1000字でまとめる『世界標準の経営理論』~ 1-7 取引費用理論(TCE) (第1部 第7章) ~
2019年12月に早稲田大学の入山教授が出版した『世界標準の経営理論』。出版早々に購入するも、面白そうな章だけつまみ食いした以降は、3年ほど本棚の肥やしとなっていた。しかし、2022年10月にマネジメントへの一歩へを踏み出す中で【経営】への関心が再び高まり、この機会に丁寧に読み直すことにした。
本noteは自身の咀嚼を主な目的として、各章の概要を各noteで "1000字程度" で整理すると共に、読む中で感じたことを記録する備忘録である。なお、今の自分にとって目に留まった章から順番に触れていく。
1.本文概要:取引費用理論(TCE)
✄『世界標準の経営理論』該当ページ:P133~P150 ✄
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取引費用理論 (Transaction Cost Theory:TCE) が説明する対象はビジネスの「取引」である。古典的な経済学が無視してきた【人】についての『限定された合理性 (Bounded Rationality) 』を取り込むことが出発点である。
『限定された合理性 (Bounded Rationality) 』とは人が合理的でなくなることを意味するのではなく、「人の将来を見通す認知力には限界があり、人はその限られた将来予見力の範囲内で合理的に意思決定を行う」という意味である。人は常に将来のことを考えながら意思決定を行うが、想定できなかった「不測の事態」が起きるものだ。
【事例】GM vs. フィッシャーボディ
木製部品を組み合わせて車体を作る"オープンな車体製造"から、1枚の鉄板をプレスする"クローズドな車体製造"への移行期において、GMとフィッシャーボディが交わした専売契約が、米国内の自動車需要が急激に伸びるという「不測の事態」によって、根付けの観点でGM側に非常に不利な状況となった。米国内の自動車「ホールドアップ問題」と呼ばれる。
ホールドアップ問題は3つの条件と1つの大前提によって引き起こされる。
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①不測事態の困難性 (unforeseen contingencies)
②取引の複雑性 (complexity)
③資産特殊性 (asset specificity)
④機会主義 (opportunism) ※3条件の背後にある大前提
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「市場でのビジネス取引において、上記の①~③の3条件が高い時は、市場での『取引コスト』が掛かり過ぎるため、取引相手のビジネスを自社内に取り込んでコントロールすべき」ということである。取引費用理論 (TCE) は規範的理論に近く、その「~すべき」の価値基準は、企業の立場から見た「取引の効率性」である。実証研究でも本理論を支持する結果となっている。
2.本章に対する振り返り
ホールドアップ問題は組織内にも存在する。①仕事の着陸地点が見通しきれていない状態でかつ ②複数関係者が関わる様な複雑な状況の中 ③別部門に知見のある仕事をその部門に依頼する場合などには、業務完了までのコスト (要対応日数) や得られるアウトプットなどについては、依頼先部門が示す内容に従う必要がある。
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別部門に依存し過ぎている状況となると、コストやアウトプットの状況が自分にとって望ましくない状態に変質していく場合がある。そして、もしも「そのコストやアウトプットでは仕事の流動が悪くなった」場合には、"その仕事" における①~③の見直すことを考えたり、"その仕事" そのものを自部門に取り込むことを考えることになる。
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また、取引費用理論 (TCE) は『規範的理論 ( "~すべき" を示すもの) 』に近いとの示唆があったが、マネジメントの各場面においても迷いを伴う判断をせざるを得ない場面が多々ある。マネジメントの各場面における自身の判断を補助するものとして、マネジメントの文脈での『規範的理論 ( "~すべき" を示すもの) 』を蓄えておけると良いのかもしれない。