いたずら

松島少年は、中学の頃はまだ頭もよく、不思議なことに人望さえあり、皆から推されて3年の時は生徒会長を勤めておりました。

ただ、週に何度も開催される各種の会議はやっぱり退屈です。
隣の席に座る副会長が、美少女の誉れも高い1組のMさんでなかったら、吹奏楽部の練習を優先させたい思いでした。

クラスが違っていたからよく知りませんでしたが、Mさんは東京から転校して来た、背の高いあか抜けた女子生徒で、デビュー当時の宮崎美子をもっとスレンダーにした感じでした。
(宮崎美子のデビューはもう少し後の時期ですが、回想なのでお許しください)

さて、当時の私の学生服のポケットには、なぜかミニ鉤縄といえるものが忍ばせてありました。
やや太い針金を何本か錨状に練り合わせ、そこに細ひもを繋いでいました。
忍者が、お城の石垣を登る際に放り投げる、先に鉄のフックのついたロープといえばわかるでしょうか?
あれのミニ版といったところです。
少年探偵団員としては必携だったんだと思います。

今日もまた退屈な会議が始まりました。
各委員会からの報告を聞いてはいるのですが、報告者の喋りが幼稚なので、くどくどと要領を得ません。
私は、ふと思い出したかのように、ポケットから例の鉤縄を取り出すと、周りから見えない死角を利用して、それをスルスルと解きほぐすや、隣の席のMさんの脚元めがけて降ろしました。

ややっ、上手くフックが彼女のスカートの裾に引っ掛かったようです。
目は資料に、あるいは発言者に向けたまま、もぞもぞと両の手を机の下で動かして、紐を引き上げます。

聡明なMさんが、それに気がつかないわけはないのですが、彼女も無表情のまま、さも発言者に同意をしているようなポーズをとっています。

スルスルするする
スルスルするする

おお、なんか白いものがチラッと見えるかぁ?

その瞬間、Mさんの手が無情にも降ろされ、純真な少年の冒険心はシャボン玉が弾けるように霧散するのでした。

「会長と副会長、なにかやってんですかぁ?」

あ、また真面目で幼稚な2年生がなんかいってるぞ…不粋な奴らだ。

優秀だったMさんは、しかし私とは違う高校に進み、卒業後は大手銀行の函館支店に就職しました。
京都でアホな大学生になった私は、帰省するたびに彼女の銀行でお金を下ろし、カウンター越しにウインクなどを交わしたりしていました。

大学を出たあとも、何度か一緒にお茶したりした記憶もあるんですが、どうやって彼女と連絡を取ったものかちっとも思い出せません。

彼女は現在も独身で、その銀行の東京都内某支店の支店長に昇格していると数年前に風の噂で聞きました。

なぜかすごく惜しいことをしたような気がするのはなんでなんだろう?

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