2-06. 何故怒っているんだろう?
コンビニの手提げビニール袋には、宅飲み用の生ハムと、チーズが入っている。あーさんの大好物だ。
(寿命か……寿命が伸ばせたら、あーさんと漫画喫茶行ってゲームしてカラオケ行って旅行して……)
帰宅して、洋室の椅子に2人で座って乾杯した。
「セミナー行ってきてさ」
今日のことをかいつまんで話す。
そしていよいよ、寿命シャンプーの配合物質が、地球外技術なのか? それとも純地球産なのか? という点について語ろうと僕はした。でも、あーさんはそれを遮り、なぜかイラついた口調で、
「嘘っぱちだって、なんで気づかないの?」と言ってきた。
ちょっと待って欲しい。
テロメアを伸ばす配合を得るためには、どんな技術が想定できて、どの箇所に地球外技術混入の可能性があるか、それを喋りたかった。口に出すことで理解が深まることもあるから。
アリストテレス先生も言っていた。物事を学ぶときは、まずは、その対象について知ること。その上で、観察して、分類し、判断する。なのに、あーさんの「嘘っぱちだ」と決めつけるその判断が、どのような観察に基づいて行われたのかが、まったくわからない。
このあたりを、冷静に、論理的に語ったつもりだったが、あーさんはぷんぷんと怒りだした。
「もう知らない! 勝手にすればいいでしょ!」
(どうしたんだよ……ほんと……)
あーさんはワイングラスを持って、洋室を出て行った。
僕は、その後のネットサーフィンもあまり楽しくなかった。
◆
窓からの日差し。
朝……というには時間は遅いようで、太陽はだいぶ高い位置にあった。あーさんの布団はすでに畳んであった。
のそっと起きて自分の布団を畳み、端によけておいたコタツ兼テーブルを部屋の真ん中に戻す。台所で、冷蔵庫から麦茶を出して飲む。
あーさんは買い物だろうか? 友達と何処かにでかけたかな? 昨夜、凄く怒っていたしなぁ、と考えていると、洋室からかちゃかちゃと音がする。覗くと、椅子に座ったあーさんがテレビゲームをしていた。
「あの、おはよう」
声をかけると、彼女は無言のまま、コントローラーのスタートボタンを押し、メニュー画面を出し、ゲームの進捗をセーブした。そしてゲームとTVの電源を消し、こちらを向いた。
「キヨくん、あのさ。この、スイッチなんだけど。押すときが来たと、私思うんだ」
彼女がそう言って僕の正面にドンと置いたのは、猫耳モフモフの人形だった。彼女が「スイッチくん」と名づけたソレ。これまでも、謎のケンカが発生すると、いつも彼女の視線はソレに向かって泳いでいた。たしか、あーさんの友達からもらったって言ってたっけ。
見ると、頭に貼られていた「押すなよ! ぜったいに押すなよ!」と書かれたガムテープは剥がされていて、赤丸のボタンスイッチが露出していた。
「ガムテープ、剥がしたんだね」
と言いながらも、内心では、どうした? と思った。
スイッチを押したらどうなるのか、聞いても教えてくれず、「お金は出てこないよ? とにかく押しちゃダメ」としか返ってこなかったソレ。
「いい? キヨくん。頭の赤丸スイッチを二人で同時に押すの。さくらがそう言ってた」
いつになく饒舌なあーさんの話を要約すると、どうやらこの人形は、スイッチを同時に押した二人の揉め事を解決してくれるらしい。僕なら機能に即して「解決君」とでも名付けるだろう。
そして、一度起動させると、二週間くらいでもう、動かなくなるんだそうだ。地球外技術混入の案件を一件、処理する位の時間だった。
果たしてどういう仕組みなのか、地球外技術が使われているのかどうかがとても気になったけれど、あーさんは「今は私の話をしてるの!」と食い気味に、赤丸スイッチを備えたその人形をドンと置き直した。
これは……相当怒ってるなぁ。理由はよく分からないけれど、こちらの話は聞いてもらえない流れのやつだ。僕はその赤丸ボタンに指を伸ばした。あーさんも指を出す。
「じゃあ、押すね? キヨくん、いい?」
「う、うん」
「「せーの!」」
ポチッとな。
ブイイインと、サイクロン掃除機に似た音がして、しばしのアイドル時間が生じた。起動時のタイムラグだろう。
シュポ! という、何かを吸い込むような音。
そしてその人形は動き出した。首をゆっくり左右に振った後、赤いコントローラが、まるで左手のように挙がった。
『やあ。呼んだのは、君達かい?』
あーさんと僕とは、それぞれ違う言葉で、驚きの声を発した。
〈続く〉
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銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE
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