人と人との関係性が面白い~ゴールデンカムイ~
漫画やアニメは、リアルなものもファンタジーも好きだけど、時代背景に沿ったファンタジーも大好き。
私は歴史をちゃんと勉強してこなかったので、「鬼滅の刃」を読んだ時に、大正時代の勉強をやり直そうと思った。
人に対する考え方や家族関係、街並みや文化を勉強することは、今の自分たちの考えにつながる面白さがある。すっかり変わった部分、変わって良かった部分、変わらない部分を思う。当時を基にした考えはもしかしたらもっと古くから通じているものがあって、普遍的なものを考えることにも至って面白い。
日露戦争が終わった直後で、明治末期の設定。私の父方の祖父が生まれた頃。
そのちょっと後、「鬼滅の刃」の時代設定があり、さらにその少し後に母方の祖父が生まれている。
その頃の日本てこうだったんだ。と思う。
特に北海道。
母方の祖父は新潟で生まれ、子供の頃に家族の都合によって札幌で少し暮らし、その父親は鉄道をひく指揮をとるべく北見紋別で中学生くらいまで暮らした。
私が夫となる彼を祖父に紹介した時、夫が札幌の人だとわかって喜んでいた。
結婚したのはニュージャージーだったけど、半年とちょっとしてから、帰国し住み始めたのは札幌。6年ほど暮らして、少しだけ北海道の土地や文化を知った。
「ゴールデンカムイ」では、そんな馴染みのある場所の、昔の様子がよくわかる。
当時、小樽は札幌より人が多く住んでいたとか、その街並みが、言葉による説明からも画からも伝わってきて、祖父に思いをはせる。
おじいちゃんはこんな景色を見てきたのかな。こんな服装だったのかな。どんな暮らしだったのかな。当時の人々は何を大切にし、どのような考え方だったのかな。
アイヌ文化についても、とても詳しい。アイヌについての話と言っても良いのだろう。アイヌにも種類があるなんて、地域や文化に差があるなんて、初めて知ることばかり。
共通するのは動物や自然との関わりを大切にしながら、命をいただく。そこで暮らす人々の言い伝えや考え方は文化となり、そのやり方は合理的にも感じる。大自然と共存する姿は、私たちの失ってしまったあらゆる行動や考え方を振り返らされる。
そんな暮らしや考え方をアシリパさんに教わる度に、主人公杉元の受け入れる姿は、まっすぐで気持ちが良い。時には抵抗感ありつつ尊重し受け止める様子に本来、人はこうありたいと思う。
対照的に描かれるのが、戦争を思い出すシーン。何度も。各々が。
そんな風に違う文化も、違う暮らしをする人々も、本来は受けいれられる人たちのはずなのに、敵対し、生きるために殺し合う。その後生き抜いても、その傷がいつでも、いつまでもうずいて苦しむ。
戦争の恐ろしさを描いた作品でもある。
トラウマにさいなまれ、それを乗り越えたふりをしていても、自分が生きるために人を殺さなければならなかったことで、元の自分に戻れない。
杉元はそう表現していた。
生き物と対峙し、暮らすための知恵や言い伝えをアシリパさんから教わることで、杉元は戻る故郷がなくても自分の中の人間らしさを大切にしていけたのではないだろうか。
杉元は日露戦争を終え、ある約束と自分の思いから北海道の砂金集めをしていた。
その途中で埋蔵金の話を知り、アシリパさんと出会う。
アシリパさんはまだ小さくて、周りにも子供だとかお嬢ちゃんとか呼ばれるけれど、堂々としており、どんな恐ろしい場面に遭遇しても動じない。揺れる考えにも、しっかりと向き合い、芯がある。それに大人の事情をいろいろとわかっているところから思春期迎える頃かな。最後の方では、杉元の脇の下くらいだった身長が肩を超えている。
この勇ましいアシリパさんが、特に可愛いのは食いしん坊なところ。食に関してはアイヌの教えを守り、生かし、大自然と向き合って大切にしている。今どきの若者の部分もありつつ、何より食べるのが大好きだ。
食べるのは生きること。美味しいのは生きる楽しみ。
名作は必ずそうであるように、様々なキャラクターの個性が面白い。
そして「ゴールデンカムイ」では敵となる人がハッキリしつつ、その当人や部下たちの個性に魅力がある。
私が一番好きな部分は、それぞれのキャラクターとの関わり合い。
トップに立つ人の独断だとか責任だとか本人の思う正義はあっても、その下で任務を遂行する人たちにもそれぞれ考え方がある。そこには「悪」や「敵」ではない、ただその人の個性がある。
個性がわかるだけでなく、その都度、利害関係によっては敵対していたかと思うと協力し合ったり、笑い合ったりもする。
一緒に旅を続けていく中で、お互いに情も芽生える。根っこではお互いを疑い警戒する気持ちをなくさないけれど、苦楽を共にし同じ経験を超えて、時には助け合う。読んでいる側もそれぞれの過去を知っていくので、情がわかないわけがない。
その思いを心に携えながら大切にしたい人、手に入れなければならない物をめぐっては、その瞬間に敵味方をハッキリさせてしまうしかない場面とも遭遇する。
その残酷さこそが戦争なのだなと感じて胸が苦しくなる。そんな瞬間が何度も訪れる。
主人公杉元とアシリパさんの、熱い信頼関係や、積み重ねて確実に存在する白石への信頼、敵対する人たちの仲間同士の思いにもグッとくる。多くの皆に葛藤があり、信じる誰かや何か、思い描く未来があり、任務がある。その辺りの思いの変化を自然に、時にはコミカルに、丁寧に描いている。
様々に事情を抱えた個人個人の思いが、終盤になるにつれ激しく交錯し、胸が熱くなる。原作だと、そのコマの流れを自分のペースで読めるから、緊迫感が自分の思うスピードで伝わってくる。一人ひとりの必死な思いを感じ、心の中で何度も声をあげながら読んだ。
原作も好きだけど、アニメも好き。アニメ向けに、原作のシーンをカットしていたり、エピソード自体がなかったりもする。上手に前後させるなどしてストーリーに流れとスピードを作っている。台詞も変えている部分があるけれどニュアンスを残すようにしているみたい。コミカルなシーンはちゃんと笑えるようになっていて、笑い声を抑えられないところもあった。
私は杉元を呼ぶアシリパさんの声のかけ方、アシリパさんを呼ぶ杉元の声のかけ方が好き。
実写もとても良いそうなので、機会あったら是非観てみたい。Amazonプライムに回ってこないかなあ。
今はアニメでは、原作の25巻途中まで。この後、最後までをアニメではどう描かれるのかな。とっても楽しみだー!
※暴力描写、流血シーン、残酷な描写、そして原作漫画には性描写があり、子供が読んだり観たりするのには大人側の判断や説明が必要だと思います。