よの11 無意識にやってしまう
私はコンビニの店員をしている。
週4回ほぼ夜勤だ。
夜電車で店に向かい朝電車で家に帰る。
そんな生活をもうかれこれ5年ほど続けている。
代わり栄えのしない生活だが、
毎回同じ時間に同じルートで通勤していると、
意識しなくても自然に目的地に着くようになる。
考え事をしながらでも、ぼーっとしていても。
気がついたら着いているのだ。
ある休みの日、電車に乗ってイベント会場に向かった。イベント会場の場所は、途中までは勤務地と同じ方向だった。
私は夜勤明けの疲れを感じながら、ぼーっと考え事をしていた。
そして気がつくと、私は勤務地のコンビニの前にいた。
「まじか・・」
私は、勤務地に立っている自分を、もうひとりの自分の視点で見ながらつぶやいた。
イベント時間には完全に間に合わない。
怒るに怒れない自分がいた。
そして。
自分なんだけど自分じゃないような感覚がした。
話しは変わるが。
夜勤明けはいつも疲れてぼーっとしてしまう。
無意識に考え事をしてしまうのだ。
コンビニのアルバイトが早朝終わると、
いつもは店内で朝飯などを買って家に帰るが、
たまに別のコンビニで買って帰ることがある。
別のコンビニに入ると、そこの店員の業務が気になる。挨拶の仕方だったり、商品の陳列の仕方だったり。
とくに商品の陳列が乱れていると気になってしょうがない。思わず直したくなってしまうのだ。
そして。
夜勤明けのその朝は特に疲れていた。
食べ物を買いに、別のコンビニに入った。
早朝のコンビニは他にお客はいなく、店員が一人だった。私は商品を物色しようと陳列棚へ向かった。
と、その時。
一人のお客が入ってきた。
コンビニ特有のピンポーンという音がした。
「いらっしゃいませ」
と思わず声を出している自分に気がついた。
店員と、
入ってきたお客と、
私と、
思わず一瞬顔を見合わせた。
私は思わず出してしまった声の語尾をにごしながら、何事もなかったかのように、陳列棚で商品を探した。
店員も今起こったことの意味を見つけ出せないまま、レジ内の業務に戻った。
私はちょっと考え事をしながら商品を探していた。
そして、ふと気がつくと、私は、
陳列棚の商品を綺麗に並べている自分を発見した。
横でぎょっと見ているお客と、
レジ内から遠目で凝視している店員と、
商品を並べている私と、
私を見ているもうひとりの私と、
がいた。
冷や汗をかきながらも
私は何事もなかったかのように、その陳列棚の中から一品を取り出してレジに向かった。
レジで店員は、
「768円になります」と。
私は千円札を渡しおつりを受け取りながら、
その店員と目が合った。それは、
わかるよ。
という慈愛の目だった。
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kawawano