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保護猫フクちゃんの物語

 フクちゃんの名前は幸福の福からとりました、この子がずっと幸福でありますようにと願いを込めて。


私の家から一駅隣の町に外車2台が並ぶ大きな邸宅があります、駐車場には胸の高さ位の花壇が車を囲み、奥様がいつも綺麗な花を咲かせ手入れをしています。

雨の夜、車の中に忘れた荷物を取りに駐車場に行くと、花壇の中にしっぽが股に曲がって丸まった状態のしっぽの奇形の子猫を見つけました、こんな弱った小さな子猫が自分から登るはずはなく、あきらかに誰かが置いてきぼりにした状況でした。

大きな邸宅に外車が止まる駐車場、ここなら保護して何とかしてもらえると思ったのでしょうか。

ご夫妻の住む地域は当時としては珍しく保護猫活動が行き渡っており野良猫を見かけない地域です。

子猫は生まれてから3ヶ月位経っており、おそらく生まれた時はどこかの家で育てられ、 しっぽの奇形のためウンチのお世話が大変になり捨てられ、その後子猫は一人ぼっちでしばらく生きていたと思われます、下痢が止まらず栄養失調で動けなくなった子猫を発見した人が裕福なお宅だと思い、車に乗るときにすぐ目にとまる花壇に置いて行ったのではないか、多分そんな経緯ではないかと獣医さんが言っていました。

生まれてからずっと野良猫だったとは思えないそうです。

脱水状態が酷く奥様が見つけなければ朝には冷たくなっていただろうと言われました。

その時の子猫の状態は、雨に濡れ全身ハゲだらけ、痩せていてしっぽは奇形で股の内側に曲がっているのでウンチがまともにできずお尻はウンチまみれでした。
泣くこともせず雨に濡れたまま丸くなって目を大きく見開きじっとこちらを見つめていたそうです。


こんな小さな子猫が何故こんな酷い状況にならなければいけないのでしょうか、小さな体で親から離され捨てられ、お腹がすいて寂しかったであろうこの子猫が辿った体験を想像してしまい、私は12年経った今でも時々切なくて辛くて涙が出ます。

ご夫妻は猫が好きでアメショーの親子猫兄弟猫計5匹と一緒に暮らしています。
深夜だったため、かかりつけの動物病院は閉まっており、仕方なく救急動物病院で診てもらう事になりました。
しかし皮膚のハゲは感染症ではないらしいが原因がわからないとの事で、皮膚を生検に出すと言い、麻酔もせず皮膚を切りとったのです、今までじっと声も出さず固まっていた子猫のギャーとう凄い叫び声が聞こえて奥様は慌てて診察室に行ったそうです、とても乱暴な処置をされ他の検査結果を聞くのも嫌になり奥様はそのまま子猫を連れて家に戻りました。
このときの傷は今でもあります。

子猫を家に連れて戻ったけれど他の病気を持っているかもしれないため飼っている5匹の猫ちゃんへの感染も考え、かかりつけの病院が開くまでバスルームの脱衣場に隔離し、体を綺麗にして温め、傷を消毒しご飯を食べさせ温かい毛布の寝場所を作って下さいました。

ここまでの経緯をご夫妻の友人である当時の勤務先の上司から聞き、ケータイで撮った子猫の写真を見せてもらいました。
私はどうしてもこの子猫が見たくなり、お願いしてご夫妻のお宅に行く事になりました。

私がお邪魔した時はもう、かかりつけの病院で色々な検査が終わり、しっぽは切断してウンチがちゃんとできるように 手術した後でした。
ただ下痢が止まらずハゲの原因もまだわからず他の猫ちゃんの事を考えまだバスルームに隔離されていました。


私は猫が大好きですが、当時は自分自身が精神的に色々な問題を抱えており、ペットを飼うなんて気持ちの余裕は全くなく、ただただ気になったので見に行きたくなったのです。


静かな広いバスルームの隅のゲージの中でケータイの写真で見たまん丸の目をした、口にチョビヒゲ模様の子猫がうずくまっていました、写真よりさらに痩せて見えました、体中にハゲがありしっぽの手術でお尻がテーピングされエリザベスカラーで身動きが制限されて窮屈そうにしていました。


ボロボロの雑巾、それが私の第一印象でした。

拾われたときのように今度は私の事を大きな目でじっと見つめてきました。
奥様が、正座をした私の腿の上に子猫をのせ撫でると、今度は目を反らし爪をたてゲージに戻ろうとします、
そのまま子猫から手をはなすとゆっくりゲージに戻って行きました、そしてゲージの前で振り返って私をまたじーっと見つめてくるのです。


「あなた誰?カラーを外してよ!私は皮膚病なんかじゃない!早くここから連れ出して!」


叫び声が聞こえたようでした、
見た目とは違いとても気が強い子だなと感じました。

このときの私は、可愛いとか猫が好きだからとか、そうした気持ちではなく、この子は私が守らなくてはいけないんだ、エリザベスカラーを外してお日様に当てなくてはいけないんだ、そう強く感じていました。

ご夫妻の家ではお世話できないのでこれから里親を探すとの事、病気かもしれないですし、しっぽが無くなりウンチはちゃんとできるようになりましたがちょっと普通と違うお尻の穴です、まだ体じゅうハゲだらけであの見た目、この子猫を貰いたい人が現れるのか、とても心配で不安でした。

子猫は下痢が治らず毎日お尻や手足が汚れます、床もゲージのお掃除も1日に何度もやらなくてはなりません、奥様は他の猫ちゃん達も守らなくてはなりませんので子猫のお世話をしたら手を入念に洗い毎回着替えていたそうです、毎日の子猫のお世話でとても疲労され手は酷い肌荒れを起こしていました。

帰宅してからは一晩中ずっと考えていました。
子猫も奥様も早く自由にしてあげたい、カラーをとって広い場所で遊ばせてあげたい、解放してあげたい、でも私に子猫を幸せにする事ができるのかな、、、
でも一秒でも早くあの子猫に会いたいな、、、


あの子猫を生涯愛し幸せにできる人が見つかったらいつでも手放す覚悟で今は私が引き取ろう、、
一晩中考えそう決心しました。
窓の外は明るくなっていました。


職場まで歩きながら朝日を浴びて、なんだか少し幸せな気持ちになり職場に着いてすぐ

「昨日の猫ちゃん飼い主が見つかるまで私が引き取ります」と上司に告げました。



あれから12年、いまだにフクちゃんを引き取る飼い主は現れていません。

「私が飼い主で君は幸せですか?」
 「・・・」  





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