安部公房の小説『箱男』が映画化!
2024年が小説家の安部公房の生誕100年にあたるというのも驚きだが、亡くなってから30年以上経つことも信じられない。安部は文学だけでなく、映画、演劇、ラジオドラマでも意欲的に作品を発表し、勅使河原宏が監督した『砂の女』(1964年)、『他人の顔』(1966年)、『燃えつきた地図』(1968年)などの作品に原作や脚本を提供したコラボレーションもよく知られている。
ところが、安部の代表作である『箱男』は舞台化はされたものの、いまだ映画になっていなかった。資料によれば、ヨーロッパやアメリカの映画監督が何度か映画化をしようとしたが、原作者である安部公房から許諾が得られず、唯一、許可がおりたのが石井岳龍監督だったという。一度は頓挫した映画の企画が、27年越しに実現したという、いわくつきの作品である。
映画『箱男』のつくり手たちの強い思い入れは、オープニングから伝わってくる。安部公房は手書き原稿が当たり前だった時代に、いち早くワープロ入力を取り入れたり、カメラやプログレ音楽に凝るなど、先進的なものを貪欲に取り入れるタイプだった。その安部がみずから撮影したモノクロの写真と、撮り下ろしの映像をコラージュしながら、原作が発表された昭和48年へと、一挙に観る者をタイムトリップさせる演出が見事である。
原作は複数の視点を交錯させながら、断章形式で語られる複雑な作品である。映画版『箱男』はプロットをある程度なぞりつつも、アクション場面やエッジの効いた編集によって、小説とはかなり異なるアングラな世界を創出する。映像化がむずかしい文学作品なのだから、原作者の安部公房も忠実な映像化は期待していなかっただろう。小説に触発されつつも、自由自在な映像世界に置きかえられた本作は、安部が望んでいた形に近くなったのではないか。(編集部)