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平山は私。PERFECT DAYSは私の映画。

「PERFECT DAYS」を二度見ました。年末に小さなスクリーンで、一昨日大きなスクリーンで。年末は後方の席から、一昨日は前方の席から。どちらも見ているのは中高年ばかりでした。

私が✕でツイートしても「PERFECT DAYS」に関してはほとんど反応がありません。この映画の客層を思い浮かべてみると、反応がないことにもうなずけます。ツイートするような人たちはこの映画を見てないのです。

映画のレビューを読んだりしても、昭和を知らない人たちからは辛辣なコメントが多くなされています。その多くは、<この映画にはドラマチックな展開がなく、中高年のおじさんがトイレ掃除をしている日常を淡々と映しているだけでどこがおもしろいのかわからない、観客がいることを無視しているのではないか>というものです。

たしかにこの映画はトイレ掃除をしているおじさんの日常を繰り返し映し出しています。でも繰り返しの平凡な日常の中にも、ささやかなドラマはあり、おじさんは寡黙ながらも感情をあらわす瞬間があります。

もちろん殺人や火事やハイジャックや隕石の接近や大失恋などはありません。だからといってドラマチックではないわけでありません。私には十分にドラマチックな作品です。

ただこの作品にドラマを見出すには、平凡な日常の繰り返しこそが貴重であるという意識が必要なのだと思います。人は繰り返しを生きて死んでゆきます。朝起きて仕事をして食べて風呂に入って寝て、飲んでうんこしてセックスして、笑って嘆いて喜んで泣いてーーーこれはみな繰り返しです。

その繰り返しの中に結婚があり出産があり病があり事故があり人の死があります。ときには震災に遭ったり戦争に巻き込まれたり乗った飛行機が火事になったりする。そんな悲劇もあるかもしれません。

しかし多くの人はニュースになるような悲劇に遭遇することなく、ニュースを経て悲劇を知るのではないでしょうか。そしてその悲劇を知ったときにあらために平凡な繰り返しの日常こそが貴重であることを知るのだと思います。

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「PERFECT DAYS」は小津安二郎の映画を彷彿させます。日常の繰り返しの中のささやかなドラマを描く。これが小津安二郎です。

役所広司はこの映画で<平山>という主人公を演じています。<平山>とは、小津安二郎の映画で笠智衆が演じた主人公の名前です。

笠智衆の<平山>は丸の内の企業に勤める重役で、年増の娘がおり、妻に先立たれた<平山>の世話をしているのでなかなか嫁に行かない。それを<平山>が友人たちが心配してあれこれ世話を焼く。

たとえば「秋刀魚の味」はそんなあらすじです。

「PERFECT DAYS」を見て辛口コメントを残した人たちは、おそらく「秋刀魚の味」にも同じようなコメントを残すのではないかと思います。

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とここまで書いて、なんだか書いてることがつまらないと思ったので、この映画の良かったところを羅列してみます。

①まず音楽。ルー・ルードの「Perfect Day」が素晴らしい。

➁一度目には違和感のあった<スタンダードサイズ>が二度目にはしっくりくる。

③平山の住むアパートがなんとも言えない。外壁のモルタルが汚れたまま朽ちてゆくのを待っているようなアパート。よく見れば都会の街角に放置されている昭和なアパート。

④③のアパートが同じ役所広司の「すばらしき世界」に似ているが、構造はいくぶん違う。ただ、出所した三上(役所広司)が平山の仕事を就いていてもおかしくない。同じように務められるかは疑問だが。

⑤山田洋次監督で高倉健が演じてもおかしくない。あるいはマーチン・スコセッシ監督でロバート・デ・ニーロが。

⑥木漏れ日に注目した点が素晴らしい。日常の繰り替えの中にあるちょっとした幸せを、平山があちこにに見つける。それが木漏れ日だ。

⑦平山が銭湯の帰りに自転車で向かう酒場がいい。よくぞ、ここをロケハンしてくれたと思う。浅草好きならいちどは迷い込んだことのある場所だと思う。

⑧平山が酒場で飲むのが、チューハイであるところがいい。ふだんはビールばっかり飲んでいる私も、映画を見た後真っ先に昭和な酒場を探してチューハイを飲みました。

⑨平山が持ち歩いているカメラがいい。オリンパスのXA。今見てもフォルムがかわいい。デジタル版を復刻してはどうか。

⑩麻生祐未演じるセレブな妹が、「これ好きだったでしょう」と渡す紙袋がいい。それはなんと紅谷さんの袋。つまり中身はクルミっこなのだろう。

⑪⑩から推測するに、兄妹は鎌倉出身ということになる。それを意識して選んだ紙袋もいい。鎌倉の出身で妹は運転手付きの黒いセダンに乗って娘を迎えにくる。兄はトイレ掃除を仕事にして下町のオンボロアパートに住んでいる。でも昔は違ったんだろうと想像させる。その設定とさりげない描写が。

⑫何よりも役所広司がいい。役所広司の目の表情がいい。映画のラスト数分見逃せない。

という感じです。

文章ずっと書いてないので支離滅裂ですが、もう二回は映画館で「PERFECT DAYS」を見ようと思ってます。


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岡本雨@amayadoribooks
もしも、私の文章で<人生はそんなに悪くない>と思っていただけたら、とても嬉しいです。私も<人生はそんなに悪くない>と思っています。ご縁がありましたら、バトンをお繋ぎいただけますと、とても助かります。