ひらめきや本能的な反応を大事にして、表現や感性にリミットを設けない子育て パフォーマーで演出家の松島誠さん:第7回クリエイティブ・ペアレンツへのインタビュー
パフォーマーで演出家の松島誠さんは、6歳になる娘さんと同じくパフォーマーの奥様と3人で、長年暮らされていた東京から移られて、現在は沼津で暮らされています。
松島さんは、世界で広く知られていたパパ・タラフマラのメイン・パフォーマー、美術家として23年間も活躍され、一方ソロ活動では演劇やダンスの枠にとらわれず、身体表現、ミュージカル、美術、演出と幅広いフィールドにおいて、世界を舞台にして活動されています。奥様もパパ・タラフマラのパフォーマーでした。
学生時代からそして結婚されてお子さんが5歳になるまで、37年もの長い間、東京の練馬で暮らされていましたが、お父様の介護がきっかけで沼津に移り住まれたそうです。
子どもへ託す初ギフトは名前 — 世界にただ咲く『花』
名前は親から子への初めてのギフトとも言われます。それぞれの親が子どもに未来への希望や思いを託していることもあると思います。松島さんも自分の大切にしている思いを娘さんに贈られています。
「娘の名前は漢字で『花』と書いて『はる』と呼びます。妻の名は『礼』私は『誠』で、ふたりとも漢字一字の名前なので、娘も一文字で明るいものにしたいと思っていました。また、自分自身が舞台でパフォーマンスする際に、“自意識”ということがひとつの課題となっていたのですが、そんな中、ある時お坊さんが『花は咲こうとして咲くのでは無い。世界にただ咲いている。』と話されているのを聞いた時、演者もそうでありたいという思ったことがずっと心に残っていました。ありのままに生き、咲く。
娘にもそんな風に生きてほしいと、いくつかある候補のうちから『花』を選んだように思います。」
[松島さんご家族]
情報と現物があふれる東京では、何を選ぶかがポイント
私も最初はニューヨーク、その後はずっと東京で子育てをする中で、大都市で生活していると、子どもには多くの雑音が入り込んでくること感じていたので、その雑音がプレッシャーにならないように気を使っていました。仕事を考えると大人にとっては大都会は魅力的な部分も多いですが、やわらかな赤ちゃんを見るとより自然な環境を作ってあげたいと親は感じることもあるでしょう。インタビューでは東京の大都会と自然に囲まれた沼津の両方で子育てを経験されている松島さんにその環境の違いの中で、親のヴィジョンや気配りにどのような変化があったのかお聞きしました。
「東京での暮らしでは、情報で得たものがなんでもその現物があり、なんでも現物を見れます。知り合いの舞台や公演やギャラリーで様々な美術を見ることができます。毎日公演も行われていますが、とてもコンペティティブな世界であることも意味します。舞台をやっている者どうしで刺激を与えあっていますが、競争的でもあります。そうした環境下では、多くの情報から何を選ぶかに気を使いました。住まいは、昭和のマンションの4階で今と比べると狭いものでした。エレベーターが無いので、毎日4階まで階段を上り下りすることは、娘にとっては、足腰を鍛えるのに一番だったように思います。」
生まれた直後の赤ちゃんが全ての身体を確認している
「多くの情報や音が溢れる東京では、どのような音を娘に聞かせるかに気を使いました。絶えず音楽を流していました。その中でも、赤ちゃんの娘は、買い物袋のビニールがカサカサする音に敏感で、好きなようでした。このように娘の耳のセンスをキャッチするように、こんなことにこんな風に反応するのか、と身体の探求を一緒にしていきました。人類がたどってきたように、ずり這いして、ハイハイして立って人の動きになっていく過程を、娘を先生としてみて学びました。とても驚いたのは、生まれた直後ですが、娘は全ての身体の器官を確認しているようでした。3次元の様々な部分の動き、体の一つ一つの部位から細胞の一つ一つまで確認しているようでした。そのことにとてもショックを受けました。私は60、70歳になっても身体の探求は続けていくと思っています。重心の位置とか、どのように立つとかということは、舞台の上だけのことではなく、日常の身体のあり方を大事にしています。」
「( 沼津に移り住んでからの)新しい保育園は、海から30秒のところにあります。自転車で送り迎えするときは、海の脇を通りますし、帰りにはよく海によります。大きな海を見て、浜辺で石や流木を拾ったりして遊ぶと、あっという間に時間が経っています。このように満たされる気持ちになることを大切に思っています。しかし当初は難しいこともありました。」
「問いかけ」は、小さな子どもが自ら気がつくチャンスになる
「娘の保育園のきりが良いように3月末に引っ越し、4月から新しい保育園に通うようになりました。東京では、同い年のクラスに15人いましたが、新しい保育園では、4人だけでした。その子達は年少から一緒で、兄弟のようで結束が固く、娘は『一人で遊んでいればいいよ。』と言われたこともあって、なかなか中に入れず疎外感を感じ、東京にはお友達がたくさんいたので『東京に帰りたい』とまで話すようになってしまいました。そこで園長先生と担任の先生に相談しました。園長先生が園児みんなに『一人で遊んでいればいいよ。』と言われたら、みんなどう思う?と園児全員に問いかけると、園児それぞれが「悲しい」「みんなで仲良くしてあげたらいい」と口々に発言し、最終的にみんながそれは良くないことだと気づいてくれました。それからは、娘はお友達と仲良く保育園で過ごしています。このように子どもたちみんなに問いかけ、考える機会を作って、解決していってくれたことは予想外の素晴らしい出来事だったと思っています。」
ー子どもたちに、正しいことを押し付けるのではなく、自らが考えて納得して行動することを経験していくことは、素晴らしいですね。
「また、保育園での「塗り絵」、それもキャラクターの塗り絵をさせていることには驚きました。我が家では2枚の襖に大きな白い紙を貼って自由に描くようにしています。キャラクターの枠にハマった塗り絵をしていることには、納得できず、保育園の懇親会に原稿用紙4枚に書いてそれは如何なものかと意見させてもらいました。そうしたところ、その後は再考してくれて、別な形になりました。意見を受け入れて、再考してもらえる柔軟性があることを嬉しく思いました。」
移住や環境の変化で、子どもが新しいコミュニティに入っていくことに、とまどいを感じてしまうことはよくあることです。我が家もニューヨークから東京に移住した時には、長男がかなりとまどったり、教育文化の方針の違いに気づいたことがありました。しかしこのように両親がきちんと意見することが受け入れられ、それがみんなの学びの良い機会となり、環境を変えていくことになることは大きなことです。子どもたちは幼くてなんとなくしかわからなくとも、意見し話し合う大切さは、いずれ意識的に気がつく時が来ますし、その姿勢を受け継いでいくことになるでしょう。
ひらめきや本能的な反応を大事にして、表現や感性にリミットを設けない
「表現や感性にリミットを設けないことを大切にしています。美術に決まった答えはありません。ダンスもひな形にハメたりお手本に合わせたりはしません。それでは塗り絵と同じようなことになってしまいます。自発的な衝動から生まれることやイメージにも枠組みはありません。ひらめきや本能的な反応を大事にして、集中するモードを押さえ込まないことが大事です。家では、私と妻が何か閃いた時に、突然二人で踊り出すこともあります。それを娘は暮らしの中で経験しています。また、娘は8ヶ月の赤ちゃんの頃から、飛行機で旅して私たちのパフォーマンスのリハーサルや舞台を見ています。2歳で香港に、そして4歳で台湾や香港と一緒に旅をして稽古や舞台の環境の中にます。それは娘に少なからず特別な影響を与えていると思います。」
[奥様と8ヶ月の娘さんが沖縄での「風の又三郎」の公演を見にきた時の写真]
— コロナ禍ではどのように暮らされていますか?
「私の多くの公演などの仕事がキャンセルされました。香港や韓国での仕事もキャンセルされました。一年のほぼ半分を海外含めて外に仕事で出ていて、家を空けることが多かったのですが、今は家族とともに居る生活のペースができています。コロナ禍でも娘の保育園は、休園にはなりませんでしたが、今は子育てに関しては、妻の方が娘と居る時間が少し多いのですが、だいたい妻が6.5割で、私が3.5割という比重です。朝ごはんとお弁当は、私が作ります。妻が娘を保育園に送って行ってそのまま仕事に行きます。私は二人を送り出した後に朝食をとります。」
— 互いの仕事を理解して尊重する中で、できるだけ家事や子育てを協力して分担しているのは、素晴らしいですね。
感受したものからイメージを広げて表していく
「家の中の遊びでは、娘のイメージを広げることを大切にしています。娘は、絵を描くことが好きで、先ほどお話ししたように、襖の大きさのように広いところに描いています。テレビはほとんど見ていないのですが、家族3人が見たいものを選んで見るときもあります。そして見た後に見たものをそのまま絵に描くこともありますが、そこからイメージした別な物語になったり、ミックスしたものになったりもします。このように見たりして受け入れたものを外に出していく、表していくことは大事だと思います。
そして絵本を読んだり、ボードゲームをしたりもしています。娘が作ったあみだくじを使ったゲームが面白いです。あみだくじの先に何をするか、どんな役割をするかを決めます。動物とか虫になるとか、3人で色々なキャラクターになることもあります。またうんちになることもあります。子どもは、うんちとかおしっこが身近なせいか好きですね(笑)。」
自然体験は、発想の原点
「また家に長く居ると、ウツウツした空気になったりもしますから、人がいないところに出かけます。海に行って浜辺で遊んだり、山や川に行ったりしています。この近辺は、人をほとんど見かけない所が多くあります。妻は、私よりもナチュラリストなので、3人で自然を楽しんでいます。それは、いろいろな発想の原点です。コロナ禍になる前に自然豊かなここに移り住んだことは、良いタイミングになりました。妻は、土を触ることも好きで、家に小さな菜園を作っていたのですが、新たに畑を借りることにしました。大変だろうと心配する人もいますが、家族3人で新たに生み出すことを始めることにワクワクしています。」
世界で活躍する松島さんの子育ては、ご夫婦ともにパフォーマーであることから、子育ても互いを尊重しながら分担されています。また舞台美術も手がけられることもあって、音、音楽、美術的環境を生活空間に広げられて、特に娘さんのひらめきや本能的な反応をとても大事にされています。ここに掲載している写真でも見て取れるように、家族のコミュニケーションは、言葉だけでなく、素敵なボディーランゲージも含めて交わされています。それはリハーサルや舞台に立ち会う機会が、娘さんの一つの環境になっていることも影響しているのでしょう。パフォーマーでなくとも、表現や感性にリミットを設けずに子育てをしていくことは、小さな気づかいからそれぞれ親御さんのやり方で作っていくことができる大事な環境です。
(次週・インタビュー後半に続く・・・)
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"連載『クリエイティブ・ペアレントへのインタビュー』シリーズ"
子どもがクリエイティブに生きるには、
クリエイティブな生き様に触れることが一番です。
しかし、これは子育てだけでなく、
わたしたち、親やすべての世代のひとに言えることです。
クリエイティブな生き様にふれることで、
こんな道、こんな生き方があるんだ
と励まされたり、確信をつよめてさらに自分の道を歩いていけます。
このnoteでは週末を中心に、いろいろなクリエイティブ・ペアレントの方のインタビューを連載しています。
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