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非常事態に憧れて、うんざりして

 何が起こるか分からない世の中に憧れるのに、予測不可能な出来事にうんざりする。明日、予想だにしていなかったことが起こる。すると誰もがそれをお祭りだと思う。特に自分とはちょっと離れた出来事だと。自分が当事者でないのなら、それは大いに楽しめる物語だ。
 そしてこの世の出来事の多くはほとんどが「自分とは関係のない」ことで、所詮私達はその痛みも悲しみも喜びも、分かったふりしかできない。だからこそそれは、心を動かす。「本物」ではない向こうの世界の物事として、どこか楽しむ余裕があるのだ。

 でも、そういうできごとはもしかすると、「自分の周りでも起こるかもしれない」。そう、ふと思うことだってある。我に返るというか、ちょっとそれを考えてしまう瞬間は誰にだってあって、そうすると私達は、楽しんでいたはずの「非日常」を、もっともっと、自分とは遠ざけたくなってしまうのだ。
 勝手な話だけど、それが、憧れ/うんざりする人の感情である。傷つきたくない。何よりも自分だけは、変わらぬ正常な世界を生きていたい。もちろんちょっとしたスパイスは歓迎だけど、いつもじゃなくていい。不安になるから。あるいはもう不安がたくさん心の底に溜まっていて、それが吹き出してしまうのが嫌だから。

 何が起こるかわからない世の中。そしてそれが簡単に知れ、広まり、消費される世の中。そういう時代に私達は、好奇心と不安の狭間でいつも、微妙な顔をして立っている。

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