「モンストロマン」3-2


 キティは食堂車の中央にあるバーカウンターで酒を飲んでいた。
 三杯目のオーダーは一番強い酒。バーテンダーは一言、大丈夫ですか? と聞いたが、キティが睨みつけたので黙って酒を用意した。ショットグラスにドロッとした粘性の強い透明の酒が注がれる。一口飲むと、癖のある植物の香りがした。
「テキーラかよ」キティが呟く。
「お取替えしましょうか?」バーテンダーは笑顔を作る。
 キティはそれを無視して、グラスの中身を一気に空にした。
「次はラムをくれ」
「かしこまりました」
 バーテンダーは慌ててグラスを回収し、棚から別のグラスを取り出して酒を注いだ。
 キティがグラスを受け取ろうとしたとき、横から誰かの手が伸びてきた。グラスを横取りした誰かを確かめるためにそちらを見ると、それがジャックだとわかった。
「飲みすぎだ、キティ。これは僕がもらっておこう」
 彼はラムを飲み干し、バーテンダーにグラスを返す。そして一言、水をくれと注文した。
「はい、ただいま」バーテンダーは笑顔で注文に応じる。面倒な客の連れが迎えに来たので安心したらしい。
「何しにきた?」キティは言う。
「アルメルから君がここにいるときいてね。迎えにきたんだ」ジャックが答える。
「あいつ、こんなところまで付いてくるのかよ」キティは舌打ちをした。
 キティの前に水が置かれた。彼女はそれを一口飲む。
「今度の戦いはきっと、今までの比じゃないぐらい厳しいものになる」ジャックが言う「君には戦う理由がない。だから次の駅で降りるんだ」
「お前を黙って見送れってことか?」
「そうしてくれた方が良いと思っている。君は失うものが大きすぎるよ」
「自分は死ぬために戦うのに、あたしには命を大切にしろって言うのかよ。都合が良すぎるな」
「死はずっと前から僕の悲願だった」ジャックはキティの目を見て言った。
「じゃあ、一つも未練は残っていないのか?」キティがきく。
「ない」ジャックは断言する。
「友達も生きる理由にはならないってのか?」
「君もいつか死んで、いなくなってしまう」
「お前にとっては少しの時間かもしれないけどさ。あたしと一緒にいるのは楽しくないのか?」
「楽しいよ」
「じゃあどうして!」
 キティの声に反応して周りの乗客がこちらを向く。
「そろそろ、お席の方に戻られてはいかがでしょうか?」バーテンダーが申し訳なさそうに、ジャックの方を見て言った。
「行こう、キティ」
「ああ……、クソっ」
 二人は席を立ち、食堂車を出ようとする。周りの乗客はすでにこちらへの興味を失っていた。
 元の席に戻ると窓の外は暗くなり始めていた。こちらの客席では見えないが、通路を挟んで西側の座席では窓から夕陽が落ちるのを眺めることができるだろう。
「あたしは寝る」キティはそう言って寝てしまった。
 ジャックは窓のブラインドを下ろし。自分も少しだけ眠ることにした。

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