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各作品の第1話へのリンクです。 (作者50音順) 神楽坂らせん 宇宙の渚でおてんば娘が大冒険『ちょっと上まで…』 かわせひろし 少年とポンコツロボと宇宙船『キャプテン・ラクトの宇宙船』 道具として生まれ命を搾取されるクローンたち『クローン04』 にぽっくめいきんぐ 汎銀河規模まんじゅうこわい『いないいないもばあのうち』 宇宙人形スイッチくん夫婦の危機を救う『アリストテレスイッチ』 幾つもの世界と揺らぐリアリティ『町本寺門は知っている』 波野發作 銀河商業協同組合勃興記
「だから、何を?!」 棒のように立ち、両手をグーにして体の横に突き下ろす女が居る。和室にだ。ほっぺに朱が灯り、白ニットの下のスカートがひらっと勢い良く揺れた。 「だから、何がだよ?」 あぐらをかいて畳に座り、眉をしかめた男も居る。女の揺れたスカートの中はかろうじて見えない程度の、絶妙な角度と距離にその男は居る。 女のミディアムヘアーの上には、ウサギのように左右に延びたリボンが在り、そのリボン付近を、男は、うんざりしたような表情で横見していた。「このCMのことだよ、健
コンビニの手提げビニール袋には、宅飲み用の生ハムと、チーズが入っている。あーさんの大好物だ。 (寿命か……寿命が伸ばせたら、あーさんと漫画喫茶行ってゲームしてカラオケ行って旅行して……) 帰宅して、洋室の椅子に2人で座って乾杯した。 「セミナー行ってきてさ」 今日のことをかいつまんで話す。 そしていよいよ、寿命シャンプーの配合物質が、地球外技術なのか? それとも純地球産なのか? という点について語ろうと僕はした。でも、あーさんはそれを遮り、なぜかイラついた口調で
あっという間に金曜日が来た。業務を午前中で終わらせ、僕は山手線に乗った。 向かったのは、東池袋のはずれにある公民館の一室。腐女子の集まる、いわゆる『乙女ロード』の付近だ。ここで、夜中のネットサーフィンで見つけた例の「人生ゲーム」が行われる。 6畳くらいの明るい一室で僕を出迎えたのは、ブルースーツとベストで身なりを決めた男性だった。髪が整髪料でしっかり整えられていた。「青木」と名乗った彼は、偶然、青いスーツに青木なので、(紳士服店か?)と思った。青木さんの他にも、ワン
例えば接客業だったら、出勤したら「おはようございます」だと思う。でも、僕の職場には挨拶はあまり無かった。 「万里の長城」とあだ名される壁で、各ブースがぶどうの房のように区切られていた。 中国の本家「万里の長城」はそんな形だっけ? とも思うが、その壁は、職員同士のコミュニケーションを絶つためのもの。他の技術知識が交じると、判断に影響が出るから。 チェックすべき製品の情報は、上長から、手持ちのデバイスにデータとして送られてくる。コピーや閲覧には制限がかけられ、デバイ
朝ごはんに昨日の残りのカレーをお願いしたら、あーさんは「その前に、燃えるゴミを出してきてくれない?」と言ってきた。 ゴミのことより、先のことを考えなければ。僕らの将来の為に。 仕事をしなくても勝手にお金が転がり込んでくるようになったら、メイドさんを雇って、あーさんを雑事から解放することができる。そして、海外旅行に二人で行ったりして、楽しく暮らすんだ。 アリストテレス先生の時代には奴隷制度があった。 奴隷には「苦役を与える」という悪いイメージがついているけど、
「明日は大変なの?」 と、嫁のあーさんが聞いてきた。 日曜の夜は憂鬱だ。仕事の滝が始まるし、明日は「査定」を出さなきゃいけない。地球外のトンデモ技術が、混じっているか否かを判断する査定をだ。地球人の脳みそしか持っていないのに……。 あーさんは「お疲れ様」と言って僕の肩をぽんと叩き、自身の椅子に戻った。おつまみの豆を食べながら、いろいろと話を振ってくる。声優養成所時代の友達が結婚したとか、友達とその旦那さんとが、風呂掃除の仕方について喧嘩してるらしいとか、新しいネトゲ
あなたは、働かなくても生活できるようになりたいですか? そう聞かれたら、僕は迷わず「イエス」と答える。時間の許す限り、考えたいことがたくさんあるからだ。 「3次元空間を4次元球が通過したらどうなる?」 塾講師のバイトのときに、社員の先生方とした雑談だった。 「具体例から考えた方がいいよね」 と、先生の一人が言った。 目の前にある、生徒から集めてきた答案用紙。この紙は2次元空間だ。僕は一番上の一枚を手に取る。丸文字の、女子生徒が書いたものだ。 その答案の、空欄
土曜の朝。右隣のお布団ではキヨくんが寝ていた。私は布団を抜け出して、隣の洋室に移動した。 (昨夜の寿命シャンプーの件、どうしたらいいんだろう?) 私の勘は「ダメ、ぜったい」と、麻薬の標語のような警告を発していたけど、それを伝えても、キヨくんは反論してくると思う。言い合いするのも疲れるぐらいに、アレコレと変な理屈を言ってくるのが、いつものパターンだから。 紅茶の入ったマグカップを片手に、洋室をうろうろと歩いて行ったり来たりしていたら、視界の端にあの人形が映った。「ス
あっと言う間に金曜日がきた。 家を出て待ち合わせ、一緒に外食がしたかったんだけど、キヨくんには業後に予定があるんだそうだ。一応、お酒の買い置きもあるから、キヨくんが返ってきてから一緒に晩酌かな、と思っていた。 夜になって「ただいま」と玄関のドアを開けたキヨくんは、今朝送り出したときとは違う雰囲気だった。目がキラキラとしている。鼻息が荒い。なんだか少し嫌な予感がした。 普通にご飯を食べ、普通にお風呂に入って、二人で洋室に移動した。晩酌用に、生ハムとチーズと、ビールと
『オクレルスマヌ』 『りょうかい』 『さきいか』 スマホのLINEでのやりとり。さきいかが私だ。 子持ちの咲良(さくら)にはこれで伝わるだろう。案の定、咲良から返信で、イカの絵文字が五つと、『ママロモーモね』と返ってきた。 大絶賛独身中の愛(あい)と駅で待ち合わせて、咲良を待たずに二人で、カフェとパスタの店「ママロモーモ」に入った。私はシンプルに、チーズケーキと紅茶を注文した。 「あたしもチーズケーキ。ドリンクは今日のコーヒーで」 「かしこまりました。今日のコーヒー
声優の養成所を出た私が、西新宿でお弁当屋のバイトをしていた時。お客の中に、キヨくんこと、今田清太郎(いまだ・きよたろう)さん二十九才(当時)がいた。 印象的だったのが、雑談中に彼が職業を「ひよこ鑑定士」と名乗ったことだった。ひよこ鑑定士は、オス、メス、オス、メスとひよこを選り分ける仕事だと思うけれど、彼の左手には鍵付きのアタッシュケースが握られていた。 「珍しいお仕事されてるんですね」 と応対しつつ、私の興味は、アタッシュケースの中に向いていた。ケースの中から「ピヨ
あなたは、働かなくても生活できるようになりたいですか? そう聞かれたら、「専業主婦は、家事から逃げられないんだ」と私は答える。それが現実なんだから。なのに夫のキヨくんは、そんな夢みたいな目標に向かい、机上のノートパソコンをカチャカチャとやっている。 「もう月曜が襲ってくるのか。面倒だなぁ」 キヨくんは、ノートパソコンをいじる手を止め、机の前でため息をついた。 「明日は大変なの?」 と、聞いてみた。 「前に扱った、マイクロダイソン球の件でさ。反論が来ているんだよね。
人類は、未曾有の「まんじゅうこわい」に直面した。 落語どころの話ではない。文字通りの恐怖だった。その初期段階において、まんじゅうの形をした栗ーチャーは、戸棚の奥などから突然現れた。まるで、買っておいたのを忘れて、賞味期限が切れた事に無言の抗議をするが如く。 「冷暗所が好きなのか?」 などと、同僚は悠長な事を言っていた。 コーノード・チャカテキン博士の特効薬はすばらしい効果を発揮した。栗ーチャーからクリムシンを引き出して、薬をスプレーで振り掛ければ良い。それで動き