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守護霊にささげるお昼ごはんーためにならない京都ランチ紀行(4)

怖がりだけど、おばけの話が三度の飯より好き。いや、うそうそ。さすがに飯には劣る。
でも、腹が満たされれば、前のめりで聞きたいのが怪談だ。

さて、この「ためにならない京都ランチ紀行」、もし、過去1〜3回を読んでくれた方がいたら、この前置きを読んですでに「あぁ、今回もタイトル通り京都ランチの参考にならなさそうだな」と予感した人は多いかもしれない。が、今回は結構役に立つ、はず。特にデートや女子会などで使える店を紹介する予定だ。

しかし、それにはまず私の守護霊の話をさせてほしい(壺を売る展開ではないのでどうか閉じないで!)。

私は京都の中心に在するマンガ関連のミュージアムで働き、そこで主に少女マンガを中心とした展示やイベントの企画をしている。そのミュージアムは元・小学校だった建物をリノベーションしてできているが、そういう経緯からなのかミュージアムはいろんな怪談が多い。学校の七不思議もそのまま受け継いだような施設だ。
霊感のない私でさえ、夜遅くまで作業してたりすると、何かしらの気配を感じたりする。

さて、そんな環境の中、私が館に着任し、5年過ぎようかという頃だったかと思う。当時、私はバレエマンガ展や少女マンガのファッションショーとか、様々な少女マンガ系の展示イベントを一挙に手掛けていた。かれこれ10年も前のことだ。

ある日、研究室に私とAさんが二人きりで、どうしてだったかさっぱり覚えてないのだが、私はAさんにいくつかあるミュージアムの怪談を稲川淳二のごとく一通り披露したのだった。パソコンのモニターから目を離さず話半分に聞いているAさんに全く怖がる様子はなく、手応えのなさに落胆した私は、なんとなしに「Aさんは霊とか信じてないんですか?」と聞いたのだった。

いつも元気が良くて、そうした話を一切信じてなさそうなAさん。「そんなもんいないよー!」と笑いながら返すと思っていたが、Aさんはキーボードを打つ手を止め黙り、ポツリと言った。

「……これって言えってことなのかな?」

なんか急に意味深なことを言い出したのである。
いつもと違う様子のAさんに私は心臓がひゅっとなった。と同時に心が踊った。

そう言われたらもう聞かずにはいられない。
Aさんは「しまった」という顔をしていたが、目をらんらんと輝かせた私を見て観念したようだ。意を決し、話してくれた。

どうやらAさんはものすごく霊感が強い人らしい。ミュージアムでもたびたび視ているのだとか。しかし、こうした話をすると集まってくるから(こえー!)嫌で避けていたらしい。だけど、今日はいやにしつこく私が霊の話をしたがるので、これは守護霊が本人に存在を伝えてほしいと言っているせいなのかも、と言った。

守護霊……!

胸が高鳴った。
というのも私はかねてより自分の守護霊に思い描いているイメージがあったのだ。それは屈強で筋骨隆々な男だ。

そう思ったきっかけは、小学生の時のこと。
ある日、私は自転車ごと車に轢かれ、乗っていた自転車がくっちゃくちゃになった。だけどどういうわけか私は傷一つなかった。それより轢かれた恥ずかしさで、いち早くその場から避りたかった。「病院に行きましょう」という青ざめた運転手に、「大丈夫です。ピアノ教室があるから急がないと。すみませんが自転車だけ家に届けてもらえませんか?」と言い、そのままピアノの先生の家に行ってしまったのだ。その後、先生の家には親から烈火のごとく電話がかかってきた。
「〇〇社の人が菓子折り持って家に来てるよ。お嬢さんはピアノ教室に行っちゃったって言ってて。わけがわからないよ。とにかく早く帰りなさい!」と怒られ、事の大きさに気づいた。

轢いた人は上司と我が家に二人で来て、神妙な面持ちで私が帰ってくるのを待っていた。轢いた車はまぁまぁ大きな会社の営業用の社用車だったらしく、大人になった今なら、これがどれほどまずいことか容易に想像できる。
営業中に起きた事故、残されたぐちゃぐちゃの自転車、ピアノ教室に行ってしまった小学生…。
上司にどう説明したんだろ…。申し訳ない。

突如家に現れた企業のおえらいさんと「お嬢さんを轢きました」と供述する男性。母も最初は事情が飲み込めなかったが、届けられた自転車を見て血の気が引いたという。だけど、のんきにピアノ教室に行き、ピンピンして娘は帰ってきた。母は上司の横で青ざめた運転手の男に心の底から同情したという。「本人も元気なので…何卒よしなに…」と大人の間で何かが決まり、自転車だけ弁償してもらうことになった。

修理に出したら、自転車屋さんはドン引きしていた。「これは新しく買ったほうが安いですよ……あの…これ乗っていた方は……?」と恐る恐る聞かれた。「私です」と言ったら、足があるか明らかに確認していた。その様子を見た母は、
「あなたはきっとものすごい強いものに守ってもらってるんだね…」と言ったのだった。

その一言から、なんとなく後ろにいる守護霊は、「幽☆遊☆白書」の戸愚呂弟のような姿だろうと妄想した。とにかく上半身は裸。筋肉ムキムキ。さて、いよいよその筋肉霊を確かめるチャンスがきたのだ。果たしてどんな人物か?


「あのね、ものすごい乙女なの」

………??

「いるのは女性だよ。もっちゃん(私のこと)自体はたいして乙女じゃない。だけど、この人がものすごい乙女。だからもっちゃんはその影響で少女マンガとか、乙女なものに惹かれてるんだと思う」

思いがけない回答にあ然となった。

乙女ではないという悲しき烙印を押された本体の私、そしてセルフイメージとギャップがありすぎた守護霊。

がっかりした気持ちもあったけど、何か点と点がつながる思いもあった。ここ最近、どこか導かれるように色々な少女マンガ系の企画がまとまったのは、もしかしたら後ろの方の手腕だったのかもしれない。

私の矢継ぎ早にくるだろう質問を察したからなのか。言うこと言ったらAさんは通常業務に戻ってしまった。なぜ乙女が私にAさん通じて存在を伝えたのか謎である。戸愚呂弟と思われてたのが乙女には耐えられなかったのだろうか…?
その後、Aさんは私とそうした類の話をすることはなく、一年後くらいに退職してしまった。

そんなわけで、後ろの乙女の近況を知る手立てはもうない。だけど、もしかしたらこの人の影響なのかも?と思うことはしばしばある。

それは食生活だ。

というのは、何かおっさん臭い低い食事を続けていると、かわいいもの、心ときめく食べ物が異常に欲しくなり、居ても立っても居られなくなるのである。そうした時のランチは本当に大変である。仕事の日じゃなければ、ホテルのアフタヌーンティーに駆け込むのが一番なのだが。昼休憩は一時間だ。

さて、そんな時、後ろの乙女を満足させる究極の仕事ランチが、ガレットだ。

烏丸御池駅周辺では、ヌフ・クレープリーというお店が有名だ。名前だけ聞くとなんとなくあだち充感があるが、ムフではなく、ヌフである。

映える料理に目だけでも幸せなお店。もちろん、見せかけだけでなく、味もちゃんと美味しい。

私の好きなブルーチーズとりんごのガレット


混んでいることが多いので予め予約か、オープンと同時に入店するかしないとなかなか入れない。つまり、さっと済ますランチにはならない。
でも、乙女のためならえんやこりゃである。

ところで私は気に入った店がつぶれたり休みになるという特殊能力があるのだが、ここは潰れる気配はない。つまり、ここは本体の私ではなく、後ろの乙女のお気に入りだから能力の及ばぬところにあるのだろう。

しかし、ここ数年はこのお店もご無沙汰だった。特に行きたいという衝動がわかなかったのだ。
以前Twitterで、「霊能力者の宜保愛子が子供を生んだら霊感がスパッとなくなり、子どもが幼稚園に入ったら戻った」といった話を知り、なるほどなと思った。

確かに私も子どもを生んで一年くらい、育休期間中は、なぜか少女マンガはほとんど読まず、乙女なものと無縁な生活をしていた。授乳の合間にとる昼ごはんは、米に天かすとポン酢をかけたものが主だったし、大好きだったフリルやリボンなどかわいい装飾も、育休中は邪魔くさいだけだった。

霊感ゼロと思っていたが、乙女霊の影響が及ばなかった育休期間を考えると、もしかしたら私にも多少はあるのかもしれない。

育休から職場復帰して、息子も3歳になり、子も赤ちゃんの頃よりは少しだけ手が離れてきた。
すると、ヌフ・クレープリーにいそいそと向かうことが増えてきた。
後ろの乙女の復活を感じる今日このごろだ。

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