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2-02. 人生ゲームの誘惑

「明日は大変なの?」
 と、嫁のあーさんが聞いてきた。

 日曜の夜は憂鬱だ。仕事の滝が始まるし、明日は「査定」を出さなきゃいけない。地球外のトンデモ技術が、混じっているか否かを判断する査定をだ。地球人の脳みそしか持っていないのに……。

 あーさんは「お疲れ様」と言って僕の肩をぽんと叩き、自身の椅子に戻った。おつまみの豆を食べながら、いろいろと話を振ってくる。声優養成所時代の友達が結婚したとか、友達とその旦那さんとが、風呂掃除の仕方について喧嘩してるらしいとか、新しいネトゲの話とか。平和でいいなぁ。反論、どう跳ね返そうかなぁ?


「程々にしておきなね? 明日の仕事、大変なんでしょ?」
 はいと答えた。明日の仕事の要点を、脳内シミュレートしておきたかった。それを察したのか、あーさんは

「先に寝るね。おやすみ、キヨくん」
 と、寝室に消えた。

 僕は、明日のやることリストをパソコンで箇条書きにしていく。効率よく案件を処理するために、ある程度の枠組みを作っておきたかった。反論の中身を見て、僕に「先入観」が生まれてしまうよりも前に。

 仕事の下準備が終わった所で、調べものに戻ることにする。資産を増やす方法探しだ。

 満員電車に乗るのは非効率的。時間の浪費はもったいない。そんなこんなで削られた後の残り時間でしか、考え事もできないなんて!

 アリストテレス先生は『形而上学』でこう言っている。
「すべての人間は、生まれつき、知ることを欲する」

 おっしゃるとおり! でも、知るには時間の自由が必要だった。古代ギリシャでは、身分が自由人と奴隷の二種類あって、自由人は余暇を持ち、その余暇で考え事をしていたんだそうだ。

 今の世界で「自由人」になるにはお金が必要。でも僕のアタッシュケースには、札束ではなく仕事の書類(反論)が詰まっている。これを処理しないとあーさんを養えない。

 そして、今就いている事務仕事は、資産を生まない「労働」。自由人よりむしろ奴隷に近い現在の僕には、自由気ままに思索に耽(ふけ)ることは許されていなかった。

 そんな中、「人生ゲーム大会」というWEBサイトを見つけた。テキストだけの簡素なサイトだったけど、その内容に興味を惹かれた。

 なぜって、その人生ゲームは、クリア条件が「資産が家計を上回ること」だったから。それってまさに「働かなくても暮らせる」という、僕の悲願そのものじゃないか?

 もし、働かなくても生活できるなら、テーマを自由に決めて、それこそ好きなだけ思索に耽ることができるわけだし、あーさんにも良い思いをさせてあげられるし。そうなるためのヒントが、その人生ゲームにはあるかもしれない。

 参加申請は速攻だった。この時は。

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