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老後の支度
2週間の実家滞在がもうすぐ終わる。
75歳の母の誕生日祝いの為、一人で実家に戻ってきた。
羽田空港につき、スーツケースを運送会社に預け、真っ先に向かったのはポケモンカードスタンドだった。子供達に頼まれたポケモンカードをゲットする為である。ラッキーなことに、誰も並んでいなかったのでサクサクとカードを買えた。長いフライトが終わり、まっさきにしたことがこれだ。自分で自分に呆れる。
子供達は小六、中三となった。
もうすぐ卒業で、中学生と高校生になる。
私がいなくても大丈夫だ。
「ママー、ママー」と泣き叫ぶこともない。
私のあまり上手じゃない料理を恋しがることもない。
子育て中心に生活してきた私の存在価値がこうやって
少しずつ薄れていくのを感じる。
亡くなった父の書斎でこれを書いている。
父の部屋は壁全部に本棚があって、そこに入りきらない本は床に山積みだった。父の死後、それを母と私で片付けた。今は本棚二つと机、椅子、古いオーディオセットが残っている。実家に戻ると、私は自分の部屋で寝るが
それ以外は父の部屋にいることが多い。夕暮れの空を見ていると
ああ、父もこの景色をこの窓から見ていたんだろうなと思う。
ほとんど一緒に暮らすことがなかった父。リタイアしてから
子供達が巣立った家で寂しかっただろうなと思う。
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子供達が大学生になり、家を出て行ったら
私は日本へ帰国するつもりである。
「老後は日本で暮らす」と
ずっと前から家族に宣言している。
ふと、「ああ、こんな感じなんだな」と思った。
私はここに暮らす。
息子たちは、アメリカか、
どこか違う国で暮らしていて
たまに「ママ、元気?」と
短いメッセージを送ってくる。
そんな生活が想像できる。
母に会いに日本に里帰りしてるけれども
子供達に会えなくて寂しいと思う自分が少し嫌になる。
たった2週間なのに。
「これは老後の練習だ」と自分に言い聞かせる。
長男は15歳。
巣立ちまでカウントダウンが始まっている。
親よりも、友達、そして
恋人が生活の中心になる日が来るだろう。
実家に帰るのはクリスマスだけということもあるだろう。
その時が来てもいいように
用意はしておこう。
寂しいだろうし、きっと泣くだろう。
でも、新しい生活も待っているはず。
好きなことをやるんだ。
習い事もしたい。
勉強もしたい。
行ってみたいところはたくさんある。
カメラを持って日本中を旅したい。
そう決めた今回の里帰りだった。