小田川クソ小説 第1話 「ベタ踏み」
年末年始の時期は帰省ラッシュで、更にコロナウイルスの落ち着きもあってか、1年ぶりに人がバスターミナルに賑わった。何気なく始めた高速バスの運転手を始め、5年目に入ろうとしていた。
年末やGWは稼ぎ時なので毎年シフト入っている。最初の年は、余裕や車が欲しいと思い、出勤をしたが、気が付けば社員全体から『名物』と言われ、5年連続で運転し続ける羽目になった。
春夏秋冬、親父から『今年は帰ってくるのか?』と電話が来てたが、3年目を機にブツ切りしてしまう様になっていた。
「よ!!名物!!今年も年末出勤とは恐れ入るぜ!!」
上司の川端先輩が背中を叩いてきた。
「まぁ…やる事ないんで」
僕は適当に嘘をついた。
「有休消化してんのか?たまには休まないと体やっちまうぞ??」
僕は以前、体に限界が来て、GWに一回だけ有休を取ってみたが、その日全員が有休を取ってしまった為、全ての便が運休になり、苦情のアクセスが集中してHPが凍結されてしまった。そして翌日出勤すると社員からぞうきん汁お茶を無言で出されて、それ以降有休がトラウマになってしまった。
「川端先輩は今日出勤なんですか?」
僕は聞いた。すると先輩は鼻で笑い「ちげぇよ、どんなんかなぁって通っただけだよ」と返してきた。
「まぁいつも俺も忙しくて疲れてるから年末年始ぐらいは休みてぇよ。若くねぇんだし。んじゃ任せた!頑張れよ!未来を担う若者たちよ!!」
そういって新幹線のチケットをちらつかせ、駅の方へ去っていった。
「…殺す」
僕は小声で言った。
乗り場にバスを止め、愛媛行きの乗客を待った。そして切符を確認し、ぞろぞろとバスの中へ入っていった。出発しようとした時、一人遅れてきた客がいた。
「待ってくれー!!遅れて申し訳ない!!扉を開けてくれないか?!」
大声が聞こえて来たが、面倒なのでそのまま発車した。すると客がキレ出して、バスのテールランプをトランクでぶん殴ってきた。結果割れて、緊急停車してその乗客を乗せる事になった。
テールランプが割れたせいで、バスの交換で発車が2時間遅れた。クレームの電話が会社に殺到して、部長に「なめてんのか」とキレられた。
発車して、バスのルールやマスクの着用のアナウンスをするが、一連の流れのせいで乗客全員、小声で僕の悪口を言うのであった。サービスエリアで小休憩を取った際は、座席にガムが吐かれていた。
運転中も電話が鳴りやまなかった。部長だけではなく、専務や課長、同僚、窓口までもが怒りの電話を僕の個人電話にかけて来たのであった。それに混じって父からの電話もかかってきた。ストレスが頂点に達して涙が止まらなかった。助けて欲しい一心で『つらい』とLINEを親父に送った。
『何もかも投げ出して、実家でゆっくりしなさい』
そのメッセージを読んだ瞬間、アクセルをベタ踏みした。明石海峡大橋行きの道は通り越してしまった。
…
プルルルルルルルル
「父さん…帰って来たよ。もう10分で家に着くよ」
『おお…!!久しぶりじゃないか…!!』
「父さん…黙っていたけど…」
『分かってる。もう何も喋らなくていいぞ。家の下のガレージに車を止めて、コタツにでも入ってゆっくりしなさい』
「……ありがとう」
10分後、ガレージに高速バスが突っ込んできて家が大破した。