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中秋に敢へて湯桶で味噌醸す (2020.10.01)
自家製味噌を作り始めてからもう6年になる。これまで陶製の容器やタッパーに仕込んできたが、そろそろ本格的な木桶を使ってみたくなり、合羽橋の専門店 オクダ商店(支店)さんを訪ねた。
「普段何kgぐらい仕込まれますか?」
とご店主に問われ、せいぜい2kg以下であることを伝えると、
「うーん、うちで扱っているいちばん小さいもので、5kg用なんですよ。」
伝統的に、味噌桶や漬物桶には塩分に強い竹の箍が使用されるが、加工上の制約で、ある程度の直径以下には作れない、という。なるほど。
「お客さまが、あえて、仕込み量を増やそうとお考えになるなら別ですが、普段の分量からすると、ちょっと大きすぎますよね…」
ご店主がそう断りつつも、突き放すような物言いにならないのは、何か腹案があるらしい。
「でも木桶で味噌を作ると、麹菌が木に染み込んで、年々味わい深い味噌ができると聞いています。」
おっしゃる通り。だから木桶を使ってみたい。
「そこで、あえて、お客さまが丁度良い大きさの桶をお求めになるのでしたら、あえて、ご紹介したい商品があります。」
このご店主は「あえて」が口癖のようで、その後15分に渡る味噌桶談義の中、たぶん50回は使っていた。そんなご店主が「あえて、あえて」と言いながら店の奥から出してきたのが… なんと、湯桶!檜風呂に相性ぴったりな、昔ながらのあれである。
しかし考えてみれば、想定用途がお風呂用とはいえ、まだ股間を洗った手拭いを濯いだりしてないこれは、清潔で立派なサワラ材の桶なのだ。
「湯桶だから、お値段も抑えられます。」
2,500円!素晴らしい!でも、湯桶だから蓋は無いんですよね…?
「蓋。ありますよ。あえて。」
時々「あえて」の使い方がおかしいが、
「これは試作品なのでちょっと汚れていますが、300円です。」
という蓋が、桶に合わせてみると直径ぴったり!もう湯桶とは呼ばせない!
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ご店主本人は自家製味噌を作ったことが無いそうで、これからの時を経て、この桶がどのような味わいを、文字通り、醸し出してくれるのか、銅製の箍が塩分でどうなるのか、など未知の要素はあるけれど、この桶で味噌醸造、チャレンジしてみたいと思います。そう、あえて。
(2020.10.01)