よの16 山歩き
休日はたまに妻と二人で山歩きをする。
山歩きといっても軽装で散歩する程度のものである。
普段道を歩いていて、見知らぬ人とすれ違いざまに、いちいち挨拶を交わすことはあまりない。
ところが山歩きでは大抵すれ違いざまに、
「こんにちは~」
とお互い挨拶を交わすことが多い。
先週の日曜日は山というより、自然公園に近い道を散歩した。
とはいえ標高500m弱の自然道である。
山といえば山かもしれない。
普段公園を歩いていて挨拶を交わすことはあまりないが、こういうケースはどうだろうかと思いながら歩いていると、早速向こうから二人連れが歩いてきた。
一瞬相手の出方をうかがっていると、
「こんにちは~」と二人連れ。
少しタイミングが遅れて、
「こんにちは~」と我々。
どうやら、ここでは挨拶を交わすようだ。
小鳥のさえずりが気持ちいい。
少し歩くと向こうからまた二人連れの姿が見える。
上下登山用のウエアを着ながら、いかにもという感じで歩いてくる。
今度は心の準備をしながら、相手が近づいてきたタイミングで我々から声を掛けた。
「こんにちは~」と我々。
「・・・・・・」と二人連れ。
あれ?
反応がなかった。
聞こえなかったのだろうか。
それとも。
すれ違いざま、頭を動かす仕草をしたような、しないような。
あれが会釈だったのかもしれない。
または。
こちらの声を掛けるのが遅かったために返すタイミングを逃してしまったのかもしれない。
どうでもいいのだが。
でも。
相手が挨拶してくれなかったことが少し気になる。
木々の葉のそよぐ音が心地いい。
少し歩いて、向こうから男性が一人歩いてくるのが見える。
さて。
今度は、
挨拶をするべきか、せざるべきか。
というより、
挨拶した方がいいのか、しない方がいいのか。
おそらくは。
男性一人。
挨拶してくる可能性はかなり低いと思う。
それに。
挨拶して返されなかったら、ちょっと気になるし。
まあ。
相手が挨拶してきそうだったら、挨拶しよう。
と決めた。
距離にしておよそ30mくらい。
相手の男性がこちらの存在に気づいている模様。
少しずつ距離が縮まっていく。
時折チラ見する。
心臓の鼓動が高なる。
距離にしておよそ5m。
挨拶をするか、しないか。
相手を伺うと相手もこちらを伺った。
目と目が合う。
一瞬見つめ合う。
なんか挨拶しそうな雰囲気。
そして。
まさに挨拶をしかけようとしたその瞬間、
相手は目を伏せた。
完全にタイミングを外された。
「・・・・」
我々は無言のまますれ違った。
木々の間から差し込む陽射しが心地いい。
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kawawano