変
雪奈とショッピングモールで楽しいひとときを過ごし、それから1ヶ月程経ったある日のことだった。
雪奈の様子がおかしい。
いつもより沈んだ表情をしている。話しかけても反応が鈍い。
「大丈夫か、雪奈?」
心配になり、雪奈に体温を測らせる。
39.2℃。
高熱があることがわかった。
「...大丈夫。ちょっと風邪ひいちゃったみたい」
「はぁ...」と苦しそうに呼吸をする雪奈。
その様子を見た俺は雪奈に言った。
「早く病院に行った方がいい。39℃超えてるじゃないか」
それでも雪奈は大丈夫としか言わない。
仕方なく、俺は雪奈の両親にそのことを話す。
しかし、両親も病院に連れて行こうとせず、ただただ看病だけをしている。
わけがわからず俺は両親に直談判することにした。
「どうして病院に連れて行かないんですか!雪奈が苦しんでいるんですよ!」
その言葉が届く様子もなく、ただ看病をする母親。
父親も店先に出て仕事に励む。
どうして雪奈が高熱を出して苦しんでいるのに、病院すら連れて行かないんだ。
俺は苛立ちすら覚えていた。
その日の夜、雪奈の父親が俺の問いに思いがけない答えを返してきた。
「どうして雪奈を病院に連れて行ってあげないんですか!」
俺の言葉は怒声にも似ていた。
うつむく父親。その様子はどことなく寂しそうだった。
「真人くん...」
父親はゆっくりと口を開く。
「雪奈のことを心配してくれてありがとう。私も同じ気持ちなんだ」
「それなら、どうして」
父親は言葉を続けた。
「雪奈の高熱はいつものことなんだよ。大きい病院でも診てもらったんだ。でも、原因は分からない」
「いくら検査をしても、異常が見当たらないんだよ」
肩を落とすように話す姿を見て、俺が悪者になっているかのような気分にすらなる。
そして語りだす父親。
「雪奈はね」
「この街の厄災を祓う...巫女なんだよ...」
そういう父親の目には涙が浮かんでいた。
俺には意味が分からなかった。巫女ってなんだ。厄災ってなんなんだ。
そう思いながらも、話に耳を傾ける。
「病院では治療できないんだ」
「もしかしたらと思って、大きな病院で検査もしてもらったけど、健康そのものなんだよ」
その場に膝をつく父親を見て、俺はそれ以上言葉が出せずにいた。
俺は父親の言った言葉が信じられなかった。
しかしその話を聞いていく内に、信じざるを得ない事実が見えてきたのだ。
この街に代々伝わる伝承があり、5つの祠に守られたこの地を巫女が守護しているらしい。
そして、その現在の巫女が雪奈なのである。
雪奈は生まれながらに巫女としての使命を帯びていた。
だが、巫女といっても何かをするわけでもない。
この街の厄災を祓うのと引き換えに、徐々にその命が削られていく...。
それが雪奈の使命であることを知らされた。
「なんで...そんなことが」
それでも俺は、そんなバカげた話はないと思った。
昨日まであんなに元気だった雪奈が苦しんでいるのだ。
それを助ける術がないなんて信じることができない。
俺は何としてでも雪奈をその苦しみから救いたいと思った。
そこであることを思いついた。
図書館に行けば、この街の過去について知ることができるかもしれない。
俺は早速、図書館へと足を運んだ。
図書館に着くと歴史コーナーや文化コーナーの本を次々に漁り始めた。
この街の古い地図や風習の本など、関連すると思われる本を幾冊も抱え込み読み漁る。
その作業を数時間ほど繰り返していると、ついにある古びた古文書に行き当たった。
「これは?」
と胸をときめかせながら、俺が発見したのはある古文書だった。
そこにはこう記されていた。
当地ニ伝ワル由緒正シキ伝承アリ
五ツノ御祠ニ守ラレシ当地ヲ
特別ナル巫女ガ代々守護シテ来タリケリ
其ワ「厄災の巫女」ト呼バレルベキ者ナリ
思わず声に出して読み上げる俺。確かに父親の話と内容が一致する。
そして、その続きにはこう書かれていた。
厄災ノ巫女生マルルヤ
其ノ命 根源タル 力 引キ換エニ
当地ノ災厄 祓ワントス
つまり雪奈は、この街の災いを祓う代償として命を削られ続けているということか...。
それが巫女の使命であると。
「何とか巫女の使命から、雪奈を解放する方法があればいいんだが...」
そう呟きながら文書の続きを辿る。
そしてそこには、使命からの解放について記されている文書の形跡だけがあった。
「ここにあったはずだ...!方法が書いてあるはずなんだって!」
必死に残りを読み耽るが、文書の下半分が失われており、俺の期待は裏切られた。
そこには、おそらく厄災の巫女を勤めから解放する内容が書かれていた。
しかし肝心な部分がちぎり取られていてわからない。
ちぎれている部分をじっくり見ると、かろうじて「厄災の巫女・人化」と読み取れる文字があった。
「くそっ! こんなんじゃどうすることもできないじゃないか!」
拳を壁に打ちつける俺。己の無力さに嫌気が差す。
泣きたい時に読む小説「CALAMITY」vol.5
第4章 厄災 へ続く…
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