食べる姿に気をつけたい
夫となる彼の、ラーメンをすする姿を見て、私はこの人とご飯を食べる時に緊張しなくて済む。と思った27年ほど前。
ちょっとオシャレな食事の時も、たぶん互いに思う最低限のマナーはクリアしていて、その後も安心していっしょに食べるようになった。
ニュージャージーで出会った私たち。和食は恋しいもので、総菜のようなおかず類は作れても、ラーメンは店で食べたかった。
ラーメンは、汗が出る。そして鼻水が。出る! 私はその辺が反応しやすいのか、鼻を途中で最低一度はかまないとズルズルがラーメンの音か鼻の音かわからないくらい苦しむ。
女子校では、6年間通ううちの3年目くらいから皆、平気で鼻を人前でもかむようになっていた。当時から花粉症で苦しんでいた子など、ティッシュを箱ごと机の上に常備していたものだ。
でもそのまま大学に上がり、それまでとちがう環境で多くの人と関わるようになると「あれ。人前で鼻かむのって恥ずかしがるものだっけ」と思い出し。また少しは気を遣うようになっていった。ただ温かい物を食べる時のあの鼻ズルズルは、まわりはそれほどひどくないらしく、私一人で盛大にすする羽目に。それも汚いと思うお国柄のところもたくさんあるので、かんだ方が良かったりもする。
で、目の前にいるのは、日本人男性。
豪快に麺をすする行為には私もさすがにちゅうちょなかったけど、彼はペーパータオルで鼻をぬぐい、かんでいた。行儀悪いとはまた違って自然だったので、「鼻出るよね! 私もかめるー」と安心したものだ。
鼻をかむかどうかの話で長くなってしまった。前まではデートしたら緊張して食べれなくなることが度々あったけど、安心して美味しく食べれる相手かどうかは私にとって大事なのだった。
でもそれが当たり前になって何十年。ちょっと気をつけなくちゃなあと思う出来事があった。
夫も私も大変行儀が良いわけでもなく、悪いわけでもない。ふだんは。
時々「ちょっと」と私が注意することもあるけど、私も自分の行儀が悪いなと思う瞬間もある。
私は食欲に勝てなくて時々がつがつ夢中で食べてしまう。我に返った時の恥ずかしさったらない。
遠足の時。バスの中で自分の持ってきた「ポポロン」というミニシュークリームみたいな形状のお菓子が、改めて「めっちゃ美味しいやん」と気づいちゃった。右手と左手でリズム良く口に放り込んでいたら、隣りに座っていた子と目が合った。あきらかに引いている。
私も自分に驚いて、「ハッ」と手を止めた。
大好きなピスタチオの殻を破るのに夢中で、息子も置いてけぼりにしてボリボリ食べていたことがある。
外でゆったりパソコンの作業をする時はコーヒーが中心だけど「ええい。今日はぜいたくするぞ」と思い切って軽食をとる日もある。
ボロボロ崩れてしまうホットドッグだったり、ケーキやスコーンだったり。
そんな日は一人だから、心の中で「わあ。ぼろぼろー」とか「ウィンナーだけ先に終わっちゃった」とか思ってはいるものの、まわりの目など気にしていない。
この前の春。関西に行き、こちらに戻ってくる時に空港内のレストランで見送りに来てくれた両親とお茶を飲んでいたら、父の肩越しに一人でランチを食べている方がいらして。きちんとオシャレして、私よりは少し若い感じの方。その彼女がサンドウィッチを、お腹が空いていたのかかなりがっついていらした。
その姿を見て、ちょっとなんていうか。あの。
うわぁ……。と思ったのだ。
迫力があったというか。まあ。その。
要するにがつがつしてらした。
でも一人で食べてらしたわけで、別に自由だしさ。周りの人の目に入っているなんてきっと思いもよらないのよね。
店を出てから、私と並んでいた母に「お父さんの後ろでサンドウィッチ食べてた人がいたよね」と話すと「あーそうそう、見たよ。すごい食べっぷりだったよね」と言うので、母も見ていたのだ。そして「すごいわあ」と思ったようだった。
意外と人は食べる姿を見られている。
読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。