よの12 空気を読む
仕事を終え、
会社に戻って事務所に入ったとたん、空気が変わった。と同時に同僚達の視線が一斉に私から逸れる。
明らかに、なんとなく変だ。
私に聞かれてはまずい噂話でもしていたのだろうか。
私の悪口でも言っていたのだろうか。
それがなにかは分からないが、
なにかがあることは間違いない。
空気になにかが漂っているのだ。
なにかミスでもおかしただろうか。
さりげなく同僚に会話を投げかけてみたが、
特にそれらしい話しは出なかった。
ただ。
同僚の対応がなんとなくいつもと違うのだ。
何が違うのかと言われても答えられないが、
なにかが違うのだ。
視線が合うとスッと逸らされたり、声色もなんとなくいつもと違う。
なんだか表面をとりつくろっているような気がするのだ。
きっと何かある。
他の同僚にも探りを入れてみたがやっぱりわからない。わからないとよけいに気になるものだ。
はっきり言ってくれればいいのに。
と思う。
しかしながら。
もしかすると私の気のせいなのかもしれない。
もともと何もなかったのかもしれないし。
または、あったとしても
はっきりとは言えないレベルのものなのかもしれない。
誰も何も言ってこないということは、
その程度のことなのだろう。
こういう時、
よけいな詮索は無用である。
空気に逆らってはいけない。
私はそれまでの探索心を捨て、あえてその空気に触れないように振る舞いはじめた。
すると、
同僚達が何かを感じたのか、
今までの空気が少し変わった。
(ような気がした。)
そして、それからはなんだか
同僚達がほんの少し私に気をつかってくれているような感じがした。
そうしていつの間にか。
いつもの元通りの空気に戻っていた。
そう。
何事もなかったかのように。
それが空気を読むということなのだ。
そして後日。
事務所で仕事をしていると、
同僚の一人が貰い物のお菓子をみんなに配って食べた。
ちょうど今いる人数分だった。
意外と美味しいお菓子だった。
と、ちょうどその時、
仕事から戻った別の同僚が事務所に入ってきた。
一瞬、事務所の空気が変わった。
と同時に全員がその同僚から目を逸らした。
もう一人いたのか。
*******************
お読み頂きありがとうございます。
もしかして「クスッと」いたしましたら
「スキ」を押して頂けますと幸いでございます。
kawawano
小さな喜びの積み重ねが大きな喜びを創っていくと信じています。ほんの小さな「クスッ」がどなたかの喜びのほんの一粒になったら、とても嬉しいなぁと思いながら創っています。